第15話 Aランクパーティ風の旅人5

「ツインベアーは毛皮がいい素材になる。それに肉も美味くてな。獣臭いと思われがちだが実はそんなことはないんだ。ツインベアーは重いから一体丸ごと運ぶ奴もいないから希少価値も高い。それに肉も毛皮もそれほど傷がついていないのも素晴らしいな」


 おっちゃんはツインベアーのあちこちを調べながらツインベアーの価値について教えてくれた。私も熊肉は食べたことがない。ネットでは美味しいと言われているようだけど。


「いくらになる?」

「そうだな、これなら2体で金貨120枚というところだな。2体とも結構デカイからこんなものだろう」

「凄いじゃない! 普通なら金貨20枚くらいなのに」


 金貨120枚と聞いてアーネスさんが目の色を変える。っていうか金貨100枚の差ってエグくない?


「どうしてそんなに差があるんです?」

「だってツインベアーなんて重たいから普通はその場で魔石と身体の一部を持っていくのが精一杯なのよ」


 確か1メートル程のヒグマで約100kgくらいだったと思う。そしてこのツインベアーの体長はどう見ても2メートルオーバーだ。少なく見積もっても1匹あたり400kgくらいあってもおかしくない。そんなもの丸ごと持っていくなんて普通は無理だよね。


「そうだな。丸ごと持ってきた奴は初めて見たぜ。肉は本当に貴重でな、丸ごと持っていこうと思ったら馬車に載せるしかないが、そもそも重たくて丸ごと載せるなんて無理だ。やるなら身体をバラバラにするんだが、それだと毛皮の価値が落ちてしまうのさ」


 確かに。そもそも持ち上がらない物を馬車に載せることなんて無理だもんね。だったら持ち上がるように切り刻むしかない。そうなるとこの神と悪魔の手って実は格闘で使った方が強いのではないだろうか。


 一応設定資料集とかには神と悪魔の手のことも載っていたんだけど、どれほどのパワーがあるかなんて書いてなかったっけ。一度ちゃんと検証しておいた方が良さそうだね。


「それとワイバーンの魔石だが、検出された魔力は1260マギカだった。1000マギカを超えているから銀貨7560枚になるな」


 魔力の単位はマギカというのか。売り値から見て相当凄い数字なんだろうけど、どの程度凄いのか全くわかんないや。


「参考までにこのツインベアーの魔石の魔力は通常420マギカ前後ってところだな。銀貨1260枚分といったところだ」

「200マギカ毎に買取り価格が跳ね上がるってことですか?」


 具体的には1マギカ毎に銀貨1枚で200から2倍、400で3倍と跳ね上がっていくのかな。それで1000を超えたら固定か範囲が広がるか、ということかもしれない。


「ああそうだ。嬢ちゃん賢いな。その歳でもう計算ができるのか」

「でもこの子読み書きが出来ないのよ。変わってるでしょ?」

「おいおい、読み書きできねぇのに計算ができるっておかしいだろ……」

「あはははは……」


 別の世界から来ましたー、なんて話はする気もない。笑って誤魔化そう。


「じゃあこれは合わせて金貨195枚分と銀貨60枚分の木簡だ」

「凄いね、こんなに大量の木簡を持つのは初めてだよ」


 カインさんが受け取った木簡には文字が書かれているんだけど読めない。ただ数字がアラビア数字だったおかげで予想はできた。さすがゲームの世界である。それに木簡の数が10枚ということは金貨50と10、5と銀貨50と10の木簡があるということだろう。


「ほんと、凄いわね。テアちゃんの取り分はワイバーンの魔石とツインベアー一体分と運搬手数料込みで金貨140枚でいいかしら?」

「相場を考えればそんなもんかな。それだけ引いても金貨55枚は相当な稼ぎだし」

「換金手数料払います。その代わりと言ってはなんですが、この街での生活基盤を作るのに協力していただけないでしょうか?」


 換金手数料については馬鹿正直に言っている訳じゃないよ?

 確かに私はアルノーブルへ行ってレオン様にお会いする、という目的がある。しかし私はこの世界のことをちゃんと知っている訳では無い。ゲームのシナリオは知っていても生活の仕方は別だからね。


 だったら先ずは頼れる相手がいるうちに生活基盤の作り方やこの世界のことを学ぶのが賢い選択というものだ。それにアルノーブルへ旅立てば私はまた一人になる。旅の仕方も道もわからないのに旅立つのはアホのすることだと思う。


「依頼として引き受けるよ。じゃあ早速ギルドへ行って指名依頼をしてもらおうかな」

「ちゃっかりしてるわね」


 カインの提案にアーネスがクスリと笑う。


「でもその方がいいと思うぞ。テアちゃんは俺たちを頼りたいんだしお互い得がある」


 アルスターさんがカインさんを擁護する。私としても別に損するわけじゃないだろうから問題ない。


「よくわかりませんけど私は大丈夫です」


 私にしてみれば選択肢ないんだけどね。それに悪い人たちじゃないみたいだし、そこは信用してもいいと思うのだ。


「じゃあ早速ギルドの受け付けへ行こうか」

「はい」


 私はカインさんに促され、一緒に隣の冒険者ギルドの建物内に入るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る