第8話 リンネの闘い
「早速、ゴルージャの公務に付き従うことにした」
バルカにそう伝えると、目を丸くして一瞬黙りこくった。
「どうした? 身体の相性でも良かったか?」
「ぶっ殺すぞ」
兄のふざけた物言いはさておき、そういうのは婚姻の儀を終えてからだ。それまでの間は王国も一族の神も許しはしないだろう。
「私はまだあいつがどういう奴なのかわかってない。婚姻までまだ時間があるんだ。あいつがどういう男なのか、この目で見極めたい。それでしょうもない奴なら、縁を切ってやれば良いんだ」
「そんなことしたら俺や爺様のメンツも丸つぶれなんだが」
「兄さんや爺様がそういうの気にするタマか? そうなったらそうなったで喜んで戦争おっぱじめるだろ」
「確かに」
私の言葉にバルカは頷いた。良くも悪くも私たちは戦士だ。それにザイゼン王国だって、大陸の由緒ある王国や戦士たちの祖国とは違う。戦乱の世にあったアドネ半島をまとめあげ始めただけの、まだ若い国だ。一族が同盟を結ぶのであれば、私たちはその若い国を見守るつもりでいた方が良いと思う。
「昔からお前はお前でよく考えているよな」
「族長になりたかったんだ。そのくらい戦士として当たり前」
アドネ半島はかつては人ならざる魔族の治める土地だったという。
竜種や
ガスプ王は戦乱に湧いていた半島の戦を次々に平定していきながら、人間だけではなく魔族も含めた全種族を尊重することを第一義に掲げて、この半島で最も大きな勢力となり、遂には大陸の国々との繋がりも保ってザイゼン王国を建国した。それが祖父がまだ若い頃の話。
祖父や族長は、彼らは彼らで同盟を盤石なものとし、一族に有利な状況を生み出すための政略を繰り広げていくことだろう。バルカの言ではないが、彼らにとっては私はその政略のためのコマ、牝馬に過ぎない。
だが、その牝馬が勝手に動いていけないという道理もない。それは私を王都に送り出した祖父も承知のはずだ。なんたって、一族では祖父が一番私の性格をよく知っている。
「やってやろうじゃん。私は私の闘いをさ」
「俺も協力する。基本的には俺は爺様や伯父の命で動くが、妹のためだ。お前を捨て置くようなことはしない。何かあればいつでも言ってくれ」
バルカもそう言って、私の背を押してくれた。
「まずは王都の様子は見ておきたいな。ゴルージャの公務にも興味はあるが、あいつがちゃんとやっているかどうか判断するには都の様子を見ないと。婚約の儀もそうだけど、一族と王国とじゃ慣習が違うところもある」
「だが、ザイゼン王国は短期間で多種族を束ねて作り上げられた国家だ。こうと決まった慣例には乏しい」
「それでも奴らなりの標準ってのはあるもんだ。私たちが何よりも戦士の誇りを大事にするように。王都の人間の様子を兄さんも見ただろ。そこからだって戦場の誇りよりも、家族の情や報復といったことを重視している人間がこの都では大多数ってこと。一族とはあり方が違う」
「なるほどな」
その視点はなかったな、とバルカは素直に感心していたようだった。バルカは良くも悪くも戦士としての誇りを強く大事にしている。私もそれは変わらないが、それでもバルカよりは柔軟な眼を持っているつもりだ。
「もちろん、それに慮るだけのつもりはないけど、相手の土俵で相手の好む仕草をするってのは大事」
「昔からホントそういう立ち回りが得意な、お前は。そういうのどこで学んだんだ」
「まあ――色々じゃない?」
私の脳裏に、母や母と仲の良かったとある女性の顔が浮かんだ。男戦士のバルカと違い、女である私には女だからこその共感から得た強さや交流もある。
「それじゃまずは明日は王都の偵察かな。私が勝手に王宮外を出歩くのってまずいってか、許されないよね?」
「俺からガスプ王だか侍従長だかに掛け合ってみる。王もまたぞろ遠征に赴くだろうが、明日明後日のことじゃないはずだからな」
「ありがと、兄さん」
それじゃあ今夜は王宮内の図書館にでも行って、彼らの部族の書物でもないか探るかな。王国と文字自体は共通のものを使っているから、読めないということはないだろう。
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