第14話 Aランクパーティ風の旅人4
街に向かって歩き始めてからどれくらいの時間が経ったろうか。街の城壁が見える頃には既に夕日が眩しかった。確かにこれだけ歩くとなると子供の足では1日で着くなんて到底無理だったろう。神と悪魔の手様々だ。
「なんとか暗くなる前に着けそうだね。これもテアちゃんがツインベアーを運んでくれたおかげだよ、ありがとう」
「いえいえ、私も色々お話聞けましたし街にも着けたので助かりました」
カインさんがニッコリ笑って礼を述べる。私もなんだかんだで色々話が聞けたのは大きかった。何せゲーム内では庶民の生活とか冒険者の仕事など、そういった話は大して出てこないのだ。街に着けば世間知らずで無知な子供と変わらないだろう。
それからしばらく進み、ようやく街の門まで辿り着く。その門では当然人の往来があるわけだけど、そこで私たちは注目の的になってしまった。
「おい、あの子浮いてないか?」
「おい、あの浮いてるのツインベアーじゃないか。どうやってんだよ」
「あれはAランクパーティ風の旅人じゃないか。あの幼女はまさか新メンバーか?」
うん、原因全部私じゃん。とはいえ今更ツインベアーを下ろすのも歩くのもやだ。気にしないでおこう。幸い誰も話しかけて来ないから問題無いし。
「風の旅人です。通りますね?」
「あ、ああ。その女の子は?」
「途中で知り合った魔道士ですよ。子供なので通行税要りませんよね?」
おお、子供は通行税免除か。それはありがたい。しかし私の格好はどう見ても普通の村娘なんですけどね。これで魔道士は無理があると思うけど。
「ま、まぁそうだな。よし、通っていいぞ」
しかし深く追及されずに通行の許可が降りた。カインさん達がAランクパーティだからとかそんな理由だろうか?
「よし、じゃあ行こうか」
「はい」
カインさんに促され、呼び止められたくない気持ちからか私はカインさんを追い越す勢いで横に並んだ。その後も街の人たちから注目されたけどね。
「そういえば街の中ってあんまり露店とか並んでないんですね」
私のイメージだと街のあちこちに露店が建ち並んで賑わうのがファンタジーの街並みだったんだけど。
「いや、ちゃんとあるぞ。ただ露店を出していい場所ってのは限られているんだ。施設や人様の家の前で露店出されても迷惑だろ?」
「そうよ。だから露店を出していい区画が決められているの。ある程度固まって露天があった方が警備もしやすいし、人も集めやすいものね」
「あ、言われてみればそうですね」
そうか、警備の問題はあるよね。まさか日本みたいに治安が良いとは思えないし。
「それより見えてきたよ。あの建物が冒険者ギルドだ。ちゃんと看板も出ているけど読めるかい?」
カインさんの指差した方向に大きな建物が見えた。その周辺にはお店もあるようだ。そしてはたと気づく。私が今話しているのは恐らく日本語だ。しかし看板に書かれている文字は違う。英語でもない見たことの無い文字で、当然何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。
「よ、読めません……」
これは困った。私はてっきり日本語ができれば問題無いと思っていたけど甘かったか。確かにファンタジーゲームの看板が日本語だったら世界観ぶち壊しだよね。
「博識なのに文字が読めないって変わっているわね。まぁ、詮索はしないけど」
「一応読み書きを教えてくれる所はあるぞ。有料だけど冒険者ならいずれは習得しないと不便だからな」
「そうね、文字が読めないと魔導書も読めないものね。でもそうなると魔道士は名乗らない方がいいわよ」
うん、魔導書の読めない魔道士か。きっとこの世界ではそんなのは存在しないってことなんだろうね。
「ではなんと名乗れば……」
「そうね、スキルで魔法みたいなことが出来るようだし能力者でいいんじゃない?」
「能力者ですか」
私からすればそのまんまなんだけど。でも他に呼びようがないかもしれない。ゲームには異能を持っているとかの説明はあっても呼び名なんてなかったもんなぁ。
「うんそうだね。生まれつき特別なスキルを持って生まれた人をそう呼ぶんだ。魔力を持っている人も多いけど魔道士とは別物として扱われるよ。でも治療のできるスキルはかなり珍しいかな」
「そういう能力者って結構いるんですか?」
「いや、むしろ少ないかな。この街の冒険者だと二人くらいじゃないかな。もちろん僕たちは持っていないよ」
そうか、少ないのか。つまり希少価値ということになる。もしかしてそれが原因でゲームのテアは奴隷にされたのだろうか?
しかしどうやってテアを奴隷にしたのかその手段が気になるな。
「中に入る前に解体場に行くよ。そこで獲物を査定してもらうんだ」
カインさんの指差した方の建物は入り口が全開になっており中が丸見えだ。そこでは屈強な男の人達が忙しそうに動いているのが見て取れた。
その建物の中に入るとムワッと血の臭いが広がっていた。とある場所では首のない太った化け物が逆さ吊りにされ、その首から血が滴っている。もしかしてあれ血抜きかな。
「おっちゃん、ツインベアーを狩って来たから査定してもらえないかな」
「おう、カインじゃねーか。ほぅ、どの部位を持って……、って丸ごとかよ!? しかも二匹だと? 宙に浮いてるしどうなってるんでい!」
カインさんが作業をしているおっちゃんに話しかけると、そのおっちゃんがこちらを見て驚いていた。うん、そうなるよね。
「まぁ、細かいことは置いておいてくれないかな。とにかく査定頼むよ」
「あ、ああわかった。じゃあツインベアーをそこに並べてくれ……」
「はい」
おっちゃんの声がなんか小さい。まぁとにかく言われた通り並べよう。私は手を操り二体を仰向けにして並べた。
「これでいいですか?」
「って、お嬢ちゃんが浮かせてたのか!」
そこは想定してよ、というのは無茶振りだろうか?
だって他にいないじゃんねえ?
「あ、これも査定してください」
「これは魔石か。ず、随分とまたデカイな」
「ワイバーンの魔石です」
「はあっ!?」
おっちゃんの驚く声に作業員の視線が集まった。いちいち驚かずに仕事してよ。
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