第16話 新米治癒士テア1
カインさん達が先に入り、私がその後ろを付いて歩く。ギルド内には冒険者達が集まるためにテーブルや席が幾つも設けられているため、中はとても広い。さらには受け付けカウンターの隣に食事注文を受け付けるカウンターも併設されていた。
そして夕方ともなれば既に飲み始めている冒険者もおり、中はとても賑やかだ。私達が入って来たときこちらに注目する冒険者も多かったが、カインさん達を見て再び仲間との話や食事に集中する人が多かった。
「じゃあ先ずは受け付けカウンターへ行こうか。先ずは換金してそれから依頼を出せばいいから」
「はい」
カインさんに連れられ、私達はカウンターへと向かう。受け付けは綺麗なお姉さんだ。カインさんがカウンターの前へ出ると丁寧にお辞儀をして出迎える。
「これはカイン様、木簡をたくさんお持ちのようですね。換金でよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
カインさんがカウンターに木簡を並べる。すると受け付けのお姉さんは驚いたのか眉が跳ね上がった。
「まぁ、こんなに稼いだのですね。何を倒されたのですか?」
「倒したのはツインベアー二体だけど、丸ごと持ってきたんだ」
「え……? ツインベアー二体なんて人の運べる量じゃないですよ? あれは重すぎてばらさないと荷台に乗りませんし」
「それとワイバーンの魔石があったんだ。持っていたのはこの子だし、ツインベアーを運んだのもこの子だ」
うんまぁ、そうなんだけどさ。あまり変に追求されたくないんですけど。受け付けのお姉さん私の方ジーッと見てるし。
「そ、そうなんですね……。とにかく換金ですね、少々お待ちください」
幸いにもお姉さんは特に何も聞かず換金してくれるようだ。聞かれないならそれに越したことはないんだけどね。
程なくして受け付けのお姉さんは大量の金貨が入っているであろう布袋を持って来た。それをカインさんたちが3人がかりで勘定をして私に取り分を渡してくれた。ありがたいことに目の前で数を数えながら布袋に入れてくれたので確認の手間もない。
「これが嬢ちゃんの取り分の金貨140枚だ。大金だから冒険者ギルドに登録して殆どを預けておくことを勧めるよ」
「ありがとうございます。それと依頼の方もお願いしたいです」
私が依頼という単語を口にすると、受け付けのお姉さんがニッコリと営業スマイルを向けて話しかけてきた。
「ご依頼でございますか? それでしたらこちらでお受けいたします。文字を書くことはできますか?」
「いいえ、読み書きはできません」
残念ながら文字の読み書きができないのは確認済みだ。事前にわかったおかげで余計な恥をかかなくて済んで良かったよ。
「わかりました。では依頼内容と依頼主様のお名前をお願いします。依頼内容により、こちらが相場を提示いたしますね」
おお、相場を提示してくれるのは助かる。お金の価値もわかんないから教えてもらいたいことはたくさんありそうだ。
「ありがとうございます。私はテアと言います。依頼は私がこの街で生活基盤を作るためのサポートです。Aランクパーティ風の旅人を指名したいと思います」
「テア様ですね。生活基盤を作るためのサポートとのことですが、期間の方は如何なさいますか?」
「生活基盤を作るだけなら嬢ちゃんならそう難しいことじゃない。アフターケアも含めて一週間てとこだろうな」
横からアルスターさんが期間を指定する。私の能力を生かすなら冒険者かな?
冒険のイロハを教えてもらえるだけでもかなり助かるけど、一週間て短いような気がするなぁ。とはいえ1ヶ月だとさすがに迷惑だろうし、それで大丈夫かな?
「じゃあ一週間で。こういう依頼ってやっぱり珍しいですか?」
「そうですね。冒険のやり方や戦い方を教えて欲しいとかそういう類の依頼に分類されますので相場もそれに従うことになります。Aランクパーティに教えを乞うのでしたら相場は1日金貨2枚ですね。利用されるのは主に貴族の方です」
貴族が利用するってことは指導料は高めの設定なんだろうなきっと。でも今は潤っているし必要経費だから問題ないかな?
「わかりました、それでお願いします」
「はい、では依頼書を作成致しますので少々お待ちください」
金額も決まり、お姉さんは書類の作成に入る。書類は割とすぐにできており、依頼を受けることになるカインさんに手渡された。私は見てもわからないので渡されても困るだろうから渡さなかったのだろう。
「これで問題なければ受注のサインをお願いします」
「ええ、問題ありません」
カインさんがペンを走らせサインをしているようだ。依頼書とやらを見せてもらったんだけど、何が書いてあるかさっぱりだった。読み書きを教えて貰えるところがあればいいんだけどなぁ。
カインさんが依頼書を受け付けのお姉さんに渡すと、私にその依頼書を見せて説明を始めた。
「では依頼終了について説明致します。依頼の期間の終了、または依頼が達成されたと判断された場合は依頼主がこの依頼書のここに評価を書くことになります。達成度は5段階評価になっていまして、最高評価は☆でそこから順に◎、〇、△、✕となっております。☆を与える場合、追加報酬が必要になります。その場合追加分の記載をお願いしておりますが、文字が書けない場合は書かなくても大丈夫です。追加分の報酬額に関しては特にルールはございません」
お姉さんは説明のために評価に使われる図柄が書かれた紙も見せてくれた。なるほど、これなら読み書きができなくても評価を書くことができる。上手く考えたものだ。
「わかりました、ありがとうございます」
「では依頼書は風の旅人の方にお返しいたします。終わったら依頼主の方に評価をお願いしてください」
「はい、わかりました」
カインさんが依頼書を受け取り、たたんで背中のリュックにしまう。
「以上で説明を終わります。お疲れ様でした」
そして説明の終了を丁寧に頭を下げて告げるとまた営業スマイルを見せるのだった。
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