第5話 ガスプ王と王子ゴルージャ

「よく来てくれた。戦士の一族キルヴァリアの戦士たち」


 王座からガスプ王がバルカの口上に答えた。王宮の奥にある王座に座する王は流石の貫禄だった。

 鋭い眼光にドッシリとした太い体躯を一目見れば彼が歴戦の勇士であることが分かる。バルカや他の戦士の一族キルヴァリアの戦士と見比べても見劣りしない。

 王であることを示す冠と金色の外套マントが、彼の荘厳さをより増している。


 バルカが一族代表としての挨拶をし、一団が酒や馬、衣服などの故郷から持って来た贈り物を贈った。また、故郷から連れて来た従者五十名も献上する。こちらは王都に住まう約束をされた戦士五名とその従者たちとは別枠で、労働力として純粋に捧げられるものだ。続けて王国側の代表という一人が一歩前に出た。


「ザイゼン王国侍従長ポルカです。こちらこそ貴方がたが戦士の故郷から遥々やっていただいたこと、感謝いたします」

「失礼ながら、町の人々はそうとも言い切れない様子でしたが」


 バカ。王国に喧嘩を売るような兄の物言いに、私は内心呆れた。だが、こういう男だからこそ祖父もバルカを族長名代として王都に送り出したのだろう。一族の誇りにかけ、決してへりくだりをしない男だ。何かあって、その場で婚姻をなかったことにしたとしても、祖父はバルカを諌めないだろう。名代の判断として尊重し、今度こそ一族諸共で捨て身の戦を仕掛けるはずだ。


「恥ずかしながら、王都と言えど一枚岩とはいきません。それはこの王宮の警備を見ても分かる通り。あくまで我々はこの地を一代で治めただけの新参者に過ぎない。だからこそ我々より先にこの地に根を生やしたあなた方戦士の一団とのより良い仲を望むのです」


 それを侍従長ポルカも理解しているのだろう。バルカの物言いに反論することなく、やんわりと躱した。


「いいえ、不躾な物言い失礼いたしました。こちらがこの度、王子との婚姻を結ばせていただくことになる我が妹リンネです」


 バルカが私の方を手で示す。その場にいる全員が私の方を向いた。私も侍従長ポルカに倣い一歩前に出ると口上を述べる。


「ご紹介にあずかりました。長老バルガンの孫な娘リンネでございます。故郷を離れ、都に向かうまでの道すがら一抹の寂しさを感じましたが、都の様子を見てここが第二の故郷になることを思えば、それも吹き飛びました。ですが私もまた一人の戦士。王国と同盟の為、祖父の命にてこの都に来ましたが、私は一族の誇りまで故郷に置いて来たわけではありません。そこのところも含めよろしく願いたいものです」


 私の口上を聞き、侍従長ポルカとガスプ王は頷くと今度は王自らが王座の近くに座している一人の男子を示した。


「力強い口上をありがとう、リンネ。こちらも紹介しよう。我が三番目の息子、ゴルージャだ」


 ガスプ王に示された男子がおずおずと立ち上がった。


「あいつが……」


 私はその男子をじっと見つめた。


「ゴルージャです。よろしく」


 勇猛さをその身に称えるガスプ王に比べて見るとあまりにも貧弱そうな細腕に、おどおどとした声。


 これが自分の夫になる男。どんな男であっても特に問題はないと思っていたが、正直なところ彼を見た時の第一印象は、失望だったように思う。



 

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