第四章 最終決戦、転移魔法大聖堂を破壊せよ

皇国のヒロイン、リリィ殿!

「懐かしいな。もう、二度と来ることはないと覚悟して出てきたのにな。こんな形でまた里帰りすることになるんなんて」


 皇国と帝国の国境に差し掛かってきて、ようやく自分が育ってきた帝国領が見えてきた。


「このあたりも訓練とかできたことあったな。懐かしい」


 国境に陣取っていた皇国軍が見えてきた。

 大部隊とは言えないが、それなりの数が陣取っていた。


「まずは、あそこで情報を確認しよう」

 私は、馬を国境で展開し待機している部隊に向かて進めた。


「おい! 誰か来たぞ?」

「あ、あれは? リリィ殿だ。 おい! 隊長に知らせろ! リリィ殿が来られたぞと」

 見張りの兵隊が私を見つけ、部隊の仲間に声をかけているのが聞こえた。


「リリィ殿、こちらに!」

 私は兵隊の指示した場所に馬の足を止めた。

 そして、自分の荷物を下ろし、駆け寄ってきた兵士に馬を預けた。

「ここら辺の帝国軍はどうなっている? どこまで押し返したのか? フェイス殿下は? それと、新しい馬を借りたい。城からずっと走らせてきているの」

「ハッ! それも含めまして、隊長殿からご説明があるかと。馬の方は、私ので手配しておきます」

 この拠点の本部と思われるテントに案内された。

 

 テントに近づくと入口で警備している兵が敬礼し、テントに向かって声をかけた。

「隊長! リリィ殿が参られました!」

「お入り頂け」

「ハッ! リリィ殿、どうぞ中に」

「うん。すまないな」

「ハッ!」


 中に入ると、ここの部隊長が立ち上がり敬礼をしてきた。


「これは、休みもなく来られて、お疲れではありませんか?」

「私は大丈夫だが、馬が流石にな。一番頑張って走ってくれたのか、お馬さんの方だからな」

「ハハハ。馬もさぞや誇りに思っておりましょう。直ぐ、代わりの馬もお渡しいたしましょう」

「かたじけない」

「では、急いでおられると思うので、手短に状況を説明させていただきます」


 その部隊長は、国境にフェイス率いる主力が来た時と、そして帝国軍を押し返して帝国領内深く侵入していった経緯を説明してくれた。


「殿下が、先頭にか?」

 フェイスの現場主義も大外にしないと、守る兵士も大変だろうに。


「いや、帝国側の皇帝が行方知れずなので、やむを得ないと聞いております。戦闘を拡大させないために、交渉できるものを片っ端から探して、停戦させたりされておられるようです」

「説得しているのか?」

「はい。こちらとしては、帝国に攻め入るのは本意ではないと。現場の指揮官を捕まえては交渉しておられました」

 おかしい。

 帝国軍は、もっと強いはずだ。

 徹底抗戦されていれば、フェイスも帝国領内には入っていけなかったはず。


「帝国軍の士気が落ちているのか?」

 と、私は尋ねた。

「はい。対峙した私の目から見ても、戦う気満々といった感じはしませんでしたな」

「なるほど。では、帝国領内へは、護衛無しでも入っていけるのだな?」

「はい。そのルートを確保するのが、ここに来た我らの目的ですので。ルート沿いに連絡を取り、退路が断たれることの無いように気を配っております。何せ、敵の領内深くに進むのですからな。気を引き締めなければ、殿下が人質になってしまいます」

 なるほど、それは助かるな。

「ガルド隊長も殿下と御一緒ですか?」

「ええ、もちろん。ただし、御存じの通り、ガルド隊長は大聖堂の攻撃に向かわれたと思います。殿下は、帝国首都の城の方に」

「うん。わかった」

「ただし、大聖堂がまだ機能しておりますのでお気を付けください。こちらの来る途中も遭遇したかと思います。仮に大聖堂を使わなくても、帝国領内です。奴らのクローンや傀儡ググツが現れて来ることは十分あることなので」

「わかっている」

「では、剣や装備などで交換や補充は大丈夫ですか?」

「ああ、新しい剣に変えてくれ。もう、ボロボロだ。引っ叩くだけだから、いっそのこと鉄の棒でも構わないんだが、バランスがあるので」

「ハハハ。こ、これは凄いですな。刃が殆どないではないですか? わかりました。なるべく頑丈な物を渡す様にさせましょう。では、参りましょう」

 そう言って部隊長は、私と一緒にテントを出た。


 テントを出ると、人だかりが出来ていた。

 

「おお! あれがリリィ殿か? 実物始めて見たぞ! お美しい」

「おい! そこをどけ! 見えないぞ!」

「あの方が『冥府の舞姫』か? 生きて姿を拝見出来るなんて良い時代になったものだ!」

「リリィ殿! 御友人が務めておられる軽食屋に、私も寄らせてもらいましたぞ!」

「あの、言辞ゲンジの書いた本にリリィ殿のサインを! 家宝にしたいのです」

 

 周りを警戒して配置についていた兵士達が沢山群がっていた。

 

「!」

(え? 美しい? そんな事言われたの初めてなのだ。強いとか、可愛いとかは言われて事あったけど。それに、本にサインて何? 何かの契約でもさせるの?)

 

「な、何をしている。こんなに群がって。お前達、下品にも程があるぞ!」

「隊長殿! 我が国のヒロインを独り占めはいけませんな。軍法会議物ですぞ!」

「あははは」

 皆、一斉に笑い出した。


(は、恥ずかしい。私がヒロインって。確かに、言辞ゲンジが書いた恋愛小説のヒロインのモデルは私だけど)

 ダメなのだ。

 憎まれたり、嫌われたり、邪険に扱われるのは平気なのだが、褒められるのは。

 言辞ゲンジが、「好きだ! 好きだ!」と小説に書いて寄こした時は、何かの呪いでもかけられたかと思うくらい大変だったのだ。

 おかげで、ポンコツ扱いされてしまうし。


「ええい、みんな持ち場に戻れ! リリィ殿が困っておるではないか?」

 固まってしまっている私を見て、部隊長さんが周りの兵達をたしなめた。


「申し訳ありませんな。皆、今回の帝国皇帝の横暴には、腹を立てておりましてな。『我が皇国のヒロイン殿』と共に一矢報いる事が出来ると喜んでおるのですよ。 おい! リリィ殿に新しい馬と剣を! 大至急だ!」

 

「ハッ! こちらに!」

 

「リリィ殿。どうかご無事で。いくらあなたが強いとはいえ、無限に戦えるわけではありませんでしょう。帝国皇帝が、しつこく拘るのが私には理解できません。ですがリリィ殿、悪縁は断ち切って下さいませ」

「うん。ありがとう」

「では、門の所までは案内させてください」

 そう言って、部隊長は部隊の門の所まで一緒についてきた。


「補給は助かった。この地の守備はお願いします」

「お任せください。我が部隊の誇りにかけて、決して退路が塞がれることの無いように守って見せますぞ」

「頼もしいな。では!」

 私は、軽くお辞儀をして、馬を大聖堂の方に向け走らせた。


 後ろか部隊の兵達の歓声が聞こえてきた。

 

「リリィ様――!」

「愛しておりま~す。リリィ様ぁ――!」

「あの、サインを――! 本にサインを――!」

「いつか、旦那様とメンバーズの方々と一緒に我が部隊へお寄りくださ――い! いつまでも、待っておりますぞ――!」

言辞ゲンジ大先生に、次の本が出るのを楽しみにしておりますとお伝えくださ――い!」



 や、やめて。

 そんな大声で。

 恥ずかしいのだ。

 

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