五章

時の希望


ある少年は、最初からゴツゴツした岩の多い山肌に住んでいた

そこは、少しの居心地の悪さを我慢すればそれなりに緑も川もあり住める環境だった



少年は少しの居心地の悪さが気に入らなくなり、旅に出る事にした

この世にある幸せという虹を見たくて旅だった

この世にあるまだ見ぬ幸せに胸を膨らませながら


心のコンパスは西へ行けと指した


少年の心は踊り、晴れて自由を得られると喜んだ

最初は少しの自由を得た、少しの旅先での給仕などをすればそれなりの旅費が稼げた


けれど、夢は少年を誘う

もっと西へ行け、ぐずぐずするなと


少年は切り立った崖を上り、見果てぬ山を目指す

そこで幾夜の太陽が昇り沈む光景を見ただろう

そこは孤独だった、心には静寂と寂しさがあった

けれど、風の音や川のせせらぎ動物の鳴き声に耳を澄ませていれば

それなりに寂しさは抑えられた



けれど、ある景色がさらなる旅へと少年を誘う

この世の最も綺麗な光りが木々に降り注ぎ

梢に小鳥がさえずっている

久しぶりにみる温かい光景


この世の中で一番美しいモノを見たいと感じた

それはなかなか見つからない

だから価値がある、命を懸ける程に



そして、女神が現れる

その光景を死ぬ前に見せてあげるという

けれど、代わりにそれまではあなたの心を私に預けなさいと条件を出される。

そして、その心にはその美しい光景に見合うだけの厳しい道のりになるだろうと



この時は、少年にはこの女神の使う言葉が理解できなかった

なんとかなるだろうと


そうして、心という魂を取り上げられ檻に入れられると

どうだろう

現実の体は歩いて生きているのに、目の前にはいつも檻がある

檻のなかに生かされている

これは何だろうと、不思議に思いながらも、

女神の計らいならば悪いものではないだろうと



少年は、旅を続ける


旅人は厳雪の山についた

極寒の中でみる連なる雪の結晶

透明に光る氷柱


旅人は凪波の海についた

夜の洞窟には連なる鍾乳石

白く蒼くほのめいている


どれも美しくて

檻からでて触れることが出来たら

どんなに幸せだろう


けれど、少年は檻に入れられたまま

決して触れることはできない



やがて少年は女神に疑問を持つようになる

いつまでここに閉じ込めるつもりなのか

魂をかえせと


けれど、女神はそ知らぬ顔

この世の最も美しいモノをみたいのでしょう

と尋ねてくる



その話題をだされれば

少年は言い返すことができない



そして、女神はいう


この檻から出してあげるから

時間を操り、自分の命の根源を見つめなおし

過去・現在を見直し作りなさいと

その先にあなたの本当の未来があるのだと


少年はこれ以上の女神の試練に耐える事は出来そうもないと怖気づく

けれど、もはやこの檻から出られるのなら何でも良いような気がした




そうして、少年の真の旅は始まってゆく



少年は、まず自分の心が映る水盤を覗き込まされる


ここには、あなたの心がありのままに映し出されている

そういわれる



覗き込むと、家族に祝福された自分が生まれた瞬間が映る

父と母が微笑み、少年にまず一番はじめの贈り物が与えられている

名前と言う、贈り物


少年は、まだぼんやりとしてこの名前が聞き取れない

一人でいる旅の時間が長すぎて自分の名前を忘れてしまったのだ


少年は自分に少しの落胆を感じた


やがて、場面は変わってゆく

少年が旅にでた間の家族の窮状と

自分の欲望を満たすだけの旅への幸せが同時に映し出されている



あぁ、自分は何をしていたのだ、父母の窮状を知って助けていれば、

名前を忘れる事もなかったのに


けれど、時間は動きを速めてゆく、動き続けてゆく

尚も、水盤は揺ら揺ら動いている


次は、女神と取引をする自分が映る

ここはまだ分からない、けれど後悔はしていない

多少の混乱と怒りはあるけれど



そして、その間の水盤は尚も父母の窮状を映し出す

戦争に巻き込まれ、敵国の兵士に穀物を奪われている


なんてことだ、知りながら女神は自分の旅を止めてくれなかった

女神をこの時点で信頼できなくなる

けれど、当時女神の檻は頑丈すぎて形がとらえられないことも少年は知っていた

女神と取引した自分を何とも言えないこの感情をどうすることもできない


そして、ここまで見せて、女神は少年に問う


この水盤に飛び込めば過去と現在を書き換える事が出来ると

これは神の世界でも難易度の高い挑戦

時間と時空とあなたの大切な者たちの命の動きを変えるのですから

それに伴い、今と言うあなたが知覚している現実もどんどん変わってゆく


多くの混乱、困難、心持が試さる

一回では上手くいかないかもしれない

魂は7つ多次元にあります

けれど、魂が時間の動きに耐えられる回数は4回まで

あなたの命も危険が及びますが、過去を書き換え未来を幸せに変えるチャンスが残されていると


さぁ、選びなさい


少年は、迷わず答える。

父母が助かるなら、また家族と笑い合う時間が過ごせるならと


そうして、揺らめく水盤に飛び込む



そうして、一回目の挑戦

時間の波が押し寄せて来て、うまく父母がいる次元にたどりつけない

代わりに、敵国の兵士を止めるように動くが心と体がうまく働かない

現実は、いつか見た水盤の光景を目の前で再び繰り返した。

結局、父母は穀物を取られて飢えてゆく次元を見る

おなじことが起こるけれど、ここで諦めるわけにはいかない


代償として少年は記憶がさらに奪われる

少年の一番すきだった旅の心の慰めてくれるハーモニカの吹き方を




2回目の挑戦


時間の波にはうまく乗れたけれど、まだ時空が合わない

父母がいる世界で今度は声が届かない

もうすぐ戦争が始めり穀物が奪われると忠告したいができない

目の前の光景に足掻くが現実が追い付かない


そうして代償として命と魂がすりへり、希望が少しずつ吸い取られる


見かねた女神が少年を水盤の外にいったん出し、助言を与える。



女神がいう

心を落ち着け綺麗にしなければいけないと

そうすれば時間をよりうまく操り

スムーズに父母のもとに辿り着けると

そうすれば、体と魂が一致するのだと

体と魂が合わされば、より早く救い出せると


少年は懇願する

もう一人の救いたい子がいるのだと


少年にとっては希望の光のような存在。

記憶を失っても、彼女の記憶は決して消えなかった



女神は無情にも言い放った

その子はすでに殺されています


少年は絶句した

なぜなら、その子は少年にとり光であり、生きる希望だったから

