凱旋
皇国への戻る途中の帝国領内を通るとき、かつて訓練などで訪れた所などを通った。
その時の様々な思いを思い返しながら。
途中途中で、皇国軍の兵士が私を見かけると手を振って挨拶をしてくれる。
帝国領内で戦闘服を着て馬に乗っている女性など、私ぐらいしかいない。
直ぐにリリィだとわかるのだろう。
大聖堂に向かう時は、皆緊張して手を振るどころではなかった。
国境付近に着くと、ここに陣取っていた皇国軍の陣営を訪れた。
部隊長に挨拶をして帰りたかったからである。
私達が到着すると大歓声が湧きおこった。
「おお――。リリィさんだ――!」
私は、恥ずかしくて顔が若干引きつっていたがニコニコと笑顔で手を振る。
「これはこれは。第参部隊のリーゲンダ隊長。初にお目にかかります」
「部隊長殿も、ご苦労様であったな」
親方様が部隊長をねぎらわれた。
「しかし、ものすごい勢いで通過された時は、何事かと思いましたぞ」
「そうか。時間がなかったものでな」
「リリィ殿、お見事でした。無事、アルキナを討ち果たされたそうで」
部隊長が喜んでくれた。
「ああ、やっと片が付いた」
「これで、悪縁が切れましたという事ですかな?」
部隊長がニッコリと微笑んだ。
「まあ、そうだな」
「それは、それは。もう、帰るだけですな」
「そうだな」
「少しゆっくりしていかれてはと思いましたが、今回は我慢することにいたしましょう。待っている方が沢山おられるので」
「ははは。長居してもすることないし」
「いえいえ、宴でもなんでも。あ、いや、これは
「ははは」
(私を囲んで宴? 何するの?)
ここの部隊は、交代の部隊が来るまでは、当面駐留することになると言っていた。
万が一の時は、帝国内に進軍してフェイスを支援する為に待機するのだ。
私と親方様は、部隊長への挨拶を終えると、駐留部隊陣営を後にした。
「リリィ様――!」
「親方様ぁ――! 今度我が部隊の鍛錬をお願いしま――す!」
「次の機会こそ、本にサインをお願いたしま――す!」
駐留部隊の兵士達が、手を振って見送ってくれた。
この駐留部隊の人達は、大きな声で「リリィ様――!」と呼ぶ。
きっとあの部隊長の人柄のせいなんだろう。
皇国領内に入り、ナビ婦人と初めて会った所も通過した。
こんなゆっく皇国領内に入るのは、これが初めてである。
前は潜入だったから、夜中に駆け抜けるように通ったものだ。
ナビ婦人は、不思議な人だった。
私よりも少し年下なのに知略に優れ、女性なのに戦場に平然と居られる胆力もある。
いくら元工作員と言っても、なかなかのものだ。
皇国領内の人達は、戦争が休戦となったのは、まだ知らない。
だけど城の方での戦闘が終わったのは聞いているらしく、みんな普段通りの生活を始めていた。
オルトやルナは、既に城に戻っているようだ。
ところどころに土の山がいくつかあった。
二人がいなければ、私はもっと体力を削られていただろう。
途中で
特に襲撃された様子はなく無事の様である。
これなら直ぐに帰って生活を再開させることが出来そうだ。
城に近づくと流石に私を知っている人が多くなり、「キャーキャー」騒がれるようになった。
しかし、笑顔が引きつる私。
見かけた兵士が私達に駆け寄り、直ぐに報告しますと急いて城に向かって行った。
ようやく城が見えてきた。
城を守っている兵士達も私達に気が付いて歓声を上げていた。
「おおお――! リリィ殿が帰ってこられたぞ――!」
兵士達が口々に叫ぶ。
ルナ、オルト達も入口付近で控えていた。
「親方様、姉様。お帰りなさいませ」
オルトが頭を下げながら言った。
「うむ。オルト、お前も良くやってくれた。メンバーズや隊員を良くまとめてくれた。助かったぞ」
親方様がオルトを褒められた。
「いえ、役目ですので、当然のことです」
オルトよ、そこはありがとうございますだろうに。
「親方様、姉さま。私も頑張りましたよ」
「うむ。大聖堂ではアミュレット殿も大活躍だったぞ」
優しい親方様は、ルナに対しても優しい。
「本当ですか?」
ニコニコしながら返事をするルナ。
(あれ?
「姉さま、
とルナ。
「ん? 別に」
「ちゃんと中で待ってますよ。安心して」
「そんなこと言われなくてもわかっているのだ。うるさい」
ルナに、からかわれながら城内に入っていく。
メンバーズと隊員の一部が、親方様と私の後ろを付いて来ていた。
城内も私達を見て、よりいっそう歓声が上がった。
「わ――! わ――! バンザ――イ! バンザ――イ!」
もう、誰が何を言っているかわからない。
馬を降り、扉から中に入る。
そして、城の広間へ続く廊下に入っていった。
「お帰り」
やっと
「うん。ただいまなのだ」
帰ってこれたのだ。
無事に、五体満足で帰ってこれたのだ。
そう思ったら、目に涙が滲んでしまった。
「大丈夫?」
優しい声で言う
「ん。大丈夫」
「そうか。じゃ、ローズ達も待っているから」
広間では、心配そうな顔をしたローズがドレスを軽く持ち上げ、右へ左へとウロウロしていた。
そのあまりの様子を見られた皇后様に、「ローズ、落ち着きなさい!」と注意されていた。
私の顔を見るとパッと笑顔になって走り寄って来た。
「リリィちゃん! 良かった――。 元気だ――!」
ギューッと顔をくっ付けてきた。
「や、やめるのだ。皇太子妃様が、こんなことするな」
「やだ。やめない!」
ローズは目に涙を浮かべていた。
ニコニコしがなら私達の様子を見ているリンド皇国皇帝陛下と皇后様。
「陛下、皇后様。無事終わりましてございます。詳しい事は、後日フェイス殿下を通じて御報告に上がります」
親方様は深々と礼をして、陛下と皇后様にお伝えしていた。
「二人とも、ご苦労様でした。第参部隊の皆も、本当によく守ってくれた。礼を言う」
陛下が労いの声をかけて下さった。
「帰ったばかりではお疲れでしょう。いったんは部屋に戻り、ゆっくりしてください」
皇后様からも
「はい。ありがとうございます」
そう言って、親方様と私は後ろに下がり広間を後にしようとした。
「陛下、皇后様、わたくし、リリィとしばらく離れたくありません。このまま付いていきます」
と言うローズ。
(え? このまま?)
さっきから抱き付かれたままなのだ。
「ふふふ。リリィさんにご迷惑かけ過ぎないようにね」
皇后様は、嬉しそうな笑顔をしていた。
(は、離れるのだ!)
小さな声で言うが、涙目のローズは、嫌だ嫌だと言ってずるずると付いてきた。
「
しかし、
「まあ。ずっと心配して我慢していてくれたんだから、これは許してあげて」
そう言えば、皇国首都が爆破されかかった時も、こんな風に抱き付かれて放してくれなかったな。
そんな、ちょっと懐かしいことを思い出した。
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