第12話 兄バルカとの報告会

 礼拝堂を後にして、もう一度だけ町を練り歩いた。道ゆく人がいれば彼らがそうするように、こちらから頭を下げる。そうしたことを繰り返すうちに、敵意の匂いも少しずつ薄れていく。また後日、同じように町へ繰り出そう。堂主ルイスにもしたように、ゴルージャとも礼拝堂に訪れる気だ。


「それにしてもムカつくクソじじぃだった」

「お前にそこまで言わせるとは相当だな」


 王宮に戻り、私はその日あったことをバルカにも報告した。最後の方はほとんどルイスの態度に対する愚痴ばかりになってしまったが。


「王宮の者たちも、あの堂主ルイスの歯に絹着せぬ態度には参っている者も少なくないそうだ。そもそもがザイゼン王国の人間は教会とは仲が良いわけではないようだし」

「あ、その辺兄さんは聞いたの?」

「王宮に住まうことになる者として少しはな。俺は今日は王宮の兵舎に行ったんだが」

「え、何それズルい。私も行きたかった」

「お前は町に行ってたんだろうが。それに俺が兵舎に行くことを決めたのも今朝方だ。妹のお前ばかりに頑張らせるわけにはいかないからな」


 王宮の兵士たちの一部は、私の王都行脚にも付き合ってくれたが、一族の戦士には及ばずとも、かなり練度が高いように見た。初めて行動を合わせるはずのこちらの従者ともモノの数分で足を合わせて私の護衛を文句なくしていたし、隙がなかった。


「きっと指導者がかなりの強者なんだと思ったから、私も王宮の兵士をどんな奴が束ねているのか、すごい気になったんだよね。兄さんはそいつには会えた?」

「ああ。どうも彼らの多くは王宮との厳しい契約をした傭兵だが、その中にも生涯を王宮の警護に捧げることにしたという忠義に厚い輩が一人いてな。そいつが兵士への訓練を担っている。王国を建国してしばらく昔はガスプ王自ら兵士を従えていたそうだが、今は数少ない側近を従えるばかりで、兵舎に王が来ることはないそうだ」

「結構たくさん話できたみたいね」

「俺が剣技を教えてやったら奴ら、かなり興味津々でな。訓練の終わりには酒盛りもした」

「うっわ、ズッル」


 私があの意地悪な堂主にムカついている間になんて面白そうなことを。決めた。明日は絶対に兵舎の様子を見に行こう。


「その、兵士を訓練してるってのはどんな奴?」

「ドガーという男だが、多分見た方がどんな奴かはわかりやすいな」

「兄さんがそんなに言うほどに豪傑なんだ?」

「会ってみればわかる」


 相変わらず含みのある物言いをする。こういうところ、バルカの悪癖だと私は思う。


「そうだ、教会の話だったな。詳しいところは酒盛りの時に侍従長のポルカも来たからそこで話を聞いたんだが」

「マジで楽しそうで良かったね」


 正直、私には今かなり嫉妬の感情が強く芽生えてきている。


「儀式の場じゃあ、堅苦しかったがポルカの奴もなかなか話せる奴でな。また今度、サシで飲む約束までしたよ」

「そりゃようござんした」


 とは言え、バルカが王宮の人間とうまくやれそうなのは悪いことではない。ルイスのようかな一族に悪感情を抱いている者も少なくないのだから、王宮の内外かかわらずに、一人でも味方は多い方に越したことはない。


「それで? ポルカは教会のことをなんだって?」

「ああ。奴も王族の政治と深く関わっているから、かなり色々なことが聞けたよ。そもそも王族の奴らも教会の人間のことは良くは思っている奴はそう多くはないそうだ」


 それは予想通りだ。ガスプ王の一族は、大陸の大教会と袂をわかつ形でこの半島を訪れたはずなのだから、そこに確執があるのは当然である。


「ポルカが言うことにゃ、王国も教会のことを無視できないし、教会は教会で王国とはうまく付き合っていきたいって状況のようだ」


 バルカは、侍従長ポルカに聞いたという話を一つずつ私に教えてくれた。

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