この旦那様は死なない

海鳴ねこ

プロローグ


 落ちこぼれのコーラル。

 それが私のあだ名であり、私は何処まで行っても一族の恥知らずで足手まといだった。


「いいな。コーラル。これが最後のチャンスだ」


 父は冷たく私に刃を押し渡す。

 言われなくても分かっている。


 今回ヘマをすれば私の居場所は完全に無くなるのだ。

 だから私は今この場に立つ。


 美しい様々な色の光が差し込むステンドグラス。

 白い壁に、壁中央に佇むのは手を組む世界の女神様。

 その前で神父は私に問う。


「病める時も健やかなるときも死が分かつまで、彼を愛することを誓うか?」


 純白のドレスを纏い、真っ赤な口紅を付けた私は頷く。


「……はい。誓います。」


 この誓いを聞いて隣の男はどう思うだろうか。


「では、誓いの口付けを」


 運命の時。

 私は男を見る。男も私を見る。

 男のごつごつとした手が私のベールを掬い上げ、私の顔は露わに。

 私の翠の瞳に、彼の姿が映し出される。


 青が入った黒い髪。切れ長の水色の眼。

 薄い唇はきつく閉じられ、吐息一つ零さない。

 鍛えられた太い腕と体を黒いタキシードで身に纏った美丈夫。


 白い手袋をした手は私の顎を掬い上げ、彼はゆっくりと私に口付けを落とし交わす。

 神父様以外誰も居ない静かで寂しい教会の中心。


 愛を誓い合った唇で、私は今からこの男を殺すのだ。

 誓いの口付け、毒の口付けを。


 新郎、名をカーテイス・ガドル・アルバード。

 新婦、名をメアリー・コーラル・ライト


 それが私、コーラルと言う女の一生。

 ――暗殺者の家系に生まれた女の一世一代の大仕事である。



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