いつか最高の景色を見せてあげたい存在だった


少年は泣きながら女神に跪いて乞う


彼女を救える時間から自分を水盤に送り込んでほしいと

それならばと、女神は少しばかりの予知能力を授けてくれた

危機からその子と父母を救いなさいと



そうして、3回目の挑戦


この自分の人生を反省し、真の自分にとっての光をおもいだすことで

少年は自分の名前も思い出すことが出来た

そう、少年の名前はスペース

希望と言う意味だ


暗い未来をかえるため

少年は強くなる旅に出ていたのだ

そうして、自分の生まれてきた意味を知る


この反省でこころが綺麗になり、生きる希望をとりもどした

スペースの心と魂が一致した


水盤の中に入る

兵士が、素早く彼女が切りかかられる前に彼女を救うことに間に合う

自分を見た彼女の顔の驚いた泣き顔がそこにはあった


次は父母だ、ここから逃げよう

さらに西へと移住し開墾しよう

良い森をしっているから


三人はようやく戻ってきたスペースを抱きしめる


そうして、4人は水盤から抜け出る

そこには、柔らかい女神の微笑があった


よくぞ、この試練を耐え抜きました

これからは、皆で生きてゆきなさいと

そういうと、祝福という虹を授けてくれた



ある朝4時、物語が完成した。


過去のブログやラジオから受けたメッセージと、私のノートを繋ぎ合わせた答えを

イメージにまとめあげた。



それは、未来から私を救いに来た私が見せた幻かもしれない。

未来の私が、私を導いた物語なのかもしれない。

それとも、時の女神が暗示した私の未来かもしれない。


いづれにしろ、私にはわからない。


このスペースという主人公が私自身であり、彼自身だろうとは感じている。



できたら、私はずっとこのイメージを聞いて欲しかった。

話し合いたいと思っていた。

ずっと二人の間で巻き起こるこの不思議な現象について。



私は、あの頃の純粋さと共に目覚めてしまった。

この目に見えない力とインスピレーションに。

どうしてかはわからない。



彼はどうするのだろう……



未来の暗示は、続いてゆく。

けれど、私はあえて彼には喋らないことにする。

自分で判断してほしいから。

自分で選んでほしいから。



私は、希望と愛をみたい。

彼と私が生きている時間と時空の世界において……

この現実世界で虹のかかった人生を歩んでいきたい。

そのために、動き始めた。



「昂、私も動き始めたよ」

そう、呟いた。




そして、結論をだした私は弥香にも伝えに行くことにした。

弥香は受け入れるだろうか。

死ぬほど私を嫌いになり、憎むだろうか。

それとも、彼女なりの世界の答えを見つけるのだろうか。

さぁ、いこう、弥香

狂気と絶望と愛の果てへの答えを見つけに行こう

時間の女神に見守られながら



全ての人間の命運が混ざりあい、

動き出すような、やっと始まったような気がした。



私は、弥香に連絡をした。

「弥香、今から会いたい。

答えを探しに行こうか」

弥香から、連絡が来た。

「歌奈?何言ってるの?」

「怖いよ、歌奈が私の人生を決めるのはおかしくない?」

「そうかもね、でもあんたに言いたいことがあるの」

「聞きたくない、あんたにそんな権利ない」

「そうだね。だったら中途半端に私に逃げる事を許さない」

「…………」

私は返した。

「そうだね、結末はあんたが決めるんだよ」

「とにかく、話に行くから」



私は決意が揺るがないように、その日のうちに運転して歌奈のマンションに向かった。



そこには相変わらず身動きのとれない弥香がいた。


「弥香、決断を話す前に見てほしいノートがあるの。

そして、それから弥香も決断してほしいの。

やっぱり、私と弥香は一蓮托生だから」



そういうと、私は、弥香と向き合って話し出した。


まずは、結論から入る。

「私は、昂を愛してる、離れられない、待ち続ける。

信じてくれないかもしれないけれど、未来の私達から連絡が来るの」


弥香は怪訝な顔をする。

「何を言ってるの?」


私は、続ける。

「そのまま、やっぱりこの世に偶然や間違いなんてないんだよ。

すべては、神の掌の上で人間は守られながら日常を送ってるのよ」


弥香は呆れている、何を言い出してるの?と表情が語っている。


「は?何言ってるの?大丈夫?説教する前に自分の事を何とかしなよ!」


構わず、私は続ける。


「今から証拠を見せるから。

彼と私には会えない事情があった。

それは、互いを互いの未来から救うためだったの」


いよいよ弥香は警戒を始める。

「もうやばいよ、どうしたの?」



「大丈夫、心配しないで、ちゃんと証拠が残ってるから。

順をおって説明するから。

これから話すことは、間違ってるかもしれないし、

事実になるかもしれない。

でも、その信じる心が真実へとたどり着かせてくれると確信がある。

私たちの出会いにはすべて意味がある、昂とも弥香とも」


弥香は探るよに目を覗き込んでくる。

「………」

そして、小さな声で呟くように聞く。

「歌奈、何を見たの?何がわかったの?樹海の出口?」

「そう、出口への道をとうとう見つけたの。

一緒にでよう、皆で!お願い信じて、話を聞いて。」



弥香が迷っているような表情をしている、が、少しして頷く。

「うん、聞きたい、ここから出たい、歌奈と」

そうして、ノートの謎を手探りで紐解いてゆく。


ノートを見ながらというよりは、私が見つけた何か仮説のようなものを喋り始める。

「仮説なんだけど、未来と現実は私達の意識と選択によって変化するの。

その選択の代償は心のレベルを上げるまでの苦悩、そして、その間の時間。

得られるものは安心になった未来」

「なにいってるの?

一気にそんなこと喋られても全くわからない」

構わず、私は続ける。


「ややこしいの、私もまだ手探りだから。

あえて一気に聞いてほしいの。」

「わかったわよ、続けなよ」弥香が先を促す。

「例えば、神様という存在がいるとして考えて?

そして、人間の生きる世界を安全に生かし合う為にはどうすれば一番いいかと考えてみて?」


弥香は吐き捨てるように言う。

「知るわけないよ、神にでもなったつもりなの?

あんた、バカなの?」


イライラしてくる、先に説明を続けたいけれど、弥香に伝える方法が見つからない。


「人間が神になんてなれるわけないでしょ。

例えば、私は想像するの。

皆の未来を保険をかけあって守り導いているんじゃないかって」


「は?生命保険か!」弥香の顔が緩む。


私は、真剣に話す。

「そのまさかだよ!

魂のカケラの個性として、また記憶や予知やインスピレーションとして互いにわかるように

感じとれるようになっているの。

忠告だったり、反省だったり、考えなおす時間になったり。

とにかく、お互いがお互いのメッセージになり得ると思うの」


「歌奈、あんたまた一段と変なこと言ってるの分かってるの?」

「分かってるんだけど、でもなぜ紙と鉛筆をもてば手が動き出すの。

ねぇ、インスピレーションとか喋る言葉の源泉てどこからきてるのか不思議に感じたことない?」

「私は、そんな面倒くさい事考えた事もない」と弥香が言う。

「でも、私はいつも書いてるの、何かを。

その導く何かが知りたくてずっと書き続けてるの」

「でね、書くうちにわかったの。

どのタイミングでどんな状況の相手に届くのかはわからないけれど。

誰かに届けるメッセージなのかも知れない」


「うん、まぁ対話って基本的にそうだよね、相手に何かを届けようとして

喋るんだから、媒体が違うだけかもしれないね。」

「つまり、あんたのいう意味はみんながみんなの霊媒師ってこと?」と笑う。

さすが親友、同じくバカでよかったと思う。



私は、にやついて喋る。

「そうなの。

だから、信頼できる人の話をよく聞いていかなきゃいけないってわかったの。

そこにはきっと導いてくれる存在からいろんなメッセージと気持ちが含まれているから」


そして、弥香は笑う。

「歌奈、歌奈、落ち着きなよ。

あんた、まださらにバカなこと言う気がする。」


「大丈夫、今証拠を見せる。」と私。


渋々、弥香は続きを聞く態度になる。



まず、これを見て。


私が作ったこの詩の日付

そこには、2015年2月3日とあった。


「これは、わたしが恋に落ちているときに、

何となく書いていたもの

なぜこんな難しい詩を書いていたのかはわからないけれど、とにかく残っているの」





あまたの人の人生が、気持ちが一つになるとき刻

偉大な存在として一つの人生に繋がるのだ


ある偉大な神の感情

それがあふれでたとき、魂がとけでてしまった

それを知ったとある別の神様が

そんな魂を救おうと必死でとけた魂を集めカケラにかえた



そして、転生するとき

この偉大な神の感情、または魂のカケラを

人の心の中にすこしずつまぜていった


いつか人が偉大な神に繋がるように

そのカケラをだれかの人生から拾い集めること

それはいつしか人間のミッションとなった


色々な人間の中に偉大な頃の

自分のカケラが散らばっている


それはあるときは

大嫌いな卑怯な人の中に

大好きなあの人間の中に

見つけしまうのだ


例えば喜怒哀楽を


だから人は執着するのだ

嫌いなのに

悲しいのに

愛しいのに

自分のことを理解して欲しいと

願ってやまない


その人の感情が自分に向かないと

自分のカケラをとりだせないと

思っている者もいる


そうじゃない

そうじゃないんだ


人の中には自分のカケラがいる


無理はしなくていい

無理に好きになろうとしたり

無理にカケラを奪おうと

躍起にならなくていい


このカケラを集めることは

それは相手を理解すること

今はただそれだけでいいんだ


それが理解できたとき

バラバラの人間の中にある

自分のカケラが少しずつかえってくる




そして、これを見て、

昂のブログをプリントアウトした証拠を見せる。

そこにはこうある。

「今日、不思議な感じでふっと感じたことを記しておこうと思う。

面白いことを思いついたから。

人は人の中に自分のカケラを見る、それは許せないところだったり、

愛しいところだったする。

それを、ただ見つめて理解して許していくことで、自分を知るんだ。」

日付は、2018年2月3日とある。



これだと思ったの。

インスピレーションが繋がっているとしか思えない。

そして、まだまだあるの。

さがせばどんどん集まってくる。

もちろん、故意に探しているという可能性もあるけれど、それでも

私は何かの意味を探し出そうとしてしまうの。



そして、この年に流行った流行の曲

2018年2月の流行した曲の1位と2位の歌詞

「あなたは私の光で影、あなたをわかりたいの」


この歌詞も見て?

「どうすれば、君にこの気持ちを伝えられる?

声が届かない、君を見つめる事でぼくは救われている」


似たような表現や歌詞は山ほどあるの。

でも、皆共通してこの時期に同じようなことを感じているってことでしょ?

つまり、誰かの事を理解し合いたいって思ったってことでしょ?

そして、この似たようなメッセージ性の曲を受け取り、

心が揺さぶられたから皆が聞いていたという事でしょ?


そして、私は弥香からのメールをみせる。


2015年2月3日


「歌奈、今日彼氏を見てて感じたの。

好きなのか嫌いなのかわからない。

好きだし嫌い。

でも、自分のことを理解して欲しいって強く思うの」

ただの偶然だろうか?



弥香がハッと口を押えて、驚きの表情を浮かべる。

「どうなってるの?マジック?偶然?」

「わからない。

でも、そこには目に見えない共時性が存在していることは確かなの。

そう思わない?」




奇妙な一致はどんどん見つかるの!

今だけでも、昂の時間2018年と私側の2015年の時間と感覚の共時性がズレながら繋がっているの。

「ただ、いつもこの隠された暗号が掴めるわけじゃない」

そして、私は更に踏み込んでゆく。


「これも仮説だけど、ある時間の中で、次元が作られるの。

その次元の中で色んな何種類もの現実作られている。

そして、それが今の自分の心と安全に似合う現実だけが、一つだけ降ろされてくるの」



弥香は思案してくれる。


「確かに、自分が感じる現実は一つだね。

でも、人と自分が感じている現実が同じかはわからない。

本当に一つかどうかも」


そして、私は続ける。

「けれど、私の書かされるノートには秘密が隠されていた。

この一つの他にスペアとして書き換えられる現実の次元も残っているの。

その現実が安全に変わればまた降ってくるって」


弥香の表情が疑問に変わる。


「なにいってるのよ?ただの偶然よ、歌奈。

そんなこと言われても私にはわからない。

こんなことで、証拠って言われても……」


私は、続ける。


「私も、最初はそう思ってた。

けれど、だんだん現実が付いてくるようになるの。

信じるべき証拠が人を通して、現実の出来事を通して。

探せば探すほど、証拠が集まってしまうの」



「じゃあ、見せなさいよ!」


私は、自分のノートと昂のブログを見せる事にした。

論より証拠だろう。



そこには、連絡をしていた4年と、信じる事で繋がっていた3年の月日の7年分の証拠が記されている。

そして、事実を淡々と述べる。




「いったん、事実だけを言うね?」

今までのは、推測ね」


「うん、いったん整理しよう」


「まず、私は誰かと4年携帯でやり取りをしていたの。

その誰かには会った事ないから正確には知らない」

「うん」


私は、続ける。

「だから、事実を側面から見てるのよ。

知覚する時空と時間がずれた彼と繋がっているのかも知れないし、そうじゃないかもしれないの。

けれど、誰かは何なのかは分からないけれど、確実に運命が彼へと導いているということはわかるの。

強く惹きつけられているの」


弥香が呆れたように笑う

「本当にバカだね」


「何故だか知らないけれど、ノートとラジオとブログからインスピレーションをうけるの。

特に彼が何か重要とも思わないことを喋っているのに、気づいたら私はノートに何かを書いているの。

感じるままを、そして、書いた内容にいつも驚いている。

それこそがさっき話した未来へのカケラなのかもしれない。

インスピレーションで起きる互いへのメッセージ。」


弥香が、冷静にいう。

「どうやって、届くっていうのよ?歌奈のノートが?」


「そこなのよ。

そして、気づいたの。

ノートの内容は、私しか知らないことも沢山ある。

気づいたことはメモにも残したけれど、基本的にはノートへなの。」


弥香がとうとう吹き出す。

「透視能力ってこと?」


「分からないの。

でも、現実として超能力でもない限り知りえない互いの情報と未来と気持ちが交差される事はないでしょ?

