第4話 お別れの約束

最初はなんて言ったのかわからなかった。

引っ越す?どうして?冗談?でも冗談でこんな悲しそうな顔する?

いつもの日織だったらこういうときでも笑顔のままだ。


なのに今は、

ものすごく我慢をして、何かの拍子に泣き崩れてしまいそうな、そんな顔をしている。


「それってほんとう?冗談じゃないやつ?」

「う。うん。ほ、本当。冗談じゃない。」


今にも泣き出しそうな声で日織は肯定する。


「ねぇ、理由。聞いてもいい?」

「うん、実はね、お父さんが、東京で仕事をすることになって、」

「すごいじゃん。」

「うん、それでね、この街でお仕事ができなくなっちゃったの。」


たしか日織のお父さんは音楽関係の仕事をしてるっていってたな。それならこんな田舎街より都会のほうが仕事はしやすいよなぁ。


やっぱり引っ越しを止める方法はないのかな。


「日織はさ、やっぱり寂しいの?」

「当たり前じゃん!!!」

「うわっ」


私も少し暗い気持ちになって、ふと思ったことを聞いたら想像以上に強い返事が帰ってきた。


「この街でずっと育って来たんだよ!たくさんはいないけど友達もたっくさんできた!なのに、なのに、」

「ご、ごめん」

「あやまらないでよぉぉ!」


我慢するのをやめて溢れる気持ちをこぼす日織はやっぱりいつもの日織だ。

今思えばここ最近の日織はどこか暗かったような気がする。

やっぱり日織は太陽みたいに強いエネルギーをいっぱい出している方が良い。


「やっぱり日織はそっちのほうが良いよ」

「ふぇ?」

「ね、約束してよ、東京に行っても忘れないって。いつまでも明るいままのひーちゃんでいてくれるって。」

「!!いまひーちゃんって!言ったよね!ね!」

「はいはい、早く鼻水拭きましょうねー。顔グチャグチャだよ。」

「ふへへぇ〜拭いて〜れいちゃ〜ん」

「しょうがないなぁ」


もちろん私だって寂しい。でも私がこんな気持ちのままじゃ彼女が迷ってしまう。


日織はきっと東京でもうまくやっていける。だってこんなに真っ直ぐで眩しい子、東京にだっていやしないだろう。


だから日織の一番の長所の明るさだけは絶対に失っちゃだめだ。この街にいたことが彼女の足を引っ張らないように。

自称彼女の一番のともだちとして、守らなきゃ。

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