第18話 新米治癒士テア3

「では簡単に冒険者としての説明を行いますね。まずテア様の冒険者ランクは最低のHランクです。このランクは12歳以下の方が対象で外へ出る依頼を受けることはできません。話を聞いた限りでは威力のある攻撃魔法のようなものを使うこともできるようですが、例外はありません。ここまではよろしいでしょうか」

「はい、問題ありません」

「そしてまだ先の話ですが、13歳からは指定エリア内での採取依頼や小動物を狩ってギルドに卸す常備依頼を受けることができます。これがGランクですね。Fランクに昇格するためには訓練所での戦闘試験に合格する必要があります。また、訓練所による訓練はランクや年齢に関係なく受けることができます」


 訓練所があるのか。ならそこで私も【神と悪魔の手】を使いこなす練習がしたいな。レオン様と関わりたいなら戦う力はきっと必要になるはずだもんね。


「ということは私も受けられるんですね」

「ええ、受けられます。こちらは無料で受けられますので将来討伐依頼を受けたいのであれば早い方がいいでしょう。その先に関してはFランクになったらまた説明致します」


 あ、今はしないんだ。そりゃ早くとも4年後の話だもんね。今してもしょうがないか。だいたい検討つくけど。


「それではギルド証を作って来ますので少々お待ちください」


 説明を終えるとお姉さんはキビキビとした動きで退室する。うーん、できる女性って感じがしていいなぁ。


「まぁ討伐がしたかったら俺たちに依頼を出せばいいよ。例えば外での戦闘訓練依頼とかな」


 あ、やっぱりそういう抜け道あるんだ。


「おい、新人にズルを教えるな。それで何かあればお前たちの評価は地に落ちるぞ」


 ギルドマスターが怖い顔でアルスターさんを睨みつける。


 目ヂカラすごっ。


 これにはアルスターさんも怯み、慌てて言い訳を始めた。


「いや、でもこの子の運搬能力が……」

「人力車でも引け。治癒士で稼げるのに危険なことをさせるな」

「いや、でもHランクでも実際は採取依頼手伝ってる子多いじゃないですか」

「そっちの抜け道は俺の悩みの種だ。厳しく規制すれば生きていけない子供だって出て来るから黙認しているだけだ。必要性も危険度も違い過ぎるだろ」


 ああ、そうか。Hランクは外に出れないから街の中でやる依頼しかできない。しかしそんな依頼は当然数は限られているし子供達にできる仕事なんてそんなにあるわけがない。そうなると当然収入がなくなるから危険を冒してでも採取依頼をするしかないわけだ。採取した物はグループ内で年齢条件をクリアしている人に換金してもらえばいいし。


 しかし私には戦う力も必要だ。今レオン様がいるであろうアルノーブルは魔物の軍団との戦闘地帯なのだから。だから風の旅人の提案は私も利用しようと思っている。でもその前に自分の能力をちゃんと把握してからか。ゲームの公式資料だけではわからないこともあるだろうし。


「お待たせしました」


 そこへ受け付けのお姉さんが戻ってきた。そして私にギルド証を手渡す。ギルド証は首にぶら下げるものらしく、長い紐がついていた。銅板には文字が刻印してあるようだけど読めない。わかる文字は「H」くらいか。ここだけアルファベットってのはリアルだと違和感凄いかも。


 だってアルファベットが文字として成立しているならそれを使う言語があってもいいと思うんだよね。私が知らないだけで存在するのか、それとも記号や数字みたいなものなのだろうか?


「このギルド証は身分証にもなります。無くすと再発行が必要になりますが有料になりますので無くさないようお願いします」

「はい、ありがとうございます」


 身分証か。無くさないようにしよう。これを盗んで詐欺を働くとかあるのだろうか?


「じゃあとりあえずその金貨の袋はギルドに預けるといいよ。ここのギルド以外では引き出せないけど管理はしっかりしてるから」

「あの、服とか住む所とか色々必要なんですけど、いくらくらいあれば大丈夫ですか?」

「そうだね。宿屋暮らしでも金貨1枚あれば1人なら5泊できるし、1回の食事でも銀貨3枚もあれば定食屋で食事できるからね。金貨5枚くらい持っていれば困ることはないと思うよ」


 そうなると金貨140枚って相当な大金ということになる。この話だけでも1ヶ月生きるには最低でも金貨9枚くらいは必要になる計算なのだ。手持ちだけで1年生きていけるのは安心感があるなぁ。


「わかりました。じゃあ5枚残して135枚預けたいと思います」

「承りました。テア様金貨135枚お預かり致します。引き出す際はギルド証が必要になりますので盗られないようお願いします。私とギルドマスター以外はまだ顔を覚えておりませんので。それと形式上ですが亡くなった際に財産を引き継ぐ相手を指定できます」

「え?」


 相続というシステムがあるのか。でも私に相続すべき人っていないんだよね。レオン様を指名する訳にもいかないし。


「普通は自分の家族を指名するもんだ。嬢ちゃんは身寄りがないから空欄でいい。間違っても血の繋がってない相手を指定しちゃだめだ。俺たちも含めてな」

「そうよ? 優しく接して自分を指名させてから殺す、っていう手口があるの。いくら親切にされても絶対ダメだからね?」


 アルスターさんとアーネスさんが私の肩に手を置いて話す。うん、お金もってる世間知らずの幼女なんて狙われて当たり前か。心配されるのも仕方がないね。

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