第二章 大戦の予兆
メイの到着
「うわ、オルトさん強いなぁ」
「
「オルトさん、表情ひとつ変えずに切り抜けるんだもんなぁ。まいったなぁ」
(まったく。新妻が怪我して寝ているというのに。そんなことして! 暇だったら原稿の1枚でも書くのだ)
ルナが旦那のアミュレットの事が心配だからと、一時的に離れている。
私と
油断していたとはいえ、私があんな目に遭ったので警戒が慎重になってしまっている。
オルトが休んだり、
「あの、オルト君。ちょっと用心深過ぎないか?」
私だって、完治はもうちょっとかかるけど、
しかし、オルトは表情ひとつ変えずに返答する。
「一時的ですし。それに、そんなに長く休むつもりなのですか?」
もう、可愛くないやつなのだ。
「リリィ様。メイ様がお着きになられました」
使用人さんが伝えてくれた。
久しぶりにメイが来たのだ!
「あ、今行く!」
起き上がろうとしたら、オルトに制止された。
「姉様。まだ、横になっていてください」
「お前、さっき、いつまで休むつもりなのかって言ったでしょ?」
「あれは言葉の
「二人きりで話したいのだ」
私は、少しムッとした顔をして言った。
「はぁ。しょうがない姉様ですね。では、部屋の直ぐ下の庭に2名、ドアの前の廊下に2名。これを配置するまで少し待ってください」
「わかった」
なんだか私が
「では、
オルトは、そう言うと元帝国暗殺部隊の1人に声をかけ、4人直ぐに配置に付くように指示を出した。
「じゃ、リリィ。メイさんには、あまり心配させるような事言わないでね」
「わかっているのだ。でも、今回の事聞いているのかな?」
「流石に、誰も知らせてないと思うけど。知ってたとしたら、どこで聞いたのかなぁ?」
そんなやり取りをしているうちに、メイの方が先に入って来た。
「ん! 元気? とは、言えないけど、元気そうね」
「ん! 元気なのだ」
「
「えへへ。嬉しいなぁ」
「あなたは、仕事あるんでしょ? 早く行って!」
つい、声が大きくなってしまった。
「は、はい」
慌てて
オルトは、軽くメイに挨拶をすると、
(ん?)
メイの視線は、オルトを追っていた。
ローズかシャトレーヌ、あるいはルナがいたら何か言いそうな状況だった。
しかし、自慢ではないが私は鈍感系だ。
普通の女性の心の機微が分かろうはずもない。
「どうしたのだ、メイ。オルトの事が怖いか?」
オルトも、元暗殺部隊の人間だ。
一般国民からしたら、それはそれは怖いでしょう。
「ん? 何? 何でもないよ。それより、座っていい?」
メイに、はぐらかされたかもしれない。
「あの方も、リリィの帝国では、お元仲間の方だったの?」
あれ?
何でもないよって、さっき言ったよね?
「うん。あいつは、親方様配下では3番目に強いやつだ。今は、私もルナも抜けたので、ナンバーワンかな?」
「へぇ。そうなんだ。凄いね」
「今日は、見舞いに来てくれたんじゃないのか?」
「ああ、そうだった」
「メイ。やっぱり知っていたのか?」
「あっ!」
メイはしまったと言う顔をした。
「誰から聞いたのだ?」
「う、うん。実は、ルナさんから……」
(あ、あいつか――!)
(あいつ、私らの警備をオルトに押し付けて何してんだ? 早く戻って来いよ!)
「御免。心配かけた?」
私はメイに尋ねた。
「ちょとはね。でも、リリィの生い立ち知っているから、多少は覚悟していたし。もしかしたら、また起きるかもって」
「そうか」
私は、ちょっと落ち込んだ。
「何で、あなたが落ち込むの? 私は、知らせてくれたほうが嬉しかったわ。知らないで過ごすほうがショックだわ」
(ああ、そういう考えもあるんだな)
私は、メイの気持ちが嬉しかった。
「で、怪我の具合は? 流石に、ルナさんも詳しくは教えてくれなかったから」
「うーん」
ちょっと悩んだが、傷を見せて説明した。
メイは、私の傷を撫でながら言った。
「やっぱり、リリィは、私と違う次元で過ごしているのね。凄いな」
「いや、私だってこんなこと経験ないぞ。串刺しだぞ! あいつ、
「ははは。串刺しかぁ? それは、経験したくないね――」
メイは、私の言い方が可笑しかったのか、ケラケラと笑った。
「やっぱり、あの噂。本当みたいね」
メイがポツリと言った。
「噂って?」
「帝国政府が、
その指示が出ることは、私達も察していた。
後は、公式に出るのは、いつなのだろうと言う状態だった。
「それもあって、今日は来てくれたのか?」
メイは、優しいなぁ。
「うん。それもある」
「それも?」
「うん」
「他には、何なのだ?」
「もし。もしだけど、戦争になったら私は奥地に引っ込むことになるかもしれない。一時的だけど」
そうか、メイのいる街は帝国との国境付近だ。
戦争となれば、避難できる人は避難することになるだろう。
「そうなると、こうしてこれなくなるから。それもあってリリィに会いに来たの」
「すまんな。私らのせいで」
原因が、私達夫婦に大いに関係するので申し訳なかった。
「何言ってるの? 言いがかり付けて引っ込められないのは、あいつらの方よ。
「ああ。うん。ありがとな」
メイが『フンッ!』と言う感じの言い方するのには、ちょっと圧倒された。
けど、うれしかった。
友達って、ありがたいのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます