真奈美

 家事代行 『ミルキーハウス』。私がお世話になっている人材派遣会社です。

 仕事の内容は……まぁ、端的に言って家政婦ですね♪

 オバチャンだらけの世界で、私みたいにピチピチしているプリティな女の子は人気があるのよ♪稼ぎ頭よっ?

「鈴木さぁん!」

 あ、マネージャーが呼んでるわ!指名かしら?やれやれ……売れっ子は辛いわぁ♪♪

 マネージャーの高野さんが近づいて来たわっ!正直、高野さんみたいに凄まじい加齢臭を臭わせる男は大好物なのよっ♪

「はいはぁい!何ですかマネージャー?あ、そうそう、私は鈴木って名字嫌いなんですよぅ~……真奈美まなみって名前で呼んで下さいよぅ?」

 少し甘い声でお願いしてみた♪勿論上目使いでねっ♪

「次の派遣先はココだから」

 ん~っ!もぅ!意に介さずねっ!!プンプン!!

 私は高野さんを見たの!

『真奈美』って名前で呼んでくれるように……ウルウルした瞳で……

「~…~………って、聞いていますか?」

 高野さんは少し怒ったような目で私を見たわ。ゾクゾクするぅ!私ってMなのかしら?

「聞いていますょう~!」

 私は頬っぺたを『ぷうっ』と膨らませて言ったわ♪どう?この仕草?高野さんが私に夢中になるのも納得でしょ?

「それならいいのですがね」

 直ぐ視線を私から外した高野さん……某俳優さんに似ている横顔…素敵♪加齢臭が気になるけどね!!

「それでですね、少し困った条件なんですよ」

「困った条件?私なら何でもやりますよ♪遠慮なく言ってくださいよぅ~♪」

 エッチ強要するお客さん以外なら平気!!これで高野さんとの距離が残り3㎜くらいになるならね♪

 高野さんは少し言いにくそうに口を開いたわ♪

「住み込みが条件でして……」

 住み込み?通常、家政婦は通勤なのよ?住み込みって事は、深夜勤務もあるって事なのよ?流石に住み込みは勘弁だゎぁ……

 私は意を決する。断ろうと。

 その時見た高野さんは……やっぱりダメか。みたいな顔をしていたわ。

 その顔に母性本能をくすぐられ捲り!私は咄嗟に「大丈夫ですよ~♪」と、言ってしまったの……

「そうですか!ありがとうございます!!」

 高野さんはキラキラした笑顔でお礼を言ってきたわ♪

「そのかわりぃ~♪ご褒美下さいねぇ?」

 私へのご褒美は、夜景のキレイなホテルでモーニングコーヒーを一緒に飲む事!!

 高野さん気付いてくれているのかな?

「ええ、手当てはバッチリ奮発しますから」

 あらら、違うけど……まぁいいわ♪一つ貸しね♪高野さん♪

 私はその日、準備とかで一旦家に帰りました♪

 さぁて!明日から頑張るぞぅ♪

 高野さん!!私頑張るからね!!見ていてね!!

 

 次の日。私は仕事先のお家に行きました♪

「大きなお家ねぇ……」

 お屋敷と言う大きさじゃないけど、普通のお家より一回り……二回りくらい大きいのかな?お庭もあるし。そのお庭も広いし。

 裏の方には森?山かな?兎に角先が見えないくらいの沢山の木々。

 近くに民家は無し。勿論、コンビニも無し!!もぅ、月曜日にジャンプ買いに行けないじゃないの!!

 まあ、愚痴はさて置き、とっても静かな所に建っているお家ね。寂しいとも言えるけど。

 私は取り敢えず、呼び鈴を鳴らします♪

【ピンポォ~ン♪】

 …………………

 出て来なさいよ!?いや、お留守かしら?

 もう一度……

【ピンポォ~ン♪ピンポォ~ン♪♪ピンポォ~ン♪♪♪】

 三回も鳴らしてやったわ!!

 さぁ!!このピチピチのハウスキーパーが来たのよっ!! 早く出て来なさいよっ!!

 暫くすると「はぁ~い」と、奥から声が聞こえて来たわ!!

 どんな人かしら?ドキドキ!

