壱:互いの妖刃.
授業の終業を告げるチャイムが鳴り、教師が出ていく。
辺りはみな騒がしく各々が部活や帰宅やらで盛り上がっている様子の最中、
やはり勇樹は眠気に襲われているのか気だるそうにあたりを見渡していた。
その様子を、後ろから火織が伺っている。
「…五月蠅いなー」
若干、眉間に皺を寄せながら勇樹がそう言うのを見て火織はフッと笑った。
笑われた事に気づいた勇樹は更にムッと口を尖らせる。
それを見た火織は更に口角を上げるものだから、プイと勇樹はそっぽを向いた。
「悪かったって。期限直せよな」
「ふん…知らない。」
子供の様に拗ねる勇樹を見て、火織の脳裏に親戚の小さい甥っ子が脳裏に過ったが
それを言ったら更に気分を損ねるだろう。あえて伏せることにした。
「まあまあ、それは置いといてさ。今日も
にっこりと笑みを浮かべながら、火織は隣に立てかけてあった竹刀入れを指差す。
竹刀入れは黒地の布でできていて、金の美しい糸で繊細な龍の刺繡が施されている。
「火織、君本当に鍛錬が好きなんだねー」
「当たり前だろぉ、妖刃を持つ者である以上強く居たいからな。」
黒い竹刀入れを掴み、持ち上げた火織が満足げにそう言ったのを見て
勇樹は暫く彼を見つめて、何か考えるように顎に手を当てた。
暫くの沈黙…重くも軽くもない何とも言えない空気感が漂う。
「…んー…いいよ」
勇樹はそう言って、ずれ落ちた臙脂色の竹刀入れを拾い上げると
背中に担いだ。竹刀入れには美しい虎の刺繍が刻み込まれている。
立ち上がった二人は、騒いでいる教室のクラスメイトを横目に
そうっと教室から抜け出すことにした。
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和を基調とし、温かみのある木材で建築された廊下を音をたてないように
ゆっくりと静かに足並みをそろえて歩く二人はとある場所を目指していた。
二人の在籍するクラスから遠く離れ、廊下を渡り突き抜けにある階段を
二回昇った先にある”空き教室”だ。埃や黴に塗れているので、早々大掃除か
特別な用事がない限りは教師も生徒も足を踏み入れない二人にとっての
秘密の場所であり、
引き戸をガラガラと、火織が空ける。
すると、畳張りの大部屋が現れた。部屋の壁には牡丹や椿などといった
美しい花々が添えられており、奥には『竜頭蛇尾』と流暢な文字で
刻まれた金箔の掛け軸が掛けられている。
「さ、やろうぜ。」
引き戸を閉じ、入り口の近くに置いてあった突っ掛け棒を扉に挟んだあと
火織は背中に背負っていた竹刀入れを下した。それに続くように勇樹も
竹刀入れを地面にゆっくりと置く。
「わかった…」
畳の部屋に居るので、ゆっくりと勇樹は履いていた上履きを脱ぐ。
そして丁重に部屋の隅へと置いておく。
「先、妖刃出すぜ~」
「はいよー」
火織は、地面に下した竹刀入れの紐を解き布を取り払った。
そこから出てきたのは約85cm程にもなる美しい緋色の刃を持った
大太刀であった。金と黒を模した木工刀鍔、濡烏色の柄が特徴的だ。
丁寧に磨かれており、刃は鏡面の様に辺りを美しく反射している。
「今日も頼むね、
火織はその刀を、愛しい恋人に接するように優しい声色で
剣をゆっくりと撫でて見せる。
勇樹はそれをじっと見ながらそっと呟いた。
「火織って刃には優しいのに、女の子には優しくしないよね」
「なんか言ったか?」
「いえ、何でもないです。」
首を振り、勇樹も竹刀入れから刃を取り出す。
そこから出てきたのは、火織と比べるとやや小さめの打刀が出てきた。
刃は美しい瑠璃色であり、柄は勇樹とよく似た竜胆色をしているが、
やや手入れが滞っているのか若干錆が見受けられる。
「あっ、お前管理サボってんな」
汚れを見つけた火織が、打刀を指さしつつ眉を顰める。
「うるさいなぁ。僕の自由だろう」
そんなことを言いあいながら、二人は刀を持った状態で立ち上がった。
火織は真剣な顔をして、勇樹を見る。
「じゃあ、するか。真中へ移動しよう。」
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