大聖堂前
私が元居た古巣。元居た場所。
そこへ向かって、そこへ馬に乗って私は向かっている。
そして、私を愛してくれた
それは……。
『転移魔法大聖堂』
帝国が長年研究を重ね、多くの非人道的な犠牲者を出しながら作り上げた巨大魔法道具だ。
この世界だけでなく、別の次元の世界にも大きく影響を与えかねないものだ。
この破壊を、私一人に任されている。
破壊できていれば、連絡があるはずだ。
それが無いという事は、ガルド達ですら攻略できずにいることになる。
(私が行って、素直に入れてくれるのかな?)
どうして、アルキナが私に拘る?
どうして、帝国皇帝は、一人の小説家と一人の暗殺者に、帝国の名で抹殺命令を出すという事までするのか?
その後の、暗殺行為。
それが失敗したせいなのかわからないけど、皇国への宣戦布告。
(不老不死に私が何の関係があるというの? 魔法なんて使えないのに)
のこのこと大聖堂に向かうのは、ひょっとして愚かな行為なのか?
しかし、大聖堂が結界を張れば、あらゆる物理攻撃が効かない。
そして、転移魔法を使えるから、内部から戦力を次々と送り出せる。
アルキナが私に拘っている今しか、内部に入れるチャンスが無いのだ。
帝国領内で、いくつか戦闘した後が散見される。
あまり火器は使わなかったのだろうか?
時折、帝国国民の人を見かけたが、流石にリリィだと気が付くものはいない。
帝国領内で、私の顔を知っている人は少ないからな。
段々と、激しい戦闘の音が聞こえてきた。
大聖堂に近づいてきたのだ。
帝国、皇国双方ともに、首都への攻撃を仕掛け、また仕掛けられている。
転移魔法は、この時代の戦略、戦術を、大きく変えてしまっていた。
フェイスが危険視するわけである。
さすが先見の明があるなフェイスは。
うぉ――、うぉ――っと激しい声を上げて戦っている集団が見えてきた。
皇太子特殊守備隊の第一部隊と第二部隊の隊員達だ。
かなり苦戦しているようだ。
数が多いうえに、強さもそこそこ。
ルナの解釈で尺にしゃわるが、
私は苦戦している集団を見つけたので、そこに突入した。
「!」
私が、アルキナ・
「こ、これは、リリィ殿!」
「戦況は、どうか? ガルド大隊長はどこにいる?」
「どうか、このまま大聖堂に向かって進んでください。途中の戦闘は無視して構わないと伝えろと、ガルド大隊長より指示を受けております」
「いや、さして時間かからないから、途中のは片づけていく」
「かたじけないです」
そこにいた数体をかたずけて、私は大聖堂へ急いだ。
一人で大人数の
ガルドだ。
別の所には、第一部隊隊長のアミュレットと第二部隊隊長の二人。
流石に、親方様みたいに一人でとう感じにはいかないようだが、この三人は流石である。
そして、
だが、攻撃が当たるかと思った瞬間に、大聖堂が張った結界が現れ、見えない城壁の様に攻撃を跳ね返していた。
これでは、内部にすら突入できない。
特殊守備隊は、このままでは体力を削られ続け、ジリ貧となってしまう。
「リリィ――ちゃ――ん! よく来たねー! 会いたかったよー!」
そう言って、
(とりあえず、こいつらは無視)
私はガルドとの合流を優先するために、奴らが下りてくる前に突っ切って行った。
「ガルド!」
私はガルドに声をかけた。
そして、後ろを振り返り、先ほど追ってきた
「リリィ殿来たか。ちょっと遅かったな」
「すまない。途中、途中で、こいつらが沸いてくるんだ。領内では流石に放置できないので相手していて遅れた」
「まあ、そうだろうな。アミュレット! リリィ殿を案内してやれ!」
ガルドは、戦闘中のアミュレットに声をかけた。
「了解です! リリィさん、付いて来てください!」
そう言って、アミュレットは突入しようとしている正面からいったん外れ、裏手に回るように私を案内した。
何体か私にまとわりつこうとしてきたが、第一部隊の隊員が間に入って振り払ってくれた。
そこは、不自然に人が少なかった。
いや、私が着たから急に手薄にしたのか?
「やっぱり、リリィさんを待っていたみたいですね。ここも、
「そうか。無理に攻撃を仕掛けているようだが、大丈夫なのか?」
「リリィさん。これも、皇国領内への転移を減らすためなんですよ」
「なるほど。だから、アチコチにアルキナのクローンや
「お? よかった。効果があって」
アミュレットは爽やかな笑顔で答えた。
「大聖堂の構造は、御存じですか? リリィさん」
「うん、わかってる。あそこが裏手だろう? この隠し扉から入るんだ」
「流石に詳しいですね」
「まあな。
「なるほどぉ」
そこへガルドもやって来た。
「ガルド大隊長? 大丈夫ですか? あいつ一人残してきて」
アミュレットが、残された第二部隊隊長の事を気遣って言う。
「まあ、少しぐらいなら大丈夫だろう」
ちょっと、あの第二部隊の隊長さん、可哀そうになってきたな。
「リリィ殿。侵入した後は、くれぐれも慎重にな。中に入れば、我々は一切支援できない」
ガルドが、私の心配をしてくれた。
「心配してくれるのか? 嬉しいな」
「まあな。大の男三人が入れずに、二十歳そこそこの娘を単身向かわせるのだからな」
ガルドって、親戚の叔父さんみたいな心配の仕方をするんだな。
「大丈夫だぞ。じゃ、行ってくる」
「うむ、気を付けてな」
私は中に入ろうとして、ある大事なことを思い出した。
「あ、そう言えば、アミュレット。ルナから伝言を預かっているんだが」
「え? うちの嫁さんから? 何で、こんな時に?」
「な、そう思うだろ?」
「で、なんです。伝言って……」
「い、いや。その……。あ……、あ……って」
「え? 今何て言いました?」
ああもう、時間が無い。
私は、意を決して伝えることにした。
「ルナがな。『アミュレット、愛してる』って伝えてくれって頼まれた」
すると、アミュレットは、目が点になっていた。
「あははは。何か遺言でも伝えてきたのかと思ったら、そんな事を」
爽やかな笑顔でアミュレットは笑った。
「つ、伝えたからな。じゃ、行ってくる」
「はい。伝言ありがとうございます。お気を付けて!」
「うむ」
そう言って、隠し扉に近づいて私は大きな声を出した。
「アルキナ――! 来てやったぞ――! 聞こえているんだろ――! 裏の隠し扉の周りの結界を開けろ――!」
隠し扉の周りの空間が少し歪むような感じになって、やがて人ひとり通れる穴のような空間が現れた。
ガルドやアミュレットに入られないよう用心しているのだろう。
私は、躊躇することなく、そのから入り隠し扉を開けて中に入っていった。
結界の空間は、私が通り過ぎると直ぐに強化された。
ガルドとアミュレットが、その瞬間を狙って入り込もうとしたが、突き出した剣は弾かれてしまっていた。
「クソッ!」
悔しそうな顔をするアミュレット。
「無理はしないでくださいよ! リリィさん!」
心配そうな顔をして、アミュレットが言う。
一方ガルドの方は、いつもの様に仏頂面で私を見送くれた。
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