メイの覚悟
「ねぇ、リリィ。それと、もうひとつ言っておきたいことがあるの」
「何だ?」
さっきまで、冗談も交えながら話をしていたが、そろそろ帰る時間なのだろうか?
少し覚悟を決めたような顔をして、メイは話し始めた。
「あの。もしも、リリィが人を殺さなければならない時。その時は、決して
ああ、そういうことか。
私が、国の兵士だったら戦争でもない限り、自分から手をかけるということはしないで済む。
しかし、暗殺を生業として来た私達の様な人間は、平時とかでも必要とあらば殺してきた。
もちろん、国の命令だけど、それが公になることはないから普通の人からしたら殺人鬼と大差ないだろう。
私は、棚の上に飾ってあるケースを見た。
結婚式の時にガルドがケースに入れて以来、その蓋を開けていない。
ガルドは、あの時の約束をちゃんと守ってくれている。
「あれなの? リリィの短剣は?」
「うん。そうだな」
「前は、
「まあ、物騒だし、
「ええ、何か軽い」
「しょうがないのだ」
「皆さんの仮面は?」
「ん? メンバーズと皆が呼んでいる子達のか? あれは、書斎だな」
「あれは、良いんだ」
「だって、
「まあ、影響与えたのはリリィだけじゃないからね。それを忘れたくないのかな?」
「それは、それで嬉しいのだが、私の短剣だけここなのは少し不満だったぞ」
「まあ、そうね?」
「けど、あれで長い事自分を守って来たからな。今回の事件で、寝室に有った方が良かったと思ったな」
「あなただけね、あれ見て安心して寝られるという人は」
メイは、優しく微笑んでくれた。
「話、それてしまったな」
「あはは。そうね。御免ね」
「メイ、大丈夫だぞ。私は負けない。アルキナなんかに。それよりも、私の関係ある人達に危険が及ぶ方が困るな」
「大丈夫よ。私の周りのみんな。リリィ達の味方よ。
「あいつも、メイみたいな街娘に惚れてれば、こんな目に遭わなかったのにな」
「まあ。それ、褒めてないよね?」
「私はクールビューティーだからな。
「また、変な単語を。
「もっと根掘り葉掘り聞いてるのはルナだぞ。私はちょっとだけだ」
「また、脱線しちゃった。じゃ、もう帰るね。今度会いにこれるのは、ひょっとしたら戦争後になっちゃうかもしれないけど」
「その言い方は、一仕事終えてから会いましょうと言う感じに聞こえるな」
「過信かもしれないけど、信じてるから。リリィの事。リリィのお仲間さん達の事も」
「ありがとな」
「あ、あの……」
「なんだ。まだあるのか?」
「あのオルトという方も、最前線で戦うの?」
メイは私から視線を少しそらして、オルトの事を聞いてきた。
「うん、あいつはメンバーズ筆頭だからな。親方様の補佐として、元帝国暗殺部隊を束ねていかないといけない。だから、当然だ。メイ、オルトに何かあるのか?」
「ううん。さっき見かけたから、気になっただけ。じゃあね」
「そうか、気になっただけか。わかった。じゃ、帰りは仲間に送らせる」
「助かるわ」
私は、外の2人に声をかけ、メイを家まで送る手配を頼んだ。
馬車の所まで見送ろうとしたら、オルトに止められてしまった。
何て冷たいやつなんだ。
メイは、オルトに
気のせいか嬉しそうな顔してるけど、どうしたのだメイさんよ。
オルトは、『仕事なので』と普通に返す。
おい、オルト!
空気読もうな。
もうちょっと気の利いた返事をしようよ。
そういう事で私に注意されるのは、かなり重症だぞ。
オルトが許してくれないので仕方がなく屋敷の扉の前で我慢し、メイが門を出るのを見送った。
メイは、
メイさんよ。
当人は、嫁さん捕まえる為としか思ってないかもしれないが。
帝国とも、こんなことになるのは覚悟していた。
私がメイの様な街娘だったら良かったのにと思ったのは、本当の事だぞ。
きっと、
けど、私が街娘だったら、他所の世界から来た奴なんて知らないって言ってたかも知れないけどな。
だって、変なラブレター書いてくるのが関の山だったろうし。
フェイス達の戦略に乗っかたっとはいえ、物語として書いて届けてくれて、世間まで味方に付けてくれたら、そら惚れるよね。
だって、会った時から惹かれてたし。
けど、選ばなければ、私は暗殺を失敗した人間としての選択が待っていた。
だから、私に逃げ道なんてなかったんだ。
後はもう、
そしたら、いろんな人の笑顔に出会えた。
まさか、親方様の笑顔を見られるとは思わなかったぞ。
人なんて
絶対、この戦い。
勝ってやる。
約束するぞ、メイ。
メイと別れて何日も経たないうちに、帝国政府が「枇々木言辞、リリィの抹殺命令」を公式に発表したと伝えられた。
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