帝国皇帝、失踪
帝国政府が「枇々木言辞、リリィの抹殺命令」を公式に発表したと伝えられた。
フェイスが、久しぶりに屋敷へやって来た。
「リリィちゃん。まだ生きてる?」
失礼なことをいう奴だ。
「なんだ? この通りピンピンしているぞ。それよりも、何でこんな時に屋敷へくるんだ。お陰で警備のみんながピリピリしてるじゃないか?」
「だって、怪我人呼ぶわけにはいかないじゃん」
「まあ、標的の私が、皇帝陛下のお城に赴くのも変だしな」
「そういうわけじゃないけど」
「で、何の様なのだ?」
「今回の『枇々木言辞、リリィの抹殺命令』についてさ」
「やっぱり出たのか? まあ、私としては、来るものが来たのかという感じだな」
「きっかけを作った私としては、ちょっと申し訳なくてね」
「今更何なのだ。私としては、『
「ポジティブだねぇ」
「ん? 普通なのだ」
「相変わらずだ」
そう言うとフェイスは笑った。
「ローズは、心配してるか?」
「実は、今日の来たがっていたよ。なだめるの大変だったけど。だから、私が直接会って様子を見て来てやるから堪えてくれって説得して私が来たんだ」
「そういうことか。でも、うれしいな。皇太子妃殿下になってから、なかなか屋敷に来られないからな。あの頃が懐かしい」
「ほんのちょっと前だったんだけどねぇ」
「そうだな。ローズは、お姉さんみたいな感じがしたな」
「ふふふ。ローズも喜ぶよ」
「話はそれてしまったが、今回の命令については、皇国政府としても正式に抗議するつもりだ。その事を伝えておきたくてね」
「フェイス。とうとう事を構えることになるんだな」
「しかし、御免ね。
「まあ、有名人になっちゃったからな。私達がいるかぎり、悪いことしたのは帝国政府って言われるだろうし」
「今回襲撃来た刺客は、『帝国の牙』って言われてるんだっけ? 皇帝さんのお気に入りだとか?」
「そうだな。元同僚だ」
「辛いかい?」
「は? 何でなのだ? あいつ、元から嫌いだ! 帝国にいた時も、事あるごとに絡んできて。話しかけるなって何度も言ったよ」
「ははは。リリィさんにそこまで嫌われる奴なのか?」
「大っ嫌いなのだ!」
フンッっといった顔で、フェイスに答えた。
「よかった。リリィさんが元気で。油断とは言え怪我をして、気を落としているんじゃないかとローズと心配してたんたよ」
「そうか、この通り元気だぞ。そう伝えてくれ」
「うん。父上、母上も心配していた」
「いや、それは恐れ多いな。どちらかというと、私の出自の問題で迷惑かけてそうな気もするが」
「私達を兄夫婦として見てくれているのなら、父上も母上もリリィさんの父上と母上さ。血はつながってないけどね」
「……。それは、少し重いな」
「どうしてだい? 私は、君の出自を十分知ったうえで、
「うん。ありがとな。お陰で、こうして日の当たるところにいる。親方様の笑顔なんて、初めて見たしな」
「そう。それは良かった」
「皇国と帝国は、いつかはぶつかるんだ。あっちは勝てば良いんでしょとやっている。しかし、こっちはそうじゃないでしょと言っている。いつかはぶつかるさ。君たちが、運命的な出会いをしなくてもね。むしろ、迷惑かけてるのは、両方の政府かもしれない」
と、フェイスは話す。
そんな話をしているうちに、
「すまないね。僕らのせいで」
「ほんとだぞ。それに、皇太子妃殿下を待たせるなんて、君はどんだけ偉いんだ?」
そう言うと、フェイスは「ハハハ」と笑った。
「それで、事は僕らの抹殺指令だけじゃないんだろ?」
「うん。まあな」
「それと、帝国の皇帝が……」
「ん? 帝国の皇帝がどうしたのだ?」
私は気になって尋ねた。
「うん。それは、私から話そう。実は、帝国の皇帝が所在不明になっているらしい」
(ん? なんだって?)
私は耳を疑った。
「フェイス、どういうこと? 帝国の皇帝が? 帝国で皇帝って言ったら、帝国の一番偉い人だろ?」
私は、下っ端なので直接に有ったことはない。
全て私達の指示は、帝国政府の人間が出していた。
「君たちへの抹殺指令を出した後、行方がわからないらしい」
と答えるフェイス。
「でも、これから戦争になるかもしれないんだろ?」
私は聞いた。
「そうなんだけどねぇ。交渉する相手が所在不明って正直弱っていてね。泥沼になったらどうしようと」
「フェイス。宣戦布告は出そうなのか?」
「あるね。すでに、議会は通過しているらしい。内容は探っているけど流石につかめない。後は、いつ出すかという状態だ」
と、フェイス。
「あきれたな。指示だけ出して雲隠れか?」
私はあきれた。
親方様が見限ったのも、そういうところなんだろうか?
私は、警備で部屋にいるオルトとルナにも聞いてみた。
「お前達、何かつかんでいるか? 親方様から聞いていないか?」
「親方様も、殿下と同程度の情報しか得ていないと思います」
オルトが答えた。
「親方様からも逃げ切るって凄いねぇ」
ルナが、また失礼なことを言う。
「まあ、とにかくだ。どんな命令が出されようと、どんな布告がなされようと。それが皇国や君達にかかわることなら、断固抵抗するつもりだ。そだけは、覚えておいてくれよ。それと、今回ばかりは親方様にも、皇国へ正式に加わってもらうつもりだ。
フェイスは書斎で
いつになく真剣な顔をしている。
戦争になれば、きっと先頭に立つのだろう。
正規軍同士の戦いには役に立たないかもしれないが、アルキナみたいな奴らには好き放題はさせない。
親方様が皇国に戻って来て下さったのは、こういうことに備えるためだったと、改めて認識した。
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