幕間 ゾーア教団

「皆のもの、忙しいなかよくぞ集まってくれた。それでは定例会議を始めるとしよう」


 とある教会の一室では円卓に8人の紫色のローブを着た男たちが集まっていた。皆一様にローブに金の刺繍が施されている。


「まず、今回伝えなければならない件がある。そうだな、ボルドーよ」


 口髭を蓄えた少し長めの黒髪の男。この男こそゾーア教団の教祖マテオである。マテオは幹部の一人ボルドーに報告にあった件の説明を求めた。


「はい。数ケ月前に死んだと思われた被検体が息を吹き返し魔人となっていたのは以前にもお伝えしました。そして、また新たな魔人が発見されたのです」


 ボルドーは眼鏡を光らせて喜々として報告する。ボルドーにしてみれば新たな被検体が見つかったことは喜ばしいことであった。


「発見された? まるで実験場以外から見つけたように聞こえるが?」

「はい、その通りです。2週間程前にツヴァイに実戦経験を積ませるため魔物達を同行させてアルノーブルを襲わせたのですが、ツヴァイと全く同じ能力を持つ者と遭遇しております」


 クツクツと妖しく口を歪ませ、喜びの感情をむき出しにして語る。他の幹部から見たボルドーは狂人であった。


 一言で言うなら狂科学者マッドサイエンティストという言葉が最もしっくりくるだろう。


「つまり第二の魔神たるヤーヌスの眷属か。それでそいつはどうしたのだ?」

「その者はアルノーブルで過ごしているようです。情報によると一つ前の襲撃時に突如現れたそうです。今その者の情報を集めているところでございます」


 他の幹部の質問にボルドーが答える。アルノーブルには当然のように教団の信者が紛れており、連絡を取り合っているのである。


「で、お前はそいつをどうするつもりだ?」

「無論、捕えて記憶を消しますとも。貴重なサンプルですからねぇ。是非手元に置いて研究材料にしたいところです」


 新たなサンプルが手に入ることを妄想し、口から僅かに涎が垂れる。ボルドーは慌てて袖で口を拭った。


「魔人を捕えるだと? ツヴァイを差し向けるつもりか?」

「そこなのですが、今のツヴァイでは勝てないでしょう。アインズやドライと3人がかりなら大丈夫なのではないでしょうか」


 他の幹部の質問にボルドーはやや困ったように答える。1対3なら勝てるだろうという安易な考えであった。


「それはならん。それより向こうに魔人がいるならもっと強い魔物を生贄にすることができるはずだ。原初オリジンの復活もまた我等の大事な使命なのだぞ?」


 マテオはボルドーを指差し、強い口調でボルドーの意見を却下した。


「その通りだ。それにアインズに何かあったらどうするつもりだ? 奴に何かあれば|魔物を呼び出すことができなくなる」

「そ、それはそうですが……」


 アインズの能力は闇の渦を生み出し、そこから大量の魔物を生み出すものである。一月に一度しか使えないが、呼び出した魔物はアインズの命令に従うのだ。ただし強力過ぎる魔物は支配を受け付けないという制限もある。


「ツヴァイと同じタイプならそう固執する必要もあるまい。それに被検体を増やせばまた手に入ることもあるだろう。むしろ我々の情報を与えぬために消すべきだ」


 別の幹部が情報漏洩を懸念し、消すことを提案する。その幹部をボルドーは目を見開いて睨みつけた。


「いや、捨て置いていいのでは? わざわざそんなことに人員を割くのも無駄というもの。元被検体だからといって我々のことなど大して知りはしないでしょう。わかるのは何やら変な実験をしている集団がいることくらいですからな」


 しかし別の幹部は放置を提案する。普通に考えれば研究所から逃げたといっても裏社会の組織であるゾーア教団の名前すら知らないはずである。仮に知ったとして、実験をしたのが教団であると結論付けることは難しいだろう。


「そうですな。ツヴァイと同じくらいの年頃だという報告を受けている。つまりたかだか10歳ですぞ? 研究所の場所すら覚えていないでしょう」


 彼等は知らない。

 その被検体がただの被検体ではないということに。ましてやこの世界がゲームの世界で、その世界のことを良く知っているなど思い至るはずがなかった。


「そうですな。なんなら原始オリジン復活後に始末すればいい。その頃には研究も進んでいるだろうからな」


 いくら魔人の力を持っていようとたかだか一人である。教団をどうこうできるはずがないと高を括っていた。


「そういうことだ。ボルドーよ、早まった真似をしてくれるなよ?」

「くっ、わかりました……」


 ボルドーは悔しそうに歯噛みし、不承不承答えた。


 しかし彼はやがて暴走する。欲望に忠実なボルドーはテアの存在を知り、原作にはない行動を取るようになるのであった。


 そしてそのことがテアにも予期せぬ展開になる大きな要因となったのである。

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