第4話 王都デュラル

 翌朝、王都デュラルについた。

 王都の入り口ではガスプ王の使いの者が、私たちを出迎えてくれた。私たちはそこで戦馬車から降り、馬を手綱で引きながら、王の使いの案内に従って町中を進んだ。


 バルカの言う通り、故郷とは何もかもが違った。故郷では族長の住む家や倉庫以外には見ない、二階建ての家がいくつも立ち並んでいる。それに町の人々は誰も武器など付けていない。戦士の一族キルヴァリアはいつ戦に赴いても良いように短剣や斧の一つでも腰にぶら下げておくものだが、ここではそんな常識は通じないようだ。

 だが、町に到着した私たちを見る王都の人々の目にはあまり歓迎の色はない。それどころか、不安や恐怖、時には敵意の色も見える。


「そりゃま、そうだろうよ」


 町の人々の様子を目で追う私の様子に気づいたのか、バルカが溜息をついて言った。


「ちょっと前まで戦争してた相手だ。俺らに家族を殺された奴らもたくさんいるだろ。ま、そりゃお互い様だがな。この陰湿さも変わらんな」

「もしかして六年前も?」


 私が問いかけると、バルカは鼻で笑った。


「あん時ゃもっと酷かったよ。戦士が歩いているところは罵詈雑言の嵐。石を投げ付けてくる奴もいた。全く。俺たち戦士の一族キルヴァリアにゃ有り得ねえことだ。屈強な戦士を打ち破った敵やその家族に敬意こそ感じれど、憎しみの目を向けることはねぇ。奴らにゃそれがわからねえんだ」

「なるほど」


 町の様子だけではない。そこに住む人々の感覚もまた、故郷とは全く違うようだ。私も思わず、バルカに続けて溜息をついた。


「こんな奴ら、本当なら……」

「兄さん、やめときなよ」


 私はバルカが言葉を続けるのを制した。私たちは祖父の約定により、彼らと平和を結ぶためにここに来ているのだ。それ以上の言葉は良くない。


「悪い。昨日の夜にお前と話したせいで本音が隠せなくなってるみたいだ」

「これから兄さんたちも町に住むんだろ? そうなれば、この町の人々も家族だ。家族の仲でもいざこざはあれど、その悪口をそうそう口にするものじゃない」

「そうだな。お前の言う通りだ。さすがリンネ。俺の自慢の妹」

「言ってろ」


 王都の道を進み、王の使いの用意した仕立て屋で服を着替えさせられた。

 王都側と一族側とで、私に着せる服装ドレスの仕上がりに関して一悶着あったようで、仕立て屋では一族の服飾屋でバルカの従者であるレンブルトと、王都の仕立て屋が仕切りに口論していたが、私は既に仕立ててある服の一つを掴み、二人が唖然としてる中さっさと仕立て屋を後にした。今日はあくまで顔合わせだ。勿論、戦士の一族キルヴァリアとして舐められるようなことがあってはならないから、相応の装いは必要だ。合わせて、私にとって恐らくは祖父にとっても、あくまでこの婚姻は同盟の証であり我々が王国に与するということを必ずしも意味しない。その意味でも、王国に媚びへつらうような向こうの文化に合わせた装いよりかは、一族としての誇りを残す服装の方が良い。

 そういうわけで、私は仕立て屋にあった服の中でも故郷で祭事に着るのに近い服装ドレスを選んだ。私のその選択を止めるものはおらず、そのまま身を清める風呂に入って髪を整えられ、服装ドレスを着た。


「いよいよだな。よく似合っている」

 戦士の一族キルヴァリアの姫として恥ずかしくない装いになった私をバルカはそう一言褒めた。


 王の使いに連れられ、王都を訪れた戦士の一団は王都の中央に位置する王宮に向かった。

 王宮は周りを戦士三人分はある高さの石壁に三重に囲まれており、私たちが王宮に入る門を潜るとすぐに門番により門が閉じられた。王宮への出入りは厳重に管理されているようだ。壁の内側にある広場と庭を突っ切って、私たちは王の前に立った。


戦士の一族キルヴァリア一団代表、族長の名代を勤めます戦士バルカです。この度は我ら一族を王都に迎え入れていただいたこと、誠に感謝申し上げます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る