第2章 新しい生活
第11話 Aランクパーティ風の旅人1
「あったあった、これだ。でもお肉はやっぱりダメみたい……」
木の下に埋めた魔石は無事だったけど、お肉は虫が集っていて既に異臭を放っていた。そりゃ常温で一週間も土に埋めたらこうなるよね……。食糧は途中で小動物でも狩るしかなさそうかな。野草は何が食べられるのかわかんないし。
私は魔石を抱え、チラリと村の方を見た。マエルさん無事治ってるといいな……。気にはなるけど確認しに行く訳にもいかない。今さら村に戻る勇気が無いだけだけど、それ以上に受け入れられてずっとこの村に居るわけにもいかないのだから。
「行こう、きっと大丈夫だから」
村から視線を外し、来た道を見据える。そして銀色に輝く魔石を抱えて手に腰掛けた。身体が子供サイズなのでこの魔石が結構大きく感じてしまう。バレーボールとそう変わらない大きさだから目立つだろうな……。
ふわりと身体が浮き、再び林道を目指す。大分扱いにも慣れたんだけど、こうやって低空飛行するの結構楽しい。
「キャッホーイ」
道なりに飛んでいるんだけど、周りに障害物がないのをいいことにちょっとジグザグ飛行したりくるりと回ってみたりしてみた。落ち込んだ気分を無理矢理盛り上げ、少しでも楽しい気分を出そうと声に出す。
そうしているうちに林道が見えてきた。さすがにこの中をジグザグ飛行する訳にはいかない。少し速度を落とし、林道へと入った。
曇り空のせいか森林の中は少し肌寒い。。鳥の鳴き声も聞こえないし陽射しもないから澄んだ空気が余計寒々しく感じられる。村で貰った服が薄着じゃなくて良かったよ。おかげで何とか耐えられそうだ。
「おや?」
しばらく進んでいると遠くに人影が。見た感じ何かと戦っていのかな?
ここは木の影に隠れて様子を見よう。そのために林道から外れ、木の間を通り抜けてゆっくりと飛行する。
距離にして10メートル程だろうか。かなり近くまで来たと思う。おかげで様子がよくわかる。
戦っているのは恐らく冒険者というヤツだろう。このゲームでも出てきていたし冒険者ギルドもあるのは知っている。長身の剣士風の男性ともう1人剣を持った女性がいて、魔道士風の男性の3人のようだ。
彼らと戦っているのは熊っぽい魔物。普通の熊と違って前脚が4本もある。ゲームじゃ見たことないけど魔物にしか見えないね。そもそもあのゲームは戦闘してレベルアップ、なんて概念がなかったからこの世界のモンスターの知識なんて私は持っていないのだ。
「うーん、あの魔物強そう。あんなの2体となんてやりあいたくないな……」
私には確かに【神と悪魔の手】というぶっ壊れ性能のスキルがある。攻撃力、という点においては不安は無い。問題は私自身がか弱い幼女である点だ。熊の一撃なんて喰らったら普通に命に関わる。好き好んでやり合おうなんて思うわけがない。
そうなると無視して迂回するのがいいんだろうけどね。戦う力があるんだと思うと加勢するべきなのかとか考えてしまうのだ。
「ちっ、なかなかしぶといな!」
「おい、アームベアが構えたぞ! 避けるんだ!」
見ていると一体の熊の魔物、アームベアが四つん這いになって動きを止めていた。そこから猛ダッシュで冒険者たちに突進してきた。
「ちぃっ!」
アームベアは四つん這いで駆ける。しかし四つん這いなので手が二本フリーだ。そのフリーの腕を振り回しながら突進するものだから範囲が若干広い。熊の爪が腕をかすめると肉がえぐれたのか鮮血が吹き出す。
さらにまずいことに、突進した先は私の隠れている木の近くだった。アームベアは突進しつつもその身を旋回させ、地面を滑りなかまらも真後ろを向く。その視線の先には私。
はい、ばっちり目が合っちゃいました。
「ガアアアアッッ!!」
ターゲットを私に変更したのか、熊が立ち上がり、4本の腕を広げて威嚇する。
「あら?」
普通にピンチのはずなのになんで私はこんなに冷静なんだろう。ま、いいか。降りかかる火の粉は払うのみだ。
「子供!? なんでこんなところに!?」
「いかん! アームベアが!」
冒険者たちが私に気づいたようだ。今私は後ろのアームベアと対峙しているからどんな様子かわかんないけど、きっと焦っているだろう。
しかし私から見れば熊が威嚇してる間は隙だらけだ。私の見えざる手は既に熊の頭を掴んでいる。
「爆ぜろ」
たった一言でアームベアの頭が爆発、四散した。それにしても綺麗に吹っ飛んだものだ、首から上が無くなって黒い煙が立っている。前に倒れたら潰されるな。離れないと。
私は自分の座る腕を操り熊から離れる。その直後に魔物は前向きに倒れると、ズシンと重量感のある音が響いた。ついでだ、もう一体も殺ってしまおう。
もう一体は魔道士の男の人が魔法で牽制しながら動きを抑えているようだ。他の2人、私を見てる場合じゃないと思うんだけど。
もう一体に狙いを定め、見えざる手の指先を向ける。
「穿て」
指先から黒い光線がほとばしる。その光線は真っ直ぐ熊の眉間を捕えた。
「ギャウッ!」
威力不足のようで一撃で貫くことはできなかったが、アームベアは大きくよろめく。攻撃自体は効いているのか?
「今だ! チェーンバインド!」
魔道士が魔法を発動させると地面にいくつかの魔法陣が現れ、鎖が飛び出した。その鎖は熊の首に腕にと絡まりその動きを封じる。
「ナイスだ!」
そのチャンスに剣士の男性が高く飛び上がり、熊の頭を剣で叩き斬る。真っ二つとはいかないものの、剣は頭を半分ほど斬り裂いて十分致命傷を与えているようだ。
そして倒れる熊。頭をかち割られて即死してのだろう、大きな音を立てて倒れると頭から大量の血を流していた。
「そこの嬢ちゃん、大丈夫か?」
「ねぇ、あの娘アームベアを倒したわよね」
「さっきの黒い光、もしかして嬢ちゃんが出したのか?」
そして戦闘が終わると彼らの興味は当然のごとく私に向くのだった。
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