第17話 新米治癒士テア2

「じゃあ先ずはギルドへの冒険者登録からだね。お姉さん頼むよ」

「はい、わかりました。お名前の方は先程伺いました通りテア様でよろしいでしょうか。それと特技や得意なことなどございましたらお願いします」


 うーん、特技かぁ。異能である【神と悪魔の手】をなんと説明したものか。正体をばらすのはどうのんだろうか。不可視という破格のアドバンテージも知られてしまえば対策されてしまうだろうし。


「あの、私のはかなり特殊な異能なので正体をあまり人に知られたくないのですが……」

「そうなのですね。それでしたら出来ることを話して下されば大丈夫です。重い荷物を運べるとか攻撃魔法や治癒魔法が使えるとかで構いません」


 つまり詳細は要らないと。それならいいのかな?


「重い荷物も1つか2つくらいなら運べますし、攻撃魔法や治癒魔法みたいなこともできます」

「そうだ、お姉さん。実は彼女読み書きは出来ないけど博識でね。ほら、治癒魔法で怪我を治したのに何故かそこから身体がおかしくなる症状があっただろ?」


 私が自分のできることを話していると、アルスターさんが割り込んで消毒の概念を伝えようとする。


「ええ、ありますね。治癒士たちの間でも正体不明の病で古傷病と呼ぶ人もいますね」

「彼女はそれを解決出来るかもしれない新しい概念を教えてくれた。もしそれが証明されればそれは世紀の大発見と言っていい。その話を是非ともギルドマスターに伝え、彼女を治癒士として治癒院に紹介するべきだ」

「わかりました。そういうことでしたらギルドマスターと直接話をした方がよろしいですね。少々お待ちください」


 アルスターさんがそう熱弁するとお姉さんはとても驚いた顔をしていた。そして頭を下げると小走りでカウンターの奥の扉へ向かっていった。


「良かったな、嬢ちゃん。この話がまとまれば治癒士として働けるだけじゃなくギルドマスターの後ろ盾も得られる。そうなれば治癒院でも色々便宜を図ってくれるだろ」

「ありがとうございます。これも皆さんのおかげです」


 深々と頭を下げる私にアルスターさんがイヤイヤと手を振る。


「いや、凄いのは嬢ちゃんだよ」

「でも私一人では話を聞いて貰えなかったと思います。Aランクパーティの風の旅人さん達が話したから信用してもらえたんです」


 そう、ここは勘違いしてはいけないところだと思う。誰も提唱したことのない話を9歳の幼女がして誰が信じるというのか。


「……テアちゃん本当に9歳? しっかりしすぎだわ。貴族の子みたい」

「ただの村娘なんですけど……」


 アーネスさんが私をまじまじと見る。 ただの村娘ってことはないけど、そうとしか答えようがない。ラスボスとか言われても何それだろうし。


「お待たせしました。ギルドマスターがお会いになるそうです。奥の方へどうぞ」

「わかった。じゃ、行こうか」


 受け付けのお姉さんに案内され、カウンターの中に通されて奥の扉へと入る。まっすぐな通路があり、ところどころに扉が見える。案内されたのは1番手前の扉だ。


「マスター、風の旅人様方をお連れしました」

「入りたまえ」


 受け付けのお姉さんが扉を三回ノックすると奥の方から野太い声で返事があった。この世界でもノック三回がマナーなのかな?

 ゲームの世界ならある程度私たちの常識が採用されていてもおかしくないか。ノック三回は世界基準だし。


「失礼します」


 受け付けのお姉さんが先に入り、私達を中へと誘う。中は応接室のようで既にちょっと強面だけど渋めのおじさまがソファに腰掛けていた。私たちの座る場所は当然テーブルを挟んだその対面である。ギルドマスターと受け付けのお姉さんが並んで座ると早速ギルドマスターが切り出した。


「で、本当なのかね? 古傷が謎の悪化をするという古傷病の対策があるというのは」

「ええ、私も話を聞いた時は疑いました。ですがこの子の説明を聞いていると、それで全ての説明がつくのです。対処法も治癒院でしたら十分可能なものですしデメリットも無いでしょう」

「なるほど、ではその説明をお願いしよう」


 ギルドマスターに聞かれ、私はアルスターさんに話した消毒や細菌の概念を伝える。そしてカインさん達も私がどれだけ役に立つ能力を持っているのかを力説してくれた。





「なるほど、確かにそれなら説明がつくだろう。魔法で行う分にはデメリットもない。試してみる価値はあるだろう」


 私の話を聞き、ギルドマスターは少考した後顔を上げて答えた。正直信じてもらえるなんて思っていなかったよ。


「うん? どうした、随分と驚いた顔をしているようだが」

「あ、いえ、信じてもらえるなんて思っていなくてその……」


 いかん、顔に出ていたか。不意をつかれたせいでドギマギしちゃったよ。


「そんなに意外かね?」

「え、ええ。だってすぐに証明する手だてもありませんし、こんな子供の話をよく信じたなぁ、と」

「ふん、行うのにそれほどデメリットもないし大した予算もかからんのだ。治癒士の魔力を余分に消費するという問題は残るが、浄化の魔法は見習いでも使える魔法だ。検証には時間がかかるがやってみる価値はある」


 ギルドマスターは私が思ったことを話すと軽く鼻で笑い、判断理由を述べた。


「じゃあ……」

「治癒院の院長には私から話を通しておく。明日から治癒院で働けるよう手配しておくから明日の昼前にでもギルドに来なさい。体裁としては冒険者ギルドからの派遣治癒士という扱いにしておく。そうすれば何かあったときに私も力になれるからな」

「ありがとうございます。破格の待遇だと思うんですけど、どうしてここまでして下さるのですか?」


 私個人の信用なんてあって無いようなもののはずなんだよね。それなのに組織のトップが口利きしてくれるなんて普通はないはず。どう考えても破格の待遇だ。


「ああ、嬢ちゃんといる風の旅人というパーティはそれだけ信頼があるということだ。こいつらがそこまで褒める程だしな。優秀な治癒士はギルドの利益にもなる」

「そうだね。成人していたらパーティに誘いたい程だよ。でも残念ながら指定エリア外へ出る必要のある依頼は13歳からじゃないといけない決まりでね」


 ほえー、Aランクのネームバリューって凄いんだなぁ。そういうパーティと知り合えたのは運がいい。この縁は大事にしたいな。


「ではこのまま冒険者登録の手続きを済ませてしまいますね」


 お姉さんは持っていた用紙に文字を書き始めた。恐らく私の登録の書類だろう。これで生活基盤を作るための仕事は手に入れた。後は住む所とこの世界の常識を教えてもらえば大丈夫かな?

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