第五章 紡ぐ者(つむぐもの)
重大な会議の打合せ
ローズを引きずりながら、
部屋の前では、屋敷の使用人さん達が待ち構えていた。
「ああ、リリィ様が帰ってこられた。良かった。良かった」
私の姿を見て涙を流してくれている使用人さん達が何人もいた。
「ああ、無事に帰ってこれたよ。みんな心配してくれてありがとな」
「お疲れでしょうから、早く部屋にお入りください」
ようやく、部屋に入ることが出来た。
「ローズ様。お茶をお入れいたしましたので、お召し上がりください」
ずるずると私に引きずられて付いて来るローズを見かねて使用人さんが声をかけた。
「う”ん。飲む」
もう、皇太子妃の威厳も何もありはしない。
結婚前のローズさんの姿がそこにあった。
部屋には、シャトレーヌ婦人も待っていた。
「リーゲ。お疲れさまでした。お役目ご苦労様でした」
そう言うなり、シャトレーヌは親方様に抱き付いていた。
「心配かけたな」
言葉少なに答える親方様。
シャトレーヌとって、大事な人の優先順位は、私は親方様の次にになったようだ。
まるで、少女の様に泣いている。
(シャトレーヌがあんなに泣いているの初めて見たな。ずっと我慢してたんだろうな)
第参部隊の皆を指揮し、千以上もの
そして、それが済むと、休みも取らずに大聖堂へ向かって私を助けに行ったのだ。
親方様の強さを私達は知っているから、あまり心配はしてなかった。
だけど、こんな戦闘を始めて経験するシャトレーヌに取っては、自分の寿命が縮まる思いだっただろう。
万が一の油断で死んでしまうかもしれない。
そう思ったら、怖くて怖くて仕方が無かっただろう。
これは、私がいくら口で説明しても、素直に納得できないのもわかるのだ。
「シャトレーヌ。親方様のお陰で私も無事だったぞ。親方様は強かったぞ」
私は、親方様の胸元で涙を流しているシャトレーヌに声をかけた。
「うん。うん」
目に涙を浮かべながら、私に返事をするシャトレーヌ。
以前だったら、「リリィちゃーん!」とローズの様に駆け寄ってきてたのに、今はとてもしおらしい。
部屋の窓側を見たら、メイの後ろ姿が見えた。
誰か、探しているのか?
「メイ! 来てたのか?」
私は嬉しくて大きな声でメイを呼んだ。
そう言えば、第参部隊の隊員が街に数名待機していたんだ。
戦いが終わったことを知り、連れて来てくれたんだろう。
上司思いの良い部下なのだ。
後で褒めてやらないとな。
「ロ、ローズ、いい加減離すのだ。動けない」
皇太子妃としてのプレッシャーもあったのだろうか?
ローズはすぐ泣くのだが、ここましつこいのは初めてだ。
「無事で。良かった」
メイの方から近寄ってきてくれた。
「うん。軽く叩きのめしてきてやったぞ。メイ」
「ウフフ。そう」
滲んだ涙を拭きとりながら、メイは言う。
「あの剣は、使わずに済んだのね?」
メイが言う。
「うん。私だけじゃなくて、みんながいてくれたからな」
「……」
メイは、その後何も言わず私に頭を寄せて、静かに泣いていた。
「メイ。しばらくは一緒にいてくれるか?」
「うん。いいよ。邪魔じゃなければ……」
「邪魔なんて言わないぞ」
「うん。ありがとう」
こうして、主だった人達との再会が終わった。
ローズは、やっと落ち着いてくれたようで、私を解放してくれた。
「ごめんね」
というローズ。
「まあ、皇太子妃としてのプレッシャーもあったのだろう?」
「うん。例え身を切るような心配していても、それを心配を軽々しく口に出来ないし。駆け寄って励ますことも出来ないし。辛かった」
「フフフ。すぐ泣くローズには、いい薬なのだ」
「まあリリィちゃん、酷い」
そう言うと二人して笑った。
「あ、そうだ。親方様、今何て呼ばれてるか知ってる?」
と、ローズ。
「何だ、いきなり。知らないぞ」
帰って来たばかりなのだから知る由もない。
「あのねー。『皇国の守護神』ってみんな言ってるのよ」
「え? それは、凄いね」
親方様を見ると、シャトレーヌが入れたお茶をゆっくり飲んでいた。
うーん、流石大人の夫婦だ。
もう、落ち着いている。
そこには、メイも一緒に混ざっている。
メイも大人っぽいからな。
あの3人は、話が合いそうだ。
そう言えば、親方様とメイは初対面だったな。
どんな会話をしてるんだろう。
気になるのだ。
「さっきの『皇国の守護神』と呼ばれているのを親方様には伝えたのか?」
私はローズに尋ねた。
「うん」
「それで?」
「……。『そうか』と言っただけ」
少しかっがりぎみのローズ。
「まあ、親方様らしい返事だな」
「そうなの?」
「ガルドと同じ系統だからな。親方様も」
そう私が例えるとローズが笑った。
「フフフフ。そう? そうなの? あのガルドと同じ? へぇ。だから気が合うのね。お二人は」
うむ。なんとか納得してくれたようだ。
「こんちわー!」
ドアを開けるなり大きな挨拶をして入ってくる奴がいた。
ルナだ!
「うわー、皆さん一杯いる!」
相変わらずうるさい奴だ。
「ルナ。今日は良いけど、もっと言葉遣いをだな」
とルナを窘めようとした。
すると。
「ねぇ。姉さま? ちゃんとアミュレットに伝言伝えてくれた?」
「ん?」
「ん、じゃなくて」
「つ、伝えたぞ」
「ほんと――?」
「疑うのか?」
「姉さま、恥ずかしがって伝えてくれないかと心配してたよ――」
「お前が泣いて頼むから」
「泣いてないし」
「もう、あんな恥ずかしい伝言はしないぞ」
「えへへ。わかってるよ。でも、お陰でアミュレットに、姉さま助けてあげてって伝わったから良かった」
「え? なんで? そんなこと一言も入ってないぞ」
「姉さま、わかんないのか――? まだまだだな――、姉さまの妻の道は」
「は?」
からかわれているのか、本当に心配されているのか。
しかし、ルナが部屋に来たのは、これを確認するためだけではない。
後日行われる重大な企画の為の事前の打ち合わせもする為に来ていたのだ。
「ルナ。あの時は叱ったが、良い機会だ。むしろ今しかない。あの件進めて良いぞ」
私はルナを近くに呼んで、小声で話した。
「ほんと? でも、あいつの方は?」
「意見聞く必要あるか?」
「……。無いね」
「だろ?」
「じゃ、色々手配は私がするね。姉さまは、苦手だしね」
「うむ。そこは頼む」
二人して、「ニシシシシ」と笑った。
「あれ、二人何か悪だくみしてる?」
「
「ん。 ルナ、また後でな」
「んん? 何?」
と不思議な顔をしている
すまん旦那様。
これは、とてもとても需要な会議なのだ。
例え最愛の旦那様でも、当日までは秘密なのだ。
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