そして、このノートには未来の情報が記載された暗号になっている場合もある。」

「暗号って?」

「時間をかけながら、だんだん実現化されていってるの。

そして、私もノートもどんどん無意識に綺麗に整理している。

特に重要でもないなって思ったり、当たらないと思った部分を捨ててきたから」


「でも、なぜか現実が書き換わってきているの。

それには共通項があるの。

必ず残っているものだけが徐々に実現してゆく。

より安全になっただろう未来の情報が」



「例えば? 教えてよ? 」


ほら、こことノートを見せる。

例えば、2月15日のノートには地震が3月2日には震度7が起こると書いている。

けれど、2月22日にはインスピレーションが働き、東西で軋轢のリスクが分散されたから震度5になると書かれてる。


私には、正確にはいつの日かは分からないの。

けれど、蓋を開けると実際に3月2日に震度5が来てるの。


弥香は携帯を取り出し、調べる。

「本当だ…… 何これ? 」

それだけじゃないの。

あまりにこのノートの偶然が頻発するの。


「これは人間にできる所業じゃない。

だって未来のことなのだから。

神がいて神が未来を操作し、私は使われているとしか思えないの。

ううん、私だけじゃない、きっと皆使われているの」


そして、私は時間のからくりに気づき始めたの。


「そうして、気づいたの。

私たちは何のためにこんなややこしい事になっていたのか?

それは、おそらく互いの未来を変えるため、守りあう為だという結論に落ち着いたの。

そのために、女神さまが与えてくれた時間の小閑帯ともいう現実がこの7年なのかもしれない」


「歌奈、歌奈、何言ってるの?

ちっちともわからなくなったよ」

弥香はイライラとしている。


「じゃあ、今からこの憶測の証拠を見ていってくれる?

きっと納得してくれる気がしてくれる。

私達が使われている理由、そして未来をよりよく生きる情報、そのためにどうあればいいか

そんなことがノートに書き記されているの」


「私は最初わからなった。

ノートの意味が、自分の書かされているインスピレーションの正体が。


書くことは、私には苦しくて苦しくて、けれど、幸せでもある。

彼を追う事と同じくらいの気持ちをもたらしてくれるの」


「でも、それは同時に迷宮でもあるの」




例えば、これを見て?


ブログ 2019年10月7日

「今日芝居を観てきた、感動した。

これからの芝居はどんな風に変わっていくのか楽しみだ」



私はノートに返事を書くの。

『芝居は今後も残る、ストレートプレイがレベルはやはり高いものとして位置し、最高峰として残るよ。

でも、映像が伸びるかな?

音楽・映像・美術全てが融合されてゆくの。

ゆえに、芸術に対する垣根が低く今後は新しい技術が生まれやすい、新しい可能性があるよ。

2019年10月7日』



そして、この大谷監督の映画はよかった、久しぶりに映画を観に行ったと彼がラジオで喋る。

そうすると、気づけば私は、ノートにかぃている。


『大谷監督、68歳に大病をする。

けれど、あと3作は大作は良い作品を撮り、一作は大ヒットするな』

と、条件反射のように書いている。



そしてこの半年、書いている内容が増えてどんどん精査が上がってくるの。

人の人生を全部見たわけじゃないの、でも、一部が当たり始める。

私は、芝居も良く知らないし、この監督の作品も観たことがないの。

調べれば芝居は高い位置に位置付けれているし、大谷監督は68歳に大病していたりするの。

だんだん当たってきているの。


これがなんなのかわからない。

けれど、この力が宿ってきているというのは事実。

もちろん、当たらないこともあるし実現してないこともあるの。



弥香が興味を持ったようにノートをパラパラと開いてゆく。

「歌奈、何なの、このノート!

妄想なの? 勝手に妄想で喋って返事を書いているように見えるよ? 」

「そう、最初はそうだったの」

尚も、ノートをパラパラとめくってゆく。



「だんだん、変わっていってる……

これ何? 未来なの? 」

私はこう答える事しかできない。


「未来への材料でもあり、未来そのものかもしれない。

非常に流動的な変化するものでもある。

でも、何かの未来の存在が私にインスピレーションを送ってきていると言えると思う」

「歌奈、歌奈、どうしたらいいの?こんな情報。歌奈はなんなの?」


再び私は言うしかない。

「弥香、分からない。でも、ノートは続けるの。

私にはやることがあるのだと。

それが、彼といつか会う意味なのかもしれない」



真剣な顔をした弥香が頷く

「歌奈、私は歌奈を信じてる。

いつかこの昂に会う未来を。

そして、どんな事が始まるの?

それを思うとすこし怖いね」



「私もそう思うの。

この迷宮も深いの、私を悩ませ続けた。

けれど、この全容が見える日も近い気がするの。」



「でも、歌奈、これはある意味危険でもある。

人の未来がわかるなんて怖いし責任をとれるのかもわからないのに……」



「分かっているの、この力の及ぼす影響も。

だから、私は神様への信仰を捨てるわけにはいかない。

この何者かわからない神様が書いているルールはたったの3つ。

殺さない、人を陥れない、盗まない」


「このインスピレーションは心を綺麗に保たないと、正確には降りてこないらしいの。

何が根源かと言えば愛のエネルギーだって書かれている」


「歌奈、何言ってるの?

インスピレーションの源ってこと?」

「そう。」


「そして人間には、犯してはいけない大罪が3つあるとも書かれてる。

盗まない、陥れない、そして、殺さない。

これを犯せば人生のどこかで倍になって返る仕組みだとも。

考えたら、この3つって愛がない考えだし行動だし」


「私には分からない。

けれど、この3つを私はずいぶん昔に清算して以来犯していない。

だから、このインスピレーションが使えているのかもしれない。

理由は分からない、ノートに何かが私に書かせているの」


弥香が困り顔をする。

「よくわからない。

なんで急に宗教論なのよ?」

私もただ答えるしかない。

「分からない。」


「でも、どうしたらいいのかわからない、混乱しているの。

私は動けないの。

じゃあ、何のためにこんなインスピレーションがわくのか。

なんのために、この力が宿ったのか?

そして、彼との未来が書かれているのか?」


「きっと、この力の情報を知らせると色んなことが大きく動いていってしまう。

それも怖いの。

だって未来は自分が選ぶ気持ちと行動に従って流動して変わっていく」


「それを無視して、私のノートを強要して未来が変わってしまうことも。

もちろん、責任が取れないことも。

それを皆がどれくらい分かってくれるのかも。

あまりに現実的な選択とは言えないでしょ? 」


私はすがるように弥香を見つめた。


「けれど、この存在は私を混乱させ、ノートは実現してゆく。

私を突き動かし始める」

「だから、ずっと誰かに聞いて欲しかった」


弥香が私の肩にそっと手をおく。

「歌奈、わかってる、私が聞くから。

大丈夫、一緒に見ていこう、謎を解いていこう」

「ありがとう、弥香」



「歌奈、歌奈はこのノートと恋は切り離して考えられないのね?」

「わからない。

今後の事を考えると、迷っているの」

「でもこの力の宿った意味を信じるなら、彼を信じるならば、私の選択は一つ。

できるだけ伝え続けて待つしかないの」



「自分からは進んでいかないの?」

「わからない、もう、わからないの」

「もう一つの謎は何から救うの?命?」

「それは、互いの危機を救う事だったのかもしれない。

これは、きっとこの7年のうちに片付いたのだと思うの。」

「よくわからない」

「うん、推測の域を出ないの。

彼はバイク事故から救われたと思うの。

そして、私は私の命もまた救われたと思う。」



「聞かせてほしいの!