 ドアを開けて出で来たその人は…ロマンスグレーと言う表現がぴったりなシブイオジサマ……

 私は……

 アッと言う間に虜になっちゃったの…………

「はっ!はじめましてっ!私はっ!!」

 あまりの緊張で声が裏返っちゃったわっ!!どうしよう…変なとか思われちゃったかも……

 私はオドオドしちゃって、オジサマのお顔を上目使いで見てしまったの……

「ああ、ミルキーハウスから来た人ですか」

 その優しいお声に私は思わず顔を上げちゃった…

 憂い顔をニコッとさせたオジサマ……心臓がドキドキしているのが解るわ……

「初めまして。三島みしま 信之助しんのすけと申します。よろしく」

 三島信之助さん……

 私の初恋に等しいあの幼稚園児が主人公の漫画と同じ名前…

 私は……運命を感じずにはいられなかったの……

「はっ、はいっ!!通常業務から床のお世話まで頑張りますぅ!!」

 私の決意表明に、オジサマはビックリしたような、困ったようなお顔をしていたわ……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 妻を交通事故で失って1ヵ月。悲しみは幾分癒えた気がするが、家は荒れて来たな。

 家の事は全て妻に任せっきりだったから、仕方ないと言えば仕方ない。

 しかし、このままにはしておけない。せめて、自分で家事が出来るようになるまで、誰かに家事をお願いしなくては。

 私は、何気無しにタウンページをペラペラと捲っていた。

 あるページで手が止まる。

「家事代行 ミルキーハウス?」

 家事代行……ハウスキーパーか?家政婦を雇うと言う手があったな。

 私は何の躊躇いも無く、ミルキーハウスに電話を掛けた。

 暫しのやり取りで住み込みのハウスキーパーを雇う事になったのだ。

 自分で家事が出来るようになるまで、当面の間ハウスキーパーを雇いたい。と言う私の依頼に、快く応対してくれたミルキーハウスから来た女性。

 若い女性だが、彼女は何と言うか……控えめに言えばぽっちゃり体系。顔は少なくとも私の好みではない。ジャイアンの妹みたいな顔は。だが、私の好みじゃないだけで他の誰かは心が惹かれる……と思う。

 私は心から安堵した。失った妻をまだ愛しているからだ。

 これならば、妙な気は起こさずに済みそうだ。間違いは起こりえない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 早速仕事に取り掛かる……前に、私の部屋をご案内して頂いたの。

「私の寝室の隣で申し訳無いが、この部屋をお使い下さい」

 信之助さんのお部屋のお隣?

 信之助さんったら……『床のお世話も致します』って言ったのに……

 プーッと頬っぺたを膨らませる私に「あの、ご不満でしたら、他の部屋に致しますが」と、紳士的な対応をしてくれたの。

 まぁね。いきなり一緒のお部屋じゃ、ね……

 少し寂しいけど、我慢するわ♪

 その代わり、夜はギュッと抱き締めてくれなきゃダメよっ?

「いえ~♪大丈夫ですよぅ♪着替えたら、直ぐにお掃除しますからねぇ♪」

 私はいきなりキャミソールをガバッと脱ぎ捨てたの。

「!っ……では、宜しくお願いします」

 目をまん丸にして、信之助さんは部屋から出て行ったわ!

 見ていていいのにね♪このピチピチの身体を独り占めに出来るのに。

 私はクスクスと笑いながら、お掃除用のお洋服に着替えたの♪メイド服よっ♪初日から飛ばすからねっ♪

 私は一階にスキップしながら降りて行きました♪

「その格好は!?」

 あら?やっぱり信之助さんも気になるのね?膝上30cmのミニスカートですもの♪

 少し膝をつけば、赤いレースのパンツが見えちゃうの♪ブラもお揃いの赤いレースよ♪

「じゃ、お掃除しますねぇ♪」

 私はお尻をプリプリとさせて、一階のお部屋をお掃除しました♪

 台所、お風呂、おトイレ、居間……

 私は可愛くて若いだけのハウスキーパーじゃないのよっ!アッと言う間に綺麗にしますからっ♪

 さて、次は居間の隣のお部屋ね?一階にもお部屋が6つもあるから大変♪

 しかぁし♪私は凄腕ハウスキーパー♪あっという間に残るお部屋は一つ♪

 私は最後のお部屋のドアを開けました♪

「……何?ここ?」

 そのお部屋は、四畳半の洋室だったの。それはいいんだけれど、お線香の香りがお部屋中充満していたの。仏間は普通和室に設けられるものだけど、何かの事情でここに置いた、のでしょうね。

 そして上座の仏壇に飾られていた写真には、超綺麗な女の人が写っていたわ。まあ、まぁ、私ほど可愛くはないけどね♪

「妹さんかしら?」

 私はその部屋をお掃除した後に、いよいよ二階の信之助さんの寝室にお掃除に行ったの。

 信之助さんのお部屋には、机の上にノートパソコン……しかし、私の目の前には、ダブルベッドが!!

