第2話『暗殺一家』



 改めてになるが私の紹介をしよう。

 私の名はメアリー・コーラル・ライト。

 伯爵家ライト家の長女として生を受けた、今年16歳の女だ。


 ただ、普通とは大きく違う所が一つある。

 ソレは簡単。私の家が、代々国家を裏から守る殺し屋一族であると言う事。

 祖父母から両親、兄弟に迎えた嫁に至るまで全員殺し屋で構築された血の濃い一族である。


 もう千年も昔から王国に使え、王や次期王の邪魔者になる立ちを闇に葬って来た。

 その見返りとして「伯爵」の地位と領土を与えられ、表は一貴族として暮らしているのだが。


 私、コーラルはその中で産まれ、殺し屋として育てられ、しかし一度たりとも殺しを成功させていない落ちこぼれ中の落ちこぼれである。


 初任務は6歳の時。

 今の第一皇子の友人と呼べる少年を殺せと言う依頼。

 幼いころの私は、初めての任務でソレは浮かれに浮かれ切って意気揚々と飛び出していった。

 獲物はナイフ。

 

 王宮に潜り込みお花を摘んで遊ぶふりをして、私は皇子と友人に近づいた。

 綺麗な噴水の周りでの出来事。今でもよく覚えている。

 楽しそうに遊ぶ皇子様の側に「一緒に遊ぼう」と走り寄って、気をひいて。

 「噴水の中に何か落ちてる」と適当な事を言って、隙を見た瞬間標的にナイフを振り下ろす。

 完璧な計画だったし、皇子も標的も私の罠に引っかかったと言うのに、ナイフを突き立てるその瞬間。標的はものの見事に私を避けた。


 目的を失った私はそのまま噴水へ「ざぶん」

 なんとかナイフは隠して暗殺未遂は免れたものの、三日間風邪で寝込み。初任務失敗のレッテルを背負う羽目に。


 二回目の任務は10歳の時。

 これまた皇子の、今度は訓練相手を殺せと言う命令。

 最初の任務から4年間も修行に打ち込み、更に腕を上げた私は今度は気を緩めることなく任務に当たる。

 獲物は今回と同じ猛毒。コレをクッキーに混ぜ込んで、標的のファンだとか適当な事を言って、近づき接触。クッキーを食べて貰えれば私の勝ちだった。


 最初は上手くいった。一緒にいた皇子が何の疑いも無く、私を招き入れてくれてシメシメ顔で「大ファンなんです♡」なんて嘘ついてクッキーを渡す。

 「レディファーストから、君も一緒に食べよう」なんて標的が抜かさなければ、私の勝ちだった。

 私が幼いころから毒の耐性を付けるために常日頃から、毒を食していた事が幸いだった。其れしか言えない。


 三回目は11歳時。

 今度は一ミリも気を抜かさず、気を張りまくって挑んだ。一年の修行の成果を見せつけてやろうと本気で挑んだ。失敗した。


 翌年12歳の時。四回目。

 標的は皇子の親友。そのころ才を露わにし、皇子以上の才能が有るんじゃないかと噂される人物。

 この頃は既に三回も失敗した私だ。自信も無く、正直嫌で嫌で堪らず泣き叫んで拒否したのにお尻を蹴り飛ばされ家を追い出される。


 こんなメンタルで上手く行くはずなく。暗殺の「あ」が始まる前に標的に見つかり家で少女と勘違いされ慰められた。

 「頑張れば何でもできる」とか?「泣く暇が有ったら鍛錬あるのみだ」とか?普通女の子に言う?ってセリフで永遠に励まされるとか、今考えたら地獄でしかない。


 この日に私は一族で落ちこぼれの烙印を押された。


 それからと言うモノだ。私は12歳(もう一回)13歳14歳15歳と連続して暗殺に失敗している。

 失敗の鍛錬に勤しみ、暗殺者としての腕を磨いているのだけど、成功した試しがない。

 そして昨日。16歳。私の婚礼の日、めでたく9回目の暗殺依頼が父から言い渡された訳なのだが。


 あの依頼が下った日、父からいわれた。

 「今度はもう許さん。標的を暗殺するまで帰ってくるな」――と。


 

 それが、昨日の事である。


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