闇とのケジメ、そして戦闘開始前夜
「失礼する。私だ」
あ、親方様だ!
それに、シャトレーヌもいる!
「リリィちゃん元気?」
「お、親方様、どうぞ、こちらに!」
私は、シャトレーヌへの挨拶の返しもせずに、親方様を席に案内しようとした。
「リリィ、落ち着け」
親方様に注意されてしまった。
「あ、すいません。シャトレーヌ、この通り元気だぞ」
「うふふ。良かった」
すっかり、婦人というのが似合う雰囲気を出すシャトレーヌ。
さすが、大人の女性なのだ。
シャトレーヌも、この城内に退避して来ていた。
まだ親方様と結婚していないが、少なくとも元帝国の人間でもあり、私と大いにかかわっている。
だから、安全を取った。
ルナは先に疎開していたため、そのままとした。
ちょっと心配ではあるが、後から迎えに行って連れてくると、ルナの周りの人へのも危害が広がるといけないのでやめた。
どのみち、第参部隊からも何名かの人間を街に待機させている。
万が一の時は、どこかに匿う算段となっている。
「
「なんでしょう?」
「あなた、私も一緒に聞いて大丈夫な話ですか?」
と、シャトレーヌが親方様に質問した。
「うむ。構わない。一緒に聞いてくれ」
「わかりました」
うーん。
親方様とシャトレーヌが夫婦の会話を。
こんな日が来るとは思わなかった。
シャトレーヌは、親方様の事を『あなた』って呼ぶのか?
私だったら、ちょっと照れ臭いな。
それとも、親方様の名前、秘密にしたいからなのかな?
「リリィの『能力』についてだ」
「私の、『能力』?」
そう言われて、私も
「
「そうなんですか?」
「リリィも深く自覚はなかったと思うが、本当に力を発揮しだすとトランス状態のようになり、異常な身体『能力』を発揮するようになる。それは常人が追いつけるようなものではない」
確かに私も無自覚だったが、自分的には普段より集中力が増している感じにしか思っていなかった。
「しかし、それは、その分寿命の先食いのような事を起こしている。どこからか補給する事がないのなら、そうなってしまう」
親方様は、続けて説明された。
「え? じゃ、あまり強い敵と戦い続けると……」
「そうだ。最悪の事態も避けられない」
「でも、今まで大丈夫だったよね? リリィ?」
と私に尋ねる
「う、うん。別に平気だったけど」
すると、親方様は、こう話した。
「今までは、対象の多くが非戦闘員であったからだ。正面から相手と戦うということは、少なかったからな。全力を出し切ることは稀であったろう」
「じゃ、今回の戦いは? アルキナはリリィに近い強さなんですよね?」
「そうだ。そして、そのクローンと
「では、全力を出さなければならない状況で戦わせ、リリィの特殊な力を浪費させて、弱った時に拉致とか殺しに来たりとか」
「そうだな。そう考えるのが自然だろう」
「じゃ、大聖堂に行かせるのは……」
「わかっている。だが、他に方法がない。だから、私は出来る限り皇国内でクローンを倒してからリリィを向かわせようと考えたわけだ。
「そ、そうですか?」
少し寂しそうな顔をする
「
「う、うん」
と返事をする
「リリィよ、確かにそうだが、お前にも『その力』をあまり使うことの無いようにせよ。これは命令ではない。お願いになる。使わずに済むかどうか、状況次第になるからな」
「あ、はい。わかりました」
私は返事をした。
「
シャトレーヌが
「うん。ありがとう。きっと、力を出し切らないといけない戦闘自体が、今まで早々無かったことなんでしょうね。だから、どうなるか見えないと……」
「そうだな。それに、恐らく私は
「あ、そういう事ですか? クローンの方は、リリィやメンバーズの方々。大量の
「そうだ」
「その数は?」
「そこは見えていなくてな。だが、十体や二十体程度ではないだろうな。百体程度で済めば助かるが」
「親方様の負担も、相当なものになりませんか?」
「それは、いつもの事だ。なぁ、リリィ」
親方様は、にこやかな笑顔で私に同意を求めてきた。
「はい。親方様その通りです。
「リリィちゃんも、無理はしないでね」
シャトレーヌも、大量の
親方様が話をしている時、シャトレーヌは親方様の服の裾の
本当は、心配でしょうがないのだ。
しかし、それで親方様の判断を狂わせたくないと思ったのだろう。
親方様には気づかれない様に、服の端を握っている。
親方様は気づいているかもしれないが。
「良いか、リリィ! 今度こそ、帝国との悪しき縁を断ち切れ!
「はい、親方様」
「リリィ! 己の闇とのケジメをつけ、自分の未来を掴み取るが良い」
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