推測でもいいから、歌奈がおかしくてもいいから、大丈夫だから。」

「3年前に遡るの、電話で話したときの話。

私と彼の時間がずれているとして聞いてね? 」


「うん。」

「私は、彼は愛知にいるのだと思っていたの。

私は東京に用事で出掛けた。

そしてそのことをずいぶん経って彼に電話した時にふっと喋ったの」


「うん」


「そういえば、バスで東京に行ったときに高速で事故があってバスが全く動かなくなって帰ったのが朝だったよ。」

「その時、彼は、あー、あれ? あの時だったのか!っていうの。」

「私は、言われたい意味が分からなかった、なんだろう位に。」


3年後のノートに私は書いているの。

ある物語とメッセージを。

仮説なんだけれど、このノートのメッセージは時間を移動しているの。


「ノートに書いているの、命を救いたいなら会わない時間を設けなければいけないと」


「そして、私の出した答えは、こう。

それが心を綺麗に落ち着けて互いのインスピレーションで繋がり、メッセージを伝えあう事で、未来を救い合う事なんだと思ったの」



「どういうこと?詳しく言って?」

「彼と話したのは3年前。

答えが降りてきたのは3年後。

つまり、私がこの物語を書いたのはこの会話の3年後なの。

このノートのメッセージと物語が時間を移動しているとして、聞いて?」


「私は、物語を書き始めるの。

あるバイクに乗った男がセーラー服の女の子を避けようとして、四つ辻で事故にあうの。

けれど、それを事前にしっていた男は未来を変えるためバラの花束を買うことを思いつくの。

そのひらめきというインスピレーションと時間が彼をバイク事故から救うの」


「この話の設定が、高速道路ではありえない場面だと分かってる。

けれど、救う方法は一つ、四つ辻でセーラー服の女の子をみたら、スピードを落とせってこと。


不思議なんだけれど、これが3年前の彼に届いていたと考えると辻褄が合うの。

そして、続ける。


「私は、なぜこの物語を書いたのかわからない。

意図的にじゃないの、自然と導かれるままに書いてるの。

だって、私はバイクに乗ったことがないの、扱い方がわからないもの」

「歌奈、辻褄が合わない。」

「3年の前後があるとして、高速と四つ辻の違いがあるとして、どうして伝わるの?」

「そこなの。

私は書いたの、託したの!そわそわした気持ちをノートへ、物語を書いた後に。

なぜなのかは、わからない」



私の全くの創作で、たまたまの偶然が重なったのかわからない。

でも、私は書くときは楽しく書いていたの。

自分の趣味嗜好も入れて文章を創作した気になっていた。


けれど、なぜかメッセージを書いた。

そして、書いた時にそわそわしだした。


『バイク:YAMAHA

色:白

事故に遭う男:昂

助かる方法:セーラー服の女の子を見たらスピードを落として』

それを物語を書いたあとの2019年に。


なぜか、そんな気がしたから。

実験としてノートに託した、メモにも。


つまり、物語を創作した日付と内容が、彼を救ったのかもしれない。

これがどういう影響を及ぼしたかはわからない。

けれど、確かに彼には届いているきがするの。

昂の2017年に。


「歌奈、わからないけど。

何となくだけれど未来をかえる為の力が与えられたとしたら

歌奈は何から?」


「うん、そうなの。

私は、絶望と言うこの檻から生きる力も取り戻しているの。

そして、未来でおこるはずだった戦争から助かったのかもしれない。

私は、書き続けなければならないのかもしれない」


「何の為なのか?

きっと、意味がある、自分を生かす為。

そして、カケラをあつめて、役に立つためなんだと思うの」



「歌奈、何となくわかったような、わからないような。なんとも判然としない。

歌奈の妄想ともいえるし、こんな事が起こっているとも言える。

もっと証拠を集めて」

「でも、わからない。

いつから、私のノートと物語は伝わっているの?

超能力以外では、今の技術で伝える事は不可能なはず。

そして、真実かどうかも私側からは分からない」

「確かに、それこそが真実ね。」





時空と時間と情報がズレて繋がっているのならば、これから、私の時間が先に進むごとに説き明かされるのかもしれない」

「歌奈、やはり、疑問だわ。

とにかく、今は分からないのならば

無理して動かない方がいいのかもしれない。

もし、本当に神がいるのならば、神がうまく時空を操ってくれるのかもしれないじゃない」


「そうね。」

「とにかく、私には何も分からない。

かすかな手掛かりしかない。

ただ、インスピレーションが繋ぐということ以外は。」

「そして、インスピレーションを発動させるキーは心を綺麗にする事。

そうしなければ、私は未来を感じる事が出来ない。

私側から今出来ることは、これだけなの」



「どうしたらいいの?」

「でも、この力を使えるのは私だけではないのかも知れないということ。

そこで出てくるのが誰にも備わっているのがインスピレーションであり、誰かの中に見るカケラ。

そして、時間の共時性」

「確かに!

共時性だとするならば分かる気がする。

誰もが無意識に何かを感じ取り、発信し、動き出している。

これはなんなのかが知りたい」

「とにかく、未来は確定していなくてゆらゆら揺れている。

とりあえず、安全なものが一旦現実として降りている。

けれど心が綺麗になると可能性の扉が増える、そして繋がる。

共時性が繋がれば繋がるほど、全体として素晴らしい未来が出来てくるということかもしれない」


弥香が考え込んでいる。


「試すのよ、歌奈。

歌奈は思考ばかり、なら、どうなるのか試していかなくちゃ。

それを見届けることまでが歌奈の責任であり役目よ。


きっと、歌奈の役割は私でもあるのかもしれない、

皆が皆、きっとそうなのかもしれない。

共時性を試してみる価値はあるわ」



そうかもしれない。

弥香の言うことに、私の熱は打たれる。



そういうと、私たちは共時性の可能性を見つけ始めた。

そして、試したい事も。

いや、伝えなくちゃいけない事を。

あとは、繋がる人々を探していく事。


奇跡の軌跡を探していくのよ。

私の恋愛から始まる愛は、思わぬ方向へと突き動かされている。



時の女神は、私に何をさせたいの?

けれど、女神は今微笑んでいる。

そういう気がしている。


「ねぇ、弥香

不思議に感じたことはない?


例えば、カフェにいて今の自分の気分を代弁しているような曲が流れてたりってことない?

