第1話『ガドルとコーラル』
「おめでとうございますお嬢様」
「旦那様。ご立派になられて」
教会の外。参列してくれた其々の家の者達が私達新しい夫婦に祝いの言葉を贈る。
皆がタキシードと様々な色のドレスで着飾り拍手をしながら「おめでとう」
参列しに来た私の父や母も真っ黒な装束に包んで「おめでとう」
私たち夫婦は様々から、ソレはソレはお祝いの言葉を承った。
しかし。改めて見るが、アルバード家。
この国では公爵家に位置し、先代宰相の家柄あって皆気品が良い。
アルバード家はもう跡取りのガドルを残して皆死んでしまったらしいけれど、それは今日集まってくれた使用人達から見て取れる。
使用人にしては高級でしかし主を引き立たせるシンプルな装飾を纏い、皆一様に心からの笑顔で拍手を送る。
誰一人として裏の顔など持つ者など居らず。心からの祝いと賛美を私にまで送って来た。
反対に我が家はどうだろう。
まず、みんな一様に綺麗に揃って頭から爪先まで真っ黒くろすけ。
使用人達は安物ながらも黒いタキシードで決め、女中たちも揃って黒いドレスを纏う。
勿論使用人だけじゃない。父と母もそう。
我が家では一番の高級者と言える黒いタキシード、黒いドレス。母なんて頭からは帽子まで被っちゃったりして。
ついでに我が兄弟たちも。
上の兄様。その
下の兄様。その婚約者のお義理姉さま。
幼い弟と妹さえもが頭から爪先まで黒一色。仮にも結婚式と言う祝いの場に出る服じゃない。
いや、服だけじゃないか。
何よりもの問題はその顔だ。
新郎側の参列者たちは裏表のない綺麗な笑顔で私たちを祝福してくれていると言うのに、我が家はどうだろう。
みんな揃って仲良く、目が笑っていない。
口ではおめでとうなんて言いながらも、どう見ても作り物の笑顔だし。瞳の奥の奥には殺気と言う殺気が籠っている。
もう一度言うけど、仮にも結婚式と言う晴れ舞台。
その表情雰囲気は如何なものかと本気で思う。
でも、一族の娘としては。まぁ気持ちは分からなくもない。
私も私で笑顔を作って、手を振りながら隣に佇む夫となったガルドを見た。
見れば見る程美丈夫だ。
そのはっきりした顔立ちに、筋の通った鼻。
目は男らしく凛々しく吊り上がり、薄い唇は僅かな笑みも浮かべず閉ざされたまま。
齢20の公爵家の跡取り様で、次期国の宰相と呼ばれる国の皇子にも並ぶ美貌と権力をお持ちの殿方。
そんな彼がどうして今まで誰とも浮ついた話が出て来なかったのか。
それは彼が死神と呼ばれる国で一番の最凶の騎士であるからと噂高い。
父君であった先代様が、ガルドが16歳の時に無くなりアルバード家を継いだ。
その際、既に頭脳も飛びぬけ新たな宰相候補とされていたがガルドはコレを辞退。
自らの意志で国の騎士団に入団し、その才覚を露わとし、僅か18歳で騎士団長に任命。
幾度戦場に出れば、その戦場を誰よりも早く駆け、敵を屠る黒き髪に血を滴らせるその姿正に死神――。
彼に敵うモノはおらず、敵味方共に恐怖を与える存在。
他にも戦場の黒豹だとか、羅刹だとか、悪鬼だとか言われ様が酷い。
あまりに強くて、頭脳も明晰だから、皇子より追うらしいとか言われる始末。
それでも彼は一心に国に忠義を掲げていると言うのだから、もう舌を巻く。
と、まあ。それがガルドという青年の生涯なのだが――。
ここで私は言いたい。
薄い唇に僅かに私の紅を残したままの彼を見て問いかけてやりたい。
胸を張って大きな声で掴みかかってやりたい。
勿論流石に口に出しては無理だけど言わせてもらう。
――この男、なんでまだ生きているの?
おかしい。
おかしい。
おかしい。
周りから祝いの言葉を受けながら私は内心、ソレはもう焦り切っていた。
当たり前だ。だって、私は今日唇に毒を塗って結婚式に挑んだのだ。
少しでも口に入れば絶命すると言う強力な毒を。
幼いころから毒に慣れさせられた私でさえ、少し間違えれば死に至る様な猛毒だぞ。
それを、この男は、完全に口に運んだ。口付けしたのだから断言しても良い。
それが、何故?何故、この男こんなピンピンしているの?
そりゃ、うちの一族も殺気立つほどにびっくりだわ。
私だって死ぬ気で毒を唇に塗って今日を挑んだのよ?何これどうなってんの?
なんで隣の男は平然とした面で、立ってんのよ。有り得ないでしょ。
え、実は立ったまま死んでるとか無いよね?
生きてるんだよね、隣の人。
「……コーラル」
「は、はい。旦那様」
生きてた。
たった今、声かけられてびっくりしたわ。
それを必死に隠して私ははにかむ。
大きな手が私の手を握り、真っすぐに私を見据える。
「ガドルでいい」
「――はい。ガドル」
肩を抱かれ、その身を寄せて。
ガドルは冷静な声色で言う。
「今日から俺達は夫婦だ。至らない点もあるが、共に歩いて行こう」
「……はい。喜んで。今日から私はこの身
傍から見たらソレは幸せな夫婦に見えるんでしょうね。
ガドルは再度私の顎を手で添えて、口付けを。
深い口付けを浴びながらやっぱり思うのだ。
やっぱりなんでこの男、生きているの?
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