二人の皇国の魔女
ナビ婦人の隊列を横目にし、私とルナは大聖堂へ向かって馬を進めた。
「ねぇ、姉さま。あのナビって人、どういう人?」
「さあ、私も初めて会った。あの人の旦那様が私の怪我の手当をしてくれた貴族の御医者様だったんだって」
「へぇ? そうなの。貴族の御医者様の奥さんにしては、ちょっと肝っ玉すわってない? 戦闘中の国で物資運ぶ部隊と一緒に移動するなんて」
「元皇国の工作員だったんだって。私と帝国で会った事あるらしい」
「え? どこで?」
「……。言いたくない」
「ええ? なんで?」
「とにかく、フェイスや
「へぇ。元工作員か? どおりで。そうか、フェイス様や
「らしいな。私が詳しく聞いとらん。後で、二人を問い詰めないと」
「あはは。姉さま、嫉妬?」
「ふん! どうとでも取れば」
「でも、来たばかりの
「……。確かに、そうかもな」
(そうか、じゃ怒るのはやめておこう。怒るのは)
「それにしても、親方様を出し抜いて工作活動出来る子なんて凄いねぇ」
そうして、馬の足を進めていると、前の方が景色が揺らぎ霧のようなモヤが現れてきた。
(来たな!)
そのまま突っ込むのも無謀なので、その霧をさけるように回避することにした。
(そのまま突っ込んだら、もしかして大聖堂に行ける? やっぱりやめとくか)
城の時はルナと二手に分かれてたが今回は一緒に行動する。
私が大聖堂に向かうのが第一優先だからだ。
ガキン!
ルナが馬上から剣を受け流していた。
(なるほど、まずは、ルナを先に狙ってきたか。あいつは、アルキナのクローンの方だな。私が来るのは大歓迎だが、ルナにまで来て欲しくないってことなのかな?)
私の頭上には大量のアルキナ・
(こっちは、時間稼ぎ? 誘っているくせに、めんどくさい奴らだな)
私は馬の上に足を揃えて立ち、そのまま両手に剣を構えて進む。
そして、馬に負担をかけない為に気を付けながら、後ろにスッとズレて着地した。
そして、それと同時に上に跳ね上がる。
「!」
襲い掛かってこようとしていた
相手は
奴らが私を身近に目にしたときには、数体の
また、別の所では、私の剣を受け流そうとして叶わず、弾き飛ばされる
着地すると同時に何体かこっちに来た。
身を低くし、まず右から!
「お、おのれ。リリィ!」
その
次、左。
次、後ろ。
次は、前。
そして右を倒し、そのまま突き進む。
「く、くそぅ」
悔しがる
「本当に、姉さま相手だと、こいつら良くしゃべるのね」
ルナが同じように相手にしながら、私の方を見て感想を述べた。
「ねぇ。私もちゃんと相手してよ!」
そう言って、ルナはアルキナ・クローンに切りかかった。
「ック!」
その重い剣圧に、思わず声を漏らすクローン。
「アハッ! やっと喋った――!」
ちょっと喜ぶルナ。
「ちょっとルナ、ちゃんとやれ!」
ちょっと遊びすぎだな、ルナさんは。
あんまり、時間をかけてられないのを忘れたか?
「だって、こいつ姉さまと同じくらい強いんでしょう? 姉さまとは、本気でやり合ったことなかったから楽しくて」
「ん? それは、私と戦ってみたかったって事か?」
「違う違う。違うよぉ」
そう言いながら、結構いい勝負をしている。
剣技だけなら、私とルナは多少しか変わらない。
しかし、私の場合は、そこからのブーストがあるのだ。
それは、戦闘が始まる前夜に、親方様からなるべく使うなとお願いされているやつだ。
遊んでいるとはいえ、しっかり打ち込んではいる。
だが、アルキナ・クローンもなかなか強い。
アルキナ・
「あーもう、なにこれ。土人形の癖に、
あと一歩という所で、
普通の奴らだった、無視できるか、かわして切りに行けるのだが、そこは腐ってもアルキナ使った
ガシッと腰を据えて切らないといけないぐらいの技量はあるのだ。
いや、土だから腐ってはいないか。
私も、ルナに近づきたいのだが、そうさせてもらえない。
これを親方様は、もっとたくさん。
今も、こなされている。
ちゃんと休息取れんているのだろうか?
しかし、ジリジリと間を詰めていく私。
そうしていると、もう一人のアルキナ・クローンが私の方にも、ようやくやって来た。
(もう一人、中に
「リリィちゃん! ルナの事なんかほっておいて、僕と遊ぼうよ!」
しかし、私は振り向きざまに、両手の剣でアルキナ・クローンを横から切りに行った。
「オワッ!」
慌ててそれを受けるアルキナ・クローン。
「チッ!」
思わず、私は舌打ちした。
結構しっかり振り切ったつもりだったのだが、受けられてしまったのだ。
しかし、私は間髪を入れずに、どんどん打ち込んでいく。
必死になって、私の剣をさばこうとするアルキナ・クローン。
「どうした? アルキナ! さっきの余裕は、どこに行った?」
私は、必死になって私の剣を受け流しているアルキナに言った。
左右や後ろ、たまに上からと、群がってくるアルキナ・
それを、さばきながらもジリジリと追い詰めていく。
「……!」
どうやら、喋る余裕も無くなったようだ。
いつの間にか仮面が外れたアルキナ・クローンの顔が、必死な形相にみるみる変わっていく。
「どうした? 喋る余裕もなくなったか?」
「むぅぅぅ!」
渾身の力で、私に剣を振るうが、私は難なくかわす。
そして、その返しでアルキナ・クローンに打ち返していく。
カキッーン!
ついに、アルキナ・クローンの持っていた剣が、奴の手から離れた。
「ひ、ひぃっ!」
その悲鳴を聞いた瞬間、私はアルキナ・クローンの
「グッヘッ!」
白目を向き、崩れるように倒れるアルキナ・クローン。
私は振り切りながら、剣の向きを横にし、重い鉄棒の様にして奴の腹をぶっ叩いてやったのだった。
「すげぇ!」
それを見ていたルナが、驚いて声を上げる。
「ちょっとルナ! 何? その下品な言葉。それにそっち、まだかかるの?」
「えへへ。ちょっと、遊びすぎちゃったかな?」
そう言うと、ルナもスピードを上げて、切りかかっていく。
それを必死にかわすアルキナ・クローン。
「これで最後ね」
そう言って、アルキナ・クローンの左下に入り込むルナ。
「!」
アルキナ・クローンが気が付いて距離を取ろうとした、その瞬間。
ルナの剣がアルキナ・クローンの正面から頭を引っ叩いていた。
「……」
こいつは仮面が外れていないので表情まではわからないが、多分白目を向いていたと思う。
そのまま後ろにドンッと倒れた。
「ふぅ。終わった――!」
まるで、力仕事でも終わったかのように爽やかな笑顔をする、ルナ。
気が付くと、周りは伸びたアルキナ・クローンが二人。
後は、元アルキナ・
「この土、安全なのかなぁ?」
突然妙な事を言い出すルナ。
「さぁ。でも帝国の土なんでしょう? 変な土じゃないと思うけど」
霧の中から出てきたアルキナ・クローン&
「お馬さん、どこ行っちゃったのかなぁ? あ、いたいた!」
ルナが、あたりを見回す。
離れたところにいた馬達が、安全とわかったのか近くまで戻ってきてくれていた。
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