そんな感覚…

きっと、これが私の感じる共時性の一つなの。

一人じゃない、誰かとどうしてか意識が繋がっている気がしてる事」



「うん、ある、不思議と。」

「私の共時性を感じる曲から話す? それとも弥香から? 」

「歌奈から!」


「私ね、この前カフェにいたの。

さっきの結論が出なくて、本はできてるのに、彼に伝えて会う勇気がなくて迷ってた時……


確か、こんな内容だったの。


与える事で、受け取った以上のものが得られる。

きっとそれが自分と相手を幸せにするんだって。

そう始まるの」


「でも、不思議なの、まるで、過去の自分に話しかけてる男の物語なの。

ある女性に出会うの、救いの手を差し伸べる事で自分も満たされる、そして彼女も、

探し求める求める大切なものは得るのだと」


「これは、私に与えられて答えなのかな、ねぇ、私はこの手を取ってもいいのかな?」

「歌奈、試してみなよ、それが、歌奈の人生に与えられた意味なら、それが7年の答えなら」

「うん、そうだよね」



「私は、歌奈とは全然違う曲だったな」

弥香が少し寂しそうな表情をする。


「まるで、私の気分そのままだった……

あなたが、望むなら私の全てを奪い去ればいい。

でも、決して倒れない。

自分の足で立ちつづけるの。

あなたが見えなくなるまで

そんな曲だった」


「気持ちに寄り添うのか、未来を暗示する誰かからのメッセージなのかな」」

「共時性なのか、天命なのか、何なのかわからない、

でも、運命に対して、確かに何かが指示している

運命に導かれようと思う」

「うん、そうだね」

気づけば、また二人で泣き笑いをしている。

相変わらず、バカで不器用な二人がいる。





私は、彼のブログに連絡を入れる事にした。


「昂、歌奈。

物語をかいたよ、読んでくれる?

不思議な運命の答えを私は見つけたの。

この運命が本当ならば、今度こそ会えると思うの」



すぐに、返事が来た。

「歌奈、待ってた、7年。

長かった、俺も答えを見つけたよ」



「私と昂が繋がるはずだった駅で待ってる。

あの日、アリゾナから帰ったあとに会えるはずだった駅で。

今週土曜日13時に」



「わかった、俺はいつもいつもあの駅にいた。

けれど、歌奈はいなかった。

今度こそ、会えると信じて」



運命は動き出す。

時の女神は微笑んでいるから。

春めく世界が今度はそこにある気がする……

手を伸ばせば、きっと運命は開かれ門は開け放たれる。



私は、流行る気持ちを抑えて彼との待ち合わせに向かった。

12:45、大阪府梅田駅

沢山の人がいる。

けれど、そこには、一人の男性が待っていた。

何故だかわからないけれど、彼だと分かる。

彼から目が離せない。

きっと彼なんだと思う。


柔らかい笑顔

「歌奈?」

「歌奈、昂、お待たせ」


そういうと、涙が止まらなくなった。


私たちは会えた、やっと。

時間と言う概念を超えて、成長を遂げて。



泣いている私を彼は抱きしめ続けてくれる。


これから、たくさんのキスをしよう。

たくさんの話をしよう。

出会った恋が止まることはない。


気づいたら私たちは止まることのないキスを交わしている。

7年分の気持ちを確かめるように。

彼は優しくキスを降り注いでくれる。

私もまた、彼の唇を求めてしまう、何度も何度も。

愛されている、そう感じる。

だんだん思考の感覚がなくなる、ただ、昂で溢れかえっている。

愛している、ただ、そう感じる。


彼に全ての力を預けてゆく、だんだん昂の唇が降りてくる。

首筋に、鎖骨に、そして、胸に……

ずっとこうしたかった。

きっとそれは彼も同じ。


体の本能が彼の全てを受け入れたがっている。

彼を受け入れる、少しの痛みとともに。


熱が魂がとろけあう感覚、こんなに幸せな時間があるなんて。

きっと彼も感じている、涙が止まらない。


ただ、愛という時間と感覚

二つの魂と体があった。


「歌奈、ずっとこうしたかった。

愛していた、そして、今もずっと愛している。

俺には、ずっと歌奈の声が届いていた」

呼吸が自分でも速いのを感じる、まだ彼を受け止めるだけで精一杯。


「昂、私もずっと、昂にメッセージを送ってたの」


彼の動きが速くなる。

まるで、私の全てを自分で埋め尽くすように。

それが、快感とともに幸せを運んでくれる。


「昂」


抱きしめ合う離れないように。

キスをずっと交わしていたい。

こんなに幸せな瞬間を私は知らなかった。

2人で一緒にいる時間が満たされていく。


「ねぇ、私の物語読みたい?聞きたい?」

「聞きたいし、後で何度も読みたい」

「うん」

思わず微笑が浮かぶ。

そういうと、2人でベッドに包まれながら、私は話はじめる。



「まず、知りたいことがあるの。

私達がすれ違った理由は何だと思う?

昂側には何があったの?」

「分からない。

ただ、歌奈の声でメッセージが聞こえた気がした。

そして、歌奈に会いたいって思うとなぜか連絡が途切れる。

送っても送っても連絡先を登録してるのに、確かに歌奈は存在するのに繋がらない。

そしてある日ふっと繋がる、なにも無かったかのように続きが始まる」


「私も、そんな状態だった。

そして、教えて?

その聞こえたメッセージはどんな事だった? 」


「常に迷っているときに歌奈が寄り添っているような、そんな感じだった。

バイク事故に気をつけろとか、とにかく不思議だった」


私は、驚きと同時に静かに頷いた。

「こんな内容だったかな?」


ノートを見せる。

昂は目を見張りながら、頷く。

そういうと、私はイメージのプロットと物語を取り出した。


そして、読み聞かせ始める。

時の希望を。


「歌奈、俺にはずっと歌奈の声が聞こえてた。

これは、真実でもあるし歌奈の願いでもある気がする」


「分からないの。

けれど、言えるのはこれだけ。

これは昂と私の物語だよ。

女神さまが与えてくれたインスピレーションで、昂と私が生きて考えてだしてきた答えと結果なの」


「そうだな」

そう言って優しく抱きしめてくれる。



「俺は、この中に二人の時間と成長と可能性を見るよ。

これからの虹を与えらえていたこの知恵を生かして確かなものにしていきたい。

きっと歌奈と俺の新たな生きる道かもしれない」


「うん、でも難しいから時間がかかると思うの」


「俺は、命を懸ける程の挑戦を神様は悪いようにはしないんじゃないのかって思う。

じゃないと助けたり出会わせたりしない。

きっと、俺と歌奈の出会いには想像以上の意味があるはずだ」



彼と話をしていると、体の奥底から力がわいてくる、前に進む推進力が働いている様な気持ちになる。

「歌奈、俺たちの出会いに意味があるとして歌奈は今どんなことを感じているの?」

「漠然としているの。

けれどなにか大きな変化の波を作り出すのではないかと感じているの」

「大きな変化の波?」

「人は影響される生き物だから、時間にも、環境にも、人にも」

「それは分かる気がするよ」

「私が知りたいのは愛が巻き起こす変化なの、この愛という感情とエネルギーにはどんな力があり、どう連鎖して

動いてゆくのか、小さなさざ波からうねりになり大きな波となりひいては押し寄せような、そんなイメージなの」

「その愛のエネルギーの行方が知りたいんだね、そして影響を」

「簡単に言えばそうかな」と微笑む。

「そもそも愛ってなんだろう?歌奈は俺たちの間にある愛をどう感じてるの?