「嫌だゎ……信之助さんたらダブルベッドなんて……私が来る事を想定していたのかしら?それとも、わざわざ私を指名したのかしら?………ポッ」

 このダブルベッドで信之助さんの床のお世話をするのね♪

 そう思うと、このお部屋は丹念にお掃除しなきゃね♪

 それはそれはもう、気合いを入れてお掃除したの。

 だってそうでしょ?このお部屋は私の寝室でもあるのよ?

 ベッドメイキングに気合いを入れすぎ、机にぶつかっちゃった!!

「いたたた……パソコン大丈夫かしら?」

 私はノートパソコンを確認する為に机を調べたの。

 そしたら……机に写真が飾ってあった。

「この写真の人、仏壇の人だわ」

 妹さんの写真を寝室に飾る?変ね?とっても変よ?

 妹萌えってヤツかしら?それにしては、萌え系じゃなく美人な人だけど。まあ、私には遥かに劣るけど。

 何か、頭がぐるぐるしていたの……そしたら、不意に後ろから声がしたの。

「妻です」

 私はびっくりして後ろを振り向いたの。そこにいたのは信之助さんだった。

「妻!?信之助さん奥さんがいらしたの!?」

 私は裏切られたような気がしたわ!思わずちょっとだけ大声を出してしまったのがその証拠よ。

「ええ、1ヶ月程前に交通事故で失いました」

 亡くなったの?

 つまりは…………

 なぁんだ!!全然関係ないじゃない!!

 死んだ人なんか知ったこっちゃないわっ!!

 私はとびっきりの笑顔で「大丈夫ですよぅ♪これからは私がいますからねぇ♪」と言ったの!!

 その時信之助さんは困ったような、寂しいような表情をしていました。だけど大丈夫大丈夫。

 そんなくたばった年増より、若くて可愛くて床上手の私が、昼も夜も尽くしてア・ゲ・ル♪

 色っぽく、唇から舌をチラッと出し、信之助さんのハートを鷲掴みっ♪♪♪

「さぁさぁ、まだお掃除の途中ですから、退室して下さいねぇ!」

 そう言って信之助さんを部屋から出した私は、年増の女の写真をビリビリと破り、ゴミ袋にポイッとしたわ。

「居ない人間の写真なんか持っていても仕方無いしねぇ♪」

 私は、とっても良い事をしたわ♪いつまでも引き摺っているなんて、信之助さんが可哀想だもの。逆に吹っ切る切っ掛けをくれたと喜んでくれる筈♪

 そうして私は、寝室から退室しました♪♪♪

 夕飯はとびっきり豪華にしたわ♪

 ほら、これから、ねぇ?スタミナつけなきゃだから……ねぇ?

「……こんなに肉ばかり……しかも、ガーリックソース?ご飯はトロロご飯ですか……」

「元気出してくれなきゃ、私も困りますから♪」

 そうよ♪私は一回じゃイヤ♪最低三回は愛してくれなきゃね♪

 私はニコニコご飯をお茶碗に盛ります♪

「あ、ああ…ありがとう……」

 信之助さんは困ったようなお顔を見せたけど、それはきっとご飯がどんぶり大盛りに装われたからね♪

 でも駄目よ♪頑張って全部食べてくれなきゃ!!夜に私を食べる体力の為にねっ♪


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ご好意はありがたいのだが、私はあまり肉は好きでは無い。さっぱりとした焼き魚とかが好きなのだ。

 まぁ、それは追々彼女に説明しよう。

 問題は、この5人前はあろうかと言う肉を食べなきゃいけない訳だが……

 食費でちゃんと賄ってくれているのだろうか?疑問ではある。

 私は、今日の所は何も言う気は無かった。あれを見るまでは。

 

