第12話 Aランクパーティ風の旅人2

「えーっと、まぁそんな感じです……」


 ちょっと困った風を装い私は答える。訳あり感満載にしておけば追及されないかなーなんて思ったりと。


「そうなのか。助けてくれてありがとうな。俺はカイン。Aランクパーティ風の旅人のリーダーをしている。あいてて……」


 カインは熊に抉られた左腕を押さえ、顔を苦痛に歪めながら自己紹介をする。戦闘が終わり気が抜けたら痛みが来たのだろう。流れる血の量も少なくない。早いとこ応急処置なり消毒しないとダメそうだ。


「ちょっとカイン大丈夫なの? 待ってて、すぐに回復魔法を……!」


 ん?

 消毒をせずに回復魔法?


「だめ!」

「え!?」

「いや、回復魔法で傷を治さないとダメだろうこれは」


 うーん、この世界ではこれが普通なのだろうか?

 野生の動物の爪なんて雑菌の塊だ。つまり傷痕には大量の雑菌がいるわけで、そのまま傷を塞げば雑菌ごと閉じ込めることになる。破傷風とか敗血症とかになったりしないのだろうか?


「ちゃんと消毒しないと大変なことになります。私がやりますから」


 神の手を生み出し、カインの傷口に触れさせる。原作にそんなシーンないけど消毒も多分できるだろ。無理なら焼くしかない。


「雑菌消えろ!」


 とりあえず念じてみた。すると傷口が光に包まれる。これは上手くいったっぽい。鑑定とかできたらなぁ。ま、大丈夫でしょ。


「よし、治すね。治れ!」


 そしたら後は治癒の力を使うだけだ。またも腕が淡い光に包まれ、みるみるうちに傷が塞がっていく。


「凄いわね、私の治癒魔法より凄いかも」

「しかし雑菌ってなんだ?」

「ふぅ……、痛みがひいていくよ。凄い楽になった」


 カインの表情が和らいでいく。他の2人は私の治癒の力に驚いているようだ。確か原作でも治癒魔法はあったけど、普通はどの程度のものなのだろうか?


「いや、助かったよ、ありがとう。世話になったね。ところで嬢ちゃん、さっきから気になっていたんだけど、宙に浮いてない?」

「あ……」


 すっかり忘れていた。私は今見えない手を椅子がわりにして座っているのだ。他の人が見たら宙に浮いて見えるよね。


「もしかして名のある魔道士なのかしら?」

「それより雑菌ってなんだ?」


 女性の方は私が高名な魔道士に見えるらしい。そして魔道士の方は雑菌というワードが気になっているようだ。そういや殺菌や消毒の概念が生まれたのって確か1800年代だった気がする。顕微鏡なんてないだろうし雑菌なんて言葉自体存在しないだろう。


「えーっと、そんな大それた者じゃないです。それと、雑菌というのは目に見えないくらい小さい生物です。それが体内に入ると色々悪さをして時には人を死に至らしめることさえあるんですよ」

「目に見えないくらい小さいのになんでその存在を知っているんだ?」


 うわっ、そこをつきますか。でも確かに目に見えないものを信じろ、というのは難しいだろう。なら実例で理解させるしかない。


「それを説明するのは難しいです。ですが傷を治癒魔法で治したはずなのに腫れあがったり、後々痛くなったりしたという話とかは聞いたことがないですか?」

「たまにそういう話を聞くな。毒を持っていない魔物のはずなのに数日後に身体に毒があった、なんて話は割とある話だ。それで怪我を治す際に毒消しの魔法を使ったり状態異常を前もって確認することもあったが、それでも何故か後になって毒に犯されていたという話もある」

「そうそう。あれは不思議よね。呪いでもないし何故なのか誰にもわからなかったわ。その治療になると高額になるから、ホント困るのよね」


 やっぱりあったんだ。しかし消毒の概念を作るとしてもどうやって日常的に消毒させればいいんだろ。アルコール消毒の場合濃度が70%ないと効果が著しく落ちてしまう。


 40%ほどだと熱めにして長い時間付けておかないとほぼ効果がない。漫画とかで消毒だと言ってウォッカを使うシーンがあるけど、普通のウォッカは40%前後だから濃度足りないんだよね。


「そう、その原因こそが目に見えないほど小さい生物のせいなら説明つきますよね?」

「確かにそれなら説明がつくな。それを防ぐのが消毒とかいう行為なのか。是非それを教えてもらえないだろうか?」

「もちろんタダとは言わない。効果が確認できないからあまり高額を払うことは出来ないが、金貨2枚でどうだろう?」


 金貨2枚……。

 その価値が私にはわからないんだけど。金貨といっても原作には金貨の価値がどの程度なのかという描写があまりないのよね。あったとしても覚えがない。


「あの、それならウォルノーツの街までの案内と護衛、それと通行税があるならそれを出してもらうということでどうでしょう。私一文無しですし」

「一文無しってなんだ?」


 あ、これ通じない言葉か。喋っているのは日本語なのに日本の言い回しが通じないって変な感じよね。


「お金がない、ってことです」

「怪我も治してもらったし、一週間分の生活費も出すよ。銀貨60枚くらいあれば足りるはずだ」


 うーん、これは銀貨100枚で金貨1枚な感じだろうか。今の相場だと金は銀の80倍くらいだったかな。ほとんどのファンタジーはわかりやすいように銀貨10枚で金貨1枚の価値なのにね。それを言ったらなんで白金が金より高価なのか、なんてツッコミもあるけどそこは異世界だからで済ませて良いと思う。


「ありがとうございます。あとできれば冒険者ギルドに案内して欲しいです」

「そのくらいはお安い御用よ。私たちも寄らないといけないし。で、悪いんだけどツインベアーの素材剥ぐからちょっと待っててね」

「はい、そのくらい待ちます」


 かくして私はウォルノーツまでの案内と護衛を手に入れたのだった。そしてこの出会いがもしかしたら私の運命の別れ道だったのかもしれない。

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