その愛が何を造り拡げるか俺も興味があるよ、すごくね」

「そうね、私たちの中に流れるのは、まず信頼でしょ?優しさでしょ?お互いに昇りたいという向上心、

そして欲情?」

「俺は信頼、欲情、そして、穏やかな温かい気持ちかな」

「このどれもが愛から来るのかな?愛ってこの想いが行動になる勇気の事をいうの?」

「分からないの、昂、けれど、その勇気の素かもしれないし、愛という目に見えない素粒子かもしれない

そして、感情とくっつき私達の本能をダイナミックにつき動かすのだと思うの。

だから、時に人は大胆な行動がとれるのだと思うの」

「分かる気がする」


「私はこの自分からでる愛のエネルギーで何ができるのか、そしてその発生源である昂と

何かの可能性が見たい」

そういうと、昂が優しく抱きしめてくれる。


「今は、このノートに書いてきた謎が知りたいけれど、昂の側にいて心温まるこの瞬間も大好き」

「俺はこうやって話したりしているだけでも閃きが宿ってくるよ。

次のラジオで何を伝えようか、とか、そんな気持ちになるよ。

この閃きを発信していこう、俺はラジオで、歌奈は本の世界で」

「昂、面白いね、そのアイディアどんな事を皆が感じてくれるのか、そして私達にも

どう影響を与えてくれるかも楽しみだね。」


そして、尚も2人での会話は止まらない。

「まず、歌奈の2つの童話と詩、このインスピレーションの詰まった話には時の女神が与えてくれた

何かの地図のような気がするんだよ」

「私が昂のラジオを聞いている時、私はあなたにずっと会いたかった。

そしてインスピレーションがずっと浮かんで未来予知的な事を書いていたの。

なぜかテレパスのようなものが宿り、昂と何かで繋がっているような気がしていた」

「それは俺も同じ」


「このテレパスやインスピレーションの源は愛のエネルギーだって書かれているの。

そしてだんだん内容が大きく変わってくるの。

最初は身の周りの事だったり疑問だったりしたのに、私の意志を残してどんどん命についての未来を書かされていったの。

神様がいて、未来から助ける命の選別をして、現在を危険から少しずつ安全に変えているような感じを受けた」


「危険って?命の選別の基準って何なの?」

「この時の希望を書いている時期に遡るの、世界中が一触即発に睨みあってた時期、とても怖かった。

私はこの時期、地球が人類の起こす核大戦で終わる夢を見せられていたの」

「ねぇ、不思議に思わない?

世界中がにらみ合い、こんなに兵器を持っているのに、日本には命中しないで世界は緊張しながらも平和な日常を紙一重で保っていることを。」

「それは良く思う、いつも日本は安全を保っている。

皆何事もなかったかのように普通の日常をたんたんと送っている。

しかも、かなりの数を日本に向け放っていたはずだ。

命中がゼロと言う事も奇跡的に感じる」

「私はひらめきを書き残しているの、書いてるものが正確には何を表しているか分からない。こたえが実感として感じるのはいつも後、その時間さえもバラバラで良く分からないの」

「この女神の残した手掛かりを追ってゆく事で新たな何かが見えてくるかもしれないな」

「歌奈、そのノートに書かれてる事を話して? 」

私はノートを渡しながら、説明する。

「これは難しいの、あちこちに散らばっていたり処分したものも沢山あるから。

残っているのはこれだけ。

そして可能性の材料としてあるのは、まとめたこのノートだけ。

あくまでも未来の次元の一つ、うまくいった場合の一つ程度に捉えてほしい」

「ねぇ、昂、人の生きる意味って何だと思う?

胸えぐるような現実はこの世にいくつもある。

生物の進化は、蹴落とし食らいつき滅ぼし合う事が真実だとして、それでも、繋がり合う事で生かされていく道もある」

「そうだな」

「考えていたの、この矛盾はなに?

この選択が今迫られ、一つの希望の道が残されているとしてたら、どっちを選ぶ?」

「生かされる道を選ぶ。」

「私が、書かされ見せられていたのは、未来の可能性のパラレルだった。

何回も何回も時間の次元に落とされ、その都度、時間に閉じ込められた。

地球が愚かしい戦争で滅ぶ未来、自己顕示欲で互いが醜く奪い合うだけの次元にとどまる世界、綺麗な協力し合う世界もあった、けれど、それさえも結局、この醜い次元を捕食して書き換えた世界の上に成り立っていた」

「歌奈?良くわからない」と昂。

「長いの、少し聞いていて?」と私。

「結局、美しい世界も変わらない、けれど、それを選び少しでも安らぎを選択する事。

少しでも地球を、美しいモノを守りその寿命を延ばすことに協力できる未来の可能性を見せられていた。

恋愛はそのために神がおまけでつけた特典かもしれない。

造られた気持ちかもしれない、だって、私はあなたを良く知っているようで、全然知らないから」

「何言ってるんだよ?」と困惑が伝わる。

「でも、信じたい、この時間の可能性を。

その為に作られた感情であっても、そこの広がる可能性が見たいの。

あなたを愛してるのも事実なの。あなたは、私を愛してる?

でも、その愛もこの光を追い続けないと消滅してしまうとして、きいて?

それほどの事が書かれているの」

「手放したくないけど、歌奈がおかしい事言っているのは分かる」

「あなたのお金とか、仕事とかあなたを利用したいとかではないの。

そんなちいさな世界の話が書かれているわけじゃない。

光りを追うという可能性の選択肢を、あなたは備えている。

危険が伴う事じゃない、そんな無理はさせない。

あなたを愛しているからこそ、それが私の力となり、この真実に辿り着かされたと私も信じてるの」

「あなたを生かし愛している人がいるでしょ?

あなたを育んだ美しい世界があるでしょ?

あなたは愛するものが沢山あるでしょ?