 大量の肉は、流石に食べきれ無かった。

「信之助さんって、少食なんですね♪後は私が片付けておきますからぁ♪」

 とか言って、ジャイ子……もとい、ハウスキーパーの鈴木が残りの肉を食べているのを見て、胸焼けを起こした。

「すみませんが、少し休ませて貰います。風呂の準備が出来たら呼んで下さい」

 私はそう言うと、寝室に行った。少し横になりたかったのだ。

 寝室の扉を開ける。

 ベットメイキングがしっかりと成されていた。

「ハウスキーパーは伊達じゃない訳か」

 私はベッドに横になった。

 そのまま、パソコンでニュースを見ようとした時、気が付く。

「……無い?写真が無い?」

 私は起き上がり、寝室をくまなく探した。

「無い!!何故だ!?」

 私が必死で写真を探していると「ああ♪写真は捨てましたよぅ♪」と、背後で陽気な声がした。

 その声は勿論、ハウスキーパーの鈴木だった。

 頭が真っ白になった。

 何故こいつが妻の写真を捨てなければならない?

 私はハウスキーパーを見る。

「お礼なんて、いいんですよぅ♪お掃除のついででしたからん♪」

 この女の思考が解らない……解らないが、当然叫んだ。伊刈のままに。

「今すぐ出ていけ!!」

 こんな訳の解らない女に、勝手に大事な物を捨てる女に家を任せる事は出来ない!!

「何を仰るの信之助さん!?」

 女は酷く驚いた顔をしていた。

「貴様に名前で呼ばれる筋合いは無い!!今すぐ出て行け!!」

 私は女の髪を掴み、そのまま玄関へと向かう。

「痛い!痛いわ信之助さん!私は確かにMだけど、それはあくまでもベッドの中だけなのよっ!!」

 この女の性癖など聞いても仕方がない。

 私は女を放り出した。

「何で!?開けてよ信之助さん!!」

 あの女はドアをガンガンと叩きながら喚いた。

 私はドアを開けた。

「開けてくれたのね信之助さん…」

 満面の笑みを浮かべていたその顔に女の荷物を投げ付ける。

「ぎゃっ!!」

 悲鳴じみた声を上げた女に素知らぬ振りをし、再びドアを閉じ施錠した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 突然の暴挙に、私はただ泣くばかり……

「酷いわ信之助さん…私が一体何をしたと言うの?」

 私の清らかな涙が頬を留めなく流れ落ちる……

 ピルルルル………ピルルルル………

 私の携帯が鳴った。会社の電話番号……多分会社のハゲからだわ。

 私はそれを無視する。だって、この心理状況で会社の電話に出たくないもの……

 私が泣いていると知ったら、会社は信之助さんを訴えるに決まっているもの。

 信之助さんを犯罪者にしたくないもの……

 私は鳴り続く電話を無視しながら声を殺して泣いたわ。

 信之助さん………

 お風呂にちゃんと入ったかしら?

 一人で眠れる?

 私が一緒に眠ってあげるのに……

 暫く考えていた私は、良いことを思い付いたの!!

 二階の信之助さんの寝室は、確か窓に鍵は掛かって無かった。

 私は二階の寝室に潜入する事にしたの!!

 朝起きたら隣に私が眠っている……信之助さんもきっと安心すると思うから!!

 私は服を脱ぎ捨てた。

 どうせ信之助さんに抱かれるのだから、服は不要でしょ?

 全裸の私には月の明かりによって、さぞかし神秘的に見える事でしょうから……

 まるで媚薬を飲んだように、信之助さんは私を抱くんだわ……

 私は上手く足場を作り、信之助さんの寝室の窓に辿り着いたの。

 小さい手摺があって助かったわ。きっとタオルとか掛けられるように作った物ね。

 こういう細かい配慮が出来る信之助さん……素敵よ……

 私の体重が支えられるか不安だったけど、私は今は恋やつれ。きっと手摺は壊れないわ。

 あ、体重は内緒よ?

 当たり前じゃない!教えませ~ん♪

 全裸の私は手摺に乗っかり、信之助さんの寝室を見たの。

 ふう、後ろが山で良かったわ。私の美しい裸体を誰かに見られたくないものね!!

 あ、そんな事より信之助さんは……

 信之助さん……グッスリ眠っているわ……可哀想に、疲れているのね……

 私は音を立てないよう、窓を開けて、信之助さんの寝室に潜入しました。

 そして持って来たロープを信之助さんで腕と足を縛りました。

 万が一だけど、泥棒と間違われて、鈍器のような物で頭をカチ割られないようにね。

 静かに、そっと、信之助さんが眠りから覚めないように……かなりの気を遣ったの!

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