ルナ(元帝国暗殺部隊 第一位(過去))

 ルナが、ようやくアミュレットの所から帰って来た。

 ルナにしてみれば、元同僚が旦那に迷惑かけたのだから、それは心配だろう。

 

 それにしても、刺客がフェイスやローズ達に向かわなくて良かった。

 そうしたら、親方様も守りに行きにくい。

 ガルド達守備隊との立場を考えながら行動しなければならない。

 あちらは、私達の屋敷よりも本気で守っているのでやりにくいだろう。

 実際に襲われてたら、守備隊の何人かは亡くなっていただろう。


 ガルドにしても、本気でアミュレット達の失態として怒っているわけじゃない。

 立場上、怒らなくてはいけない。

 頑張れば防げるかもしれない。

 不眠不休で、国中全ての場所に人員を配置すれば。


 ルナも、それをわからないわけじゃないけど、大好きなアミュレットが怒られたので心配なのだ。


 にしてもだ。


 オルトに押し付けた状態で、メイとかに話しているのは何だ?


 メイは知らない方が嫌だと言ってくれたが。


「ルナ、ちょっとこっち来るのだ」

 戻ってきて私の警護についたルナをベッドの横に呼び寄せた。

 怪我も完治してきて起き上がれるのだが、オルトが……、もういいや。


「なぁに? 姉さま!」

 ニコニコしながらやってくる。

「アミュレットさんは、どうだった?」

 いきなり怒っては、いけない。

 まずは、部下への気遣いから……。

 

「行ったらねぇ。『何で、今来たんだ? 任務はどうした?』って、怒られました」

 それは、そうだろう。

 

 事の経緯は、親方様から説明がされている。

 元帝国暗殺部隊・第一位だったルナにも、活躍してもらわなくてはならない。

 元帝国暗殺部隊のメンバーズ以外では、一人では太刀打ち出来ない相手なのだ。

 ルナが、寿退社でメンバーズから外れたのもちょっと前の事だ。

 

「そうか。心配して行ったのに、ちょっと残念だったな。でも、アミュレットさんも何で来たのかは伝わってると思うから安心しろ」

 ルナにとっても、旦那様のアミュレットは唯一の身内だ。

 私のとっての言辞ゲンジと一緒で。

 アミュレットは皇国の騎士だから、ルナは申し訳なくて仕方がなかっただろう。

 そういう意味では、アミュレットも少し優しい言葉かけてあげても良かったのではと思う。


「あ、大丈夫よ。姉さま。怖い顔で言われたんじゃなくて、『しょうがない奴だな』という感じで言われたから」

「あ、はい。そうですか? それは、良かったのだ」

 何だ、のろ気だったのか?


「で、もうひとつ、言いたいことが……」

 と、私が言いかけると。

「あ、メイさんのことね? 屋敷に来たんでしょ? 知らせておいた」

「あ、あのな――」

 得意げに言うルナに、困惑する私。

「だって、今の姉さまには必要な人でしょ? だから、伝えたの。あのまま疎開してしったら、ずっと心配しっぱなしでしょ? それ、嫌じゃない?」

「ムムム」

 言い負かされそう。

「しかしだな。メイは、普通の街の女の子だ。政治的な絡みの問題に巻き込みたく……」

 そう、私が言いかけると。

言辞ゲンジさんとリリィ姉さまと、個人的な関わりを持とうとすることは、もう無関係じゃいられないよね? アルキナの糞野郎みたいな奴らが配慮してくれるわけないじゃん」

「うーむ」

 負けそう。

 がんばれ私。

「あれ? じゃ、シャトレーヌにも……」

「うん、伝えた」

 あー、やっぱり。

「だって、言辞ゲンジさんからも頼まれてたし」

「え? そうなの?」

「メイさんは、お友達だから遠慮してたけどシャトレーヌさんは違うでしょ? お母さん? みたいな?」

 と、可愛く装いながら小首をかしげて言うルナ。

「お母さんじゃない!」

 私は否定した。

「ええ? それ、姉さまだけじゃない? まだ、認めないの?」

「うう」

 こちらに来た当初、女の子らしい常識や意識を持っていない私に、私がわかる範囲で教えてくれたのはシャトレーヌだ。

 うっかり連れてきて運命を変えちゃったから、出来れば平穏な生活に戻って欲しいと思い、母親の様に慕う事は控えていた。

 親の顔知らない私は、どう接してよいかわかってないけど。


「もういい、伝えたいことは以上です。任務に戻って」

 はぁ。言い負かされてしまった。


「は――い、姉さま。あ、それと――」

 一度戻りかけたが、何か思い出したらしい。

「なんだ?」

「メイさん、オルトの事、どう思ってるのかなぁ?」

「ん?」

「ほら、使用人さん達に聞いたら、オルトには初めて会うのに自分か声かけて話してたらしいじゃん」

「じゃんって、何だよ」

「なんか――、良い感じだったって? 姉様から見てどうだった?」

「は? 私に聞くな。ローズやシャトレーヌじゃないんだから、私はわからん」

「あ――。姉さまは、『鈍感系ヒロインさん』だ。言辞ゲンジさんも苦労するわぁ」

 メイは、残念そうな顔をした。

「は?」

 また、言辞ゲンジから余計な知識を仕入れてきたな。

 

「私、オルトとメイさん、お似合いだと思う。姉さま、どうかな?」

 目の前が真っ暗になる気がした。

 ちょっと、まさか?


「ルナ。もしかして、オルトとメイをくっ付けようとしてるのか?」

 すると、ルナはパッと明るい顔をした。


「あ、流石に姉さまにもわかるんだ。そうだよ。良いと思わない?」

「ば、馬鹿!」

 私は、屋敷中に響くような大きな声で怒ってしまった。


 ルナは、しょんぼりした顔で配置に戻った。

「お似合いだと思うんだけどなぁ」

 と、捨て台詞を残して。


 ルナに言われ思い返してみれば、メイはオルトの事を出会った時から意識していたような。

 

(え? また、うちの元帝国の人間が、皇国の人と? ええ?)

 私は、このままだとメイとの関係を切らなくてはならないとも考えていた。

 帝国との紛争に巻き込ませたくなかったからだ。

 

(オルトが旦那になればいけるかな? いや、何考えてんだ私。メイは普通の子だぞ。ご両親や親戚が心配するぞ)

 

「……。もういいや、この際だから、ルナに聞いてこさせておこう」


(ん? オルトの意見? うーん、いらないかな)

 

 いずれにしても、帝国とケリを付けてからになりそうだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る