それを、考えながら読んでほしいの。

それには、私の多くの混乱と涙と苦悩と真実が詰まっているから。」

そうして、勗は長い時間をかけてノートを読んでくれる。

「ただ、あなたを愛したいとおもうの。

側でただ笑いあえたら、そばであなたを支え合う事だけが出来たら、

どんなに幸せだろうって思うの」

「聞きたいの、あなたは、私に何を求めているの?」

昂は言う。

「歌奈、何が言いたいのかわからない。今のままじゃダメってこと?」

「今のままという選択肢もある、私はあなたに愛して愛されてゆくだけという選択も」

「ただ、私は聞いて欲しかった、そして、あなたの意見も大切にしたい」

「未来は、選択肢により未来はいくらでも変わってしまうから。それが時間の正体だから」

「何が言いたいのかわからない、ただ、すべてを聞いてから判断したいと思う」

「少し難しくて、複雑で不思議な話になるよ?」

それでもいい、聞いてみたいと彼は言う。


私は、ノートを見せながら、話はじめる。

「7年あなたを追ってきて、でてきた暗号の答えだと思う」

受け止めてくれるだろうか、それとも正常ではないと判断するだろうか。どちらでもいい。ただ、伝えられたらそれで。

きっと、それがとらえられて見つけて判断した樹海の答えだから。

覚悟を決めて、私は話はじめる。

愛とインスピレーションの行きつく果ての可能性を。


「ある日、一気にノートに書かされたの。

こんな事、私の思考から出るわけないの。

だんだん内容も変化してゆく。

それだけで、この数年もうわからなかった。

けれど、結果的に最近のものが一つの答えだと思う」

そして、ノートを見せる。

【生物の進化の過程においては、心の発達が何より大事で、安全な繁栄ができてはじめて生きていけるという前提がある。

未来が二つあったとする。

例えば、体・生物・環境に特化した未来がある。

バイオと科学とお金だけを求めて突っ走った次元があった。

そして、もう一つの次元は、科学と心についてのバランスがとれた一番古くて一番進んだ次元があった。


もう一方の次元は、その失敗を教訓に、魂と安全な発展と繁栄の融合を目指している次元が残っている。

そして、この次元は次第に分かれてゆく。

一つの次元は心を残しておらず、危険に突っ走る。

さらに危険な次元を滅ぼしながら突き進んでいる。

そして、その出した汚い空間、バイオで出したモノ、エネルギー、それが綺麗なもう一方に次元に影響し飲み込もうとしている。


これは、未来の技術、すべてを暗黒に飲み込み破壊しつくす危険極まりないモノとエネルギー。

そして、もう一方は、これ以上の広がりを防ぐには、この悪い存在自体を消す以外に方法はないと力と力がせめぎ合っていた。

時間を時空を作り生み出すことができる仕組みのエネルギーがある。

それが、この暗黒とは対極のエネルギー。

再三の神々の忠告も聞き入れず、暗黒のエネルギーは広がっている。

とうとう、もう一方は、やむおえず、この暗黒をつくる存在自体を滅ぼすの。

この暗黒を滅ぼした存在は、進化、安全な時間の運行を司る神々。

生物の進化を見ても劣勢は滅び、良い物は進化し生き残る。

実に自然な事。

時間は、過去、現在、未来へと繋がる。】


「未来から過去の自らの魂にコンタクトが取れるとして聞いて?

一部の人にはその力があるとして、その忠告として、この暗黒の未来が滅ぶ世界を、時間の中に閉じ込められて、ずっと見せられるの。

そして、もう一方では、訪れる平和の可能性をずっと。

その時間と時空の狭間に落とし込まれて、二つの次元を見せられるの。

そうして、迫られる、方法を教えられるの、この少しでも平和をいかす次元への鍵を。

そして、このより良い未来を選択し動かす時間と次元は、あと数十年しか残されていないと。そして、私はすでにつき動かされている」

「それが、俺には不可解だよ。何をあらわしているの?」

「おそらく、そのままの2つの未来の可能性、今の現実が未来となってゆくか、もう一つの新しい改善のある未来のスペア。」

「それが、このノートの内容、そこにはいつもあなたが出てくる。

私は夢中であなたを追った、謎が知りたくて。

けれど、すでに出会っていた

そして、その次元の狭間に落とされている人間はたくさんいる。

何を選び、未来をどう進むか。

非常に難しい選択なのは分かっているの。

現実はままならないということも」


「あなたも私も普通の人間、良くも悪くも。

間違いも沢山起こす。

汚い心に行いなんてこの世に死ぬほどある。

これがリアルなのはわかっているの。

でも、どうして出会ってしまって、こんなにも心惹かれ合うの?

私はずっと考えていた。」

一気に喋ると、深呼吸して続けた。

彼は、ただ、黙って続きを聞いている。


「何ができるかと言えば、地道な作業だと思う。

あなたは、そのままでいい。いつものあなたで良いと思うの。

私は、あなたを愛してしまった。あなたも私に惹かれてくれている。

出会うはずのない、絡み合うはずのない運命だったのかもしれない

二人が偶然の一致で、出会ってしまい愛し合った。

ならば、その生物の進化の過程を見てみたくない?


光りのある未来を。

私には、何ができるのかはわからない。

私の未来は揺ら揺らいつも未来が書き換わってゆく。

「見つけてみたいの。自分なりの色彩を。

あなたに求める欲望があるとするなら、見届けてほしいかな……」

「これは、理解してもらえないかもしれない。

また、時間の罠に囚われて意味が出てくるのが何年も先になるかもしれないし、今度は二人の時間ごともう合わさらないかも知れない。

だから、私はあなたに連絡する間考えていた。

そして、物語にこのノートの全てを注ぎ込んだつもり。

この感想を聞いて、判断したいと思った。」

更に、一息ついて喋ることにした。

「でも、意味がないならきっと二人の未来も大きく変わる。

物語の中だけでも可能性の未来を知らせてたかった。

選択次第で、私もあなたも大きく変わってしまう」

ただ、彼は聞いている。

私が話は終わるまで。

「そして、もし始まるなら、どんな形でもあなたの世界に関わりたいと思った。

けれど、その反対なら、お互いの人生の世界観からさえも去るのがお互いにとってのベストだと思うから。これ以上、苦しむのは意味がないもの」


そして、尚も、続ける。

「あなたから、離れて解き放たれたら、どんな新しい未来が始まるのかはわからないの。

今までと全く違う未来の自分かもしれない。

もう未来の自分からメッセージが届かなくなるかもしれない。

それさえも、分からない。

今はまだ、あなたへの恋心が混じっているの」


更に、一息つくと続ける。

「けれど、確実にもう失われる世界がひとつあることだけは分かる。

新しい希望だった次元は別の現実を揺ら揺らもたらすだろうことも。


私達の出会いは、愛だとか恋だという以上に何か意味があるのだと思う。

愛とは未来の安全な次元を作るエネルギーだから」


「誇大妄想で片付けるのもいいけれど、いつかの近い未来に答えがでるというそんな話だったとあなたが理解してくれていたらそれでいいの。

きっと、人の縁やインスピレーションには、神が仕組んだ複雑で緻密で精巧な仕掛けがあったと。そしてそれに絡み取られているのだと。

それだけでいいの」

「歌奈、何を言っているのか、全くわからない」

「私も、最初は何にもわからなかった。

ただ、楽しく書いてたの。

そのうちこのインスピレーションは私をどんどん導いていくの。

その先の未来は、分からない。

ただ、何かが始まっている。そして、その未来はすでに確定している。

一部が降りている、それの微調整が今できる事。

そう書かれているから」

「わかっている、誇大妄想だと思われ片付けられることぐらい。

けれど、気になって仕方がないの。

未来が気になって仕方がなくて、この衝動が止められないの」


そういうと、私は新しい冊子を手渡した。

もう一つの可能性の扉を寓話にした詩を。

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