第40話 仮面の魔人5
「すまない、少し話を整理させてもらいたい。テアはそのゾーア教団によって異能を手に入れた。それは仮面の魔人も同じ、ということで間違いないんだね?」
レオン様が私の話の内容を確認する。頭の良いレオン様のことだ。もしかしたら私が懸念していることに気づいたのかもしれない。
「ええ、その通りです」
「ゾーア教団というのは僕はよく知らないんだけど、どんな奴らなの?」
どんな奴らか?
彼等の目的は人という種族を超越した存在になることだ。その種族というのが魔人らしい。魔人になる手段は手に入れたが確実になれるわけじゃないため、実験や魔神の復活によりそれを成し遂げようとしているわけだ。しかしなんで私がそれを知っているのかを問われると返答に困ってしまう。
「私もよくわかりません。ただ一つ言えることはこの街を魔物に襲わせているのは彼等だろうということでしょうか」
「まぁ、一緒に行動していた、ということはそういうことだろうね。でも今回に限ってどうして魔人を同行させたと思う?」
それは単純に実験だろう。どの程度の戦力があるのか調べないことには兵器として使い物にならないし。
「確かに変な話ですな。おかげでゾーア教団が黒幕だとわかってしまった。同行させなければわからなかったろうに」
ヘルクス子爵が疑問を口にするが、それは違うと思う。
「……それは違うと思います。今回ゾーア教団が絡んでいるとわかったのは私がいたからです。でなければあの魔人が何者なのか誰もわからなかったのではないでしょうか?」
「うん、確かにそうだね。この街を誰かが襲わせているのでは、という疑念は確かにあった。それがハッキリしたのは大きな進歩だと思う。そうなると何のために襲わせているのかがわからない」
おお、運良く私にとって都合の良い返しが来たね。これなら話を誘導できるかも。
「そうですね。私が不思議なのは毎月襲わせることが可能なのに、それにしては戦力が少ない気がするということでしょうか」
「どういうこと?」
毎月襲うだけでも疲弊はかなりのものなのはわかる。しかし襲ってくる数は普通のスタンピードより少ないのだ。
「考えてもみてください。毎月襲えるだけの数を用意できるなら、もっと数を用意してから攻め込めばいいじゃないですか」
「なるほど、確かにおかしな話だ。毎月にしなければならない理由があるということになるが……」
まぁ、それに近い理由だね。答えを知っているけど説明が難しいなぁ。なんでそんなことに気付けるのか、っていう理由が説明できないって凄くもどかしい。
「あるいは襲わせた魔物達はただの生贄に過ぎなかったか、ですね」
「生贄だと……? もしやあれか!?」
生贄、という言葉にルーセル辺境伯が反応する。思い当たることがあるようだ。
「父上、あれとは?」
「このアルノーブルの地下には原初の魔神と呼ばれる存在が封印されているのだ。封印の解除方法までは知らんが、奴らは知っているのかもしれないな」
「それが生贄だと? それならなおさらこの街の住民を皆殺しにするのでは?」
「あの、必要な生贄は人間じゃなくて魔物なのではないでしょうか?」
実はこれが答えだったりする。どういう理屈かは知らないけど、そういう設定なのだから仕方がない。必要な魔物の生贄の数は実に累計約五万だ。ただ強力な魔物が生贄の場合、多少その数は減るそうな。
「なんでそう思う」
「襲撃のデータをお願いして見せてもらったことがあります。ここ1年間のこちらの被害は徐々に減っていますよね。襲撃が人為的なものならあまりにも無策じゃないですか。とても人的被害や街の壊滅が目的とは思えません」
そういったデータは騎士団でちゃんと保管されており、実際ヘルクス子爵にお願いして見せてもらったことがある。
「ふむ、確かにこちらの被害は減少傾向にある。だがそれは部隊の練度が向こうの予想以上に増したからではないのか?」
軍部としてはそう思いたいか。確かに人的被害が目的ではないとわかれば緊張感も無くなるかもしれない。あまりいい傾向とは言えないかも。
「そうだぞ。それは我々に対する侮辱と取られても文句は言えん。謝りたまえ」
「そうですね。口が過ぎました。申し訳ございません」
いかついおっさん(失礼)に言われ、私は素直に頭を下げた。ここで自分の意見を通す意味はない。肝心なのは2年後に起きる魔人との戦いだからね。
「素直でよろしい。頻発する襲撃の背後が見えたことに免じ今回は水に流そう。今後もこの街のために頑張ってくれたまえ」
「はい、寛大な処置感謝します」
そうか、下手すると不興を買う恐れもあったわけか。これからは良く考えて発言しないと。
「ところでテアよ。お前、本当に10歳なのか? 平民の10歳にしてはちと賢すぎる」
「間違いなく10歳でございます」
身体は子供、頭脳は大人。
転生者テアちゃん!
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