親方様
私は、親方様に聞きたいことがあった。
どうして、あの時、皇国に残ってくださらなかったのかと。
こうして、皇国や私と
まさか、私達が特別扱いではないと思うけど。
「あの、親方様」
「なんだ?」
「あの時、どうして残ってくださらなかったのですか?」
「それは、私が言わなくても、お前もわかっている事だろう」
親方様は表情ひとつ変えずに私を見て答えて下さった。
「そ、それは、そうですが……」
そうなのだ。
皇国の首都を救ったとは言え、直ぐには評価は定まらない。
下手をすれば、芝居ではないかと疑われるのが当然だろう。
私も、分かっていたのだ。
わかっていたけど……。
「ルナは、元気にしいるか?」
突然ルナの事を聞いてきた。
ルナとは、元帝国暗殺部隊のメンバーズの一人で、順位は第1位だった。
メンバーズとは、皇国首都防衛の時に、親方様について来て首都防衛に当たった11人への呼称だ。
皇国では敬意をこめて、彼ら・彼女らの事をそう呼ぶようになった。
「はい、親方様も知っての通り元気にしております」
親方様なら、大概の事の情報は耳に入っていると思うのに。
「いや、私が聞きたいのは、そういう事ではない」
(親方様は、何を言っているのだ?)
私は、意図が汲み取れないでいた。
「この家業をしていると、関心のある相手については、どうしても情報を把握しようとしてしまう。だが、普段どうしているかまでは、入って来ない。伝える必要がないからな。あるとしても要約して伝えられる」
この言葉を聞いて、ようやく親方様の聞きたいことが分かった。
「はい。アミュレットと仲良くしております。とても大事にされているようです」
アミュレットとは、ガルドの部下で、皇太子特殊守備隊壱番隊隊長の男だ。
名前は、アミュレット・ブクリエという。
その当時の私が、この男になら剣を預けても心配ないと思った騎士だ。
親方様とは、帝国に有ったシャトレーヌのお店の時に出会っている、あの騎士の内の1人だった。
ルナは、いったん親方様と一緒に皇国を去った後、再び皇国に舞い戻って来た。
それは、皇国内で私が剣を預けた相手がいると知り、どんな人なのかと確認しに来たらしい。
私が、アミュレットを紹介したら、とても気に入ったようだ。
その後は、皇国に居残り続けて、猛烈にアミュレットにアタックしていた。
……と、後で聞いた。
もちろん、私の目の届かない所で。
知っていれば、迷惑になるからやめさせていただろう。
ガルドも全然教えてくれなかった。
何で、教えてくれないんだと、不満なのだが。
私が知ったのは、二人が籍を入れた後だった。
アミュレットは仮にも皇国の騎士なのだから、もっとちゃんとしないと駄目だと私でも心配したが堅苦しい式は嫌いらしい。
私の時と同じ様な式を挙げて二人の結婚を祝うことになり、無事に式を挙げた。
さすがに私の時の様に、皇国皇帝の方々はお忍びでも参列することはなかったけど。
多分だけど、ルナの出自の事を考えて、公式な場で人の目に触れさせたくなかったのかもしれない。
アミュレットなりに、ルナに気遣ってくれたのかもしれない。
ルナは、旦那と同時に皇国の国籍も手に入れ、皇国の人間になってしまった。
結婚と同時に、元帝国暗殺部隊のメンバーズからも抜けた。
私はあっけにとられたのだ。
いや、私も大概だけど。
「そうか」
「はい、時々喧嘩もしているようですが、アミュレット殿が大人なので、軽くあしらわれているようです」
「そうか。幸せそうに見えるか?」
あ、そうか。
私から見て、どうなのかを知りたいのか?
ようやく親方様の知りたいことが分かった。
「はい。とても幸せそうです。あんなに性格が変わるとは思っていませんでした。今では、私を
私は、ついルナについての愚痴をこぼしてしまった。
「ふふふ、そうか。リリィを困らせているのか?」
親方様は、別れる時にして下さった同じ笑顔をされた。
親方様は、私が傷の痛みに気を囚われて必要以上に苦しまないよう、気を逸らして下さっているのかもしれない。
現に、帝国いたら見ることの出来なかった表情を何度も見て、親方様も笑うんだと再認識していて痛みから気が反れていた。
他の人には通用しないだろうが、親方様の表情は、私にとっては麻酔以上の効果があったようだ。
「あ、失礼いたしました。注意は大丈夫です。自分で何とかします」
つい気が緩んで、親方様に甘えるような事を言ってしまっていた。
「いや、構わぬ。私に頼れることがあれば、何でも言うがよい」
とても、ありがたい言葉だ。
だが、恐れ多くて、なかなか頼ることにはならないだろう。
でも、このお言葉は忘れないでおきたい。
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