四章-2

やはり、あのノートに書かされていた戦争から互いの命を救うために、

神様が時間と時空を操っているという事なのだろうか?

それに絡み取られているのだろうか?

そんなわけはないと思いながらも、それならば会えない理由としてメッセージにタイムラグが生じている事にも少し信憑性がある気がする。



だって私の頭や考えからは、いくら捻り出しても出てきそうにない事を書いている。

自分の事さえも良く分からなくなってくる。




ねぇ、女神様

男の人が嫌いなの?

私の色彩を奪わせる必要があったの?

どうして今色彩を取り戻させる必要があったの?

私が成長するまで止めていたの?

それとも彼側の問題だろうか?



とにかく、女神様は何かしらの理由で彼に合わせることを拒んでいたという

事実が一つ。

そして、散らばらせていくヒントたち。

今が会えという事なのだろうかという事実が一つ。



さぁ、あなたが呼んでいる。

ここから離れたあなたに。

そして、あなたの引力に引き寄せられ今夜も会いに行こう。

夜光虫のように。



いつかの詩がふっと蘇る…




その羽の色はあまりにも鮮やかで

私は直視できずにいる


コバルトブルーを携え

夜行の中でも鉱石のように光を放つ


私の空間にとどまってはくれないか

まだ飛び立つにははやいだろう


蜜から蜜へ

それがおまえのさだめ

蜜のあわれというのか


だが、それさえも疲れた時は

どこかで羽をそっと閉じるのだ


露から露へ

それがおまえの生と死への根源

命のあわれというのか






あれ、おかしいな、どういう経緯で作った詩だったのだろう……

どうしてだろう。

このインスピレーションでさえ女神がつくった力で、踊らされた気持ちなのだろうか。



いや、私は行くのだ。

春めく世界を希求する……



今、昂は何を感じ、どうしているのだろう。

まだ私を求め呼んでいるだろうか。



ふっと、やり取りしたメッセージを思い出す。

「歌奈、僕はずっと待つよ。」

「昂?私は待っているよ?」

無邪気に返していた返事たち。

あれには、どんな気持ちと年月が積もっていたのだろう。

今、どうしてこんなにも降るかのように意味をもって心に届くのだろう。

互いの時間と互いの積もった想いを見に行こう。

確かめに行かなければ。





時の女神様



彼と私の時間を繋げてくれますか?

互いに生きる時間と魂を重ねてくれますか?

7年分の積もる想いをとろける程の熱と愛情で満たしてもいいですか?


あなたにもきっとそんな相手がいるのでしょう?

私たちの命運を握る存在のあなたでも

悠久の時を生きるあなたでも

心をあたためあうことは大切なはず

どうか、許されるなら私にも

そんな温かな時間を、与えてください


昂との時間を




「ねぇ、私ね子供がふたりって占いで言われたんだ。」

無邪気に喋っていたよね。

「へー、女?男?」

「うん、どっちも」

「いいね」


でも、今伝えたい事があるんだよ。

不思議なんだけれど、時の女神が私に教えてくれたよ。

ノートに書かせてくれているの。

時の女神は私に3人の子供が産まれるっていうんだよ?

双子の男女と女の子。



ねぇ、未来は変わるのかな?

本当は、別にいいんだよ?

あなたがいれば、ただそれだけで。



今、また連絡をとれたとするなら、

何年前のあなたに連絡したいだろう?

一番何を伝えたいだろう?



そうして、ノートにまた記す。



「ねぇ、昂

昂は私に一番何を求めている?

私は、何を望んでいるだろう?


伝え続けてよ。

私の為に。

待ってる人の為に。」

2020年10月25日



思いの箱を開く。

2017年10月25日

『君と僕がまた会えることは知ってた。

ただ僕たちは信じていれば良いんだ』

いつかの続きのように、ただそれだけが書かれていた。

おそらく、あの本を抜粋したのかな?

続いている、そこにあなたへと続く道がひろがっている。

そう感じた。

この日付。3年前の返事と受け取っていいのかな?

それとも、偶然なのかな?

時の女神の地図の断片を少し手に入れることができたような気がした。


私とあなたの感覚なのかな。

けれど、間違いない。

彼は私を待っている。

これだけは真実だ。

いつかこの時間のズレの謎がとけると良い。

いや、解かなくてはいけない、彼に会うのだ。

思い切って、コンタクトをとる?

それが良い気がする。

けれど時の女神が操る樹海だ。

そう簡単に届くだろうか?



いや、今までのパターンでいくと、会話のラリーは続くはずだ。



とりあえず、このラジオにリスナーとしてか、このブログにコメントを送ってみよう。

そう、それが正しいと感じる。

私は、両方を取ることにした。

一方は未来の私達とも思える内容を。

そして、もう一方は現在の私の日常をそのまま。


時のズレならば、どちらかは届くはずだと信じて。



私は、一方をあの二人のお題にあげていた恋人の歌詞の続きを書いてみた。

あなたと再会して、一緒に過ごしている未来を。



「はじめまして、初投稿です。

リスナーのツナフレークです。


いきなりですが、「恋人」という昔流行った曲を知ってますか?

私にはとても思い出深い曲です。



変わった趣味だと思われるかもしれないけれど。

この曲に続きを作ってみる事にしました。


この詞は私の恋人との日常です。

もしくは未来かな?

では、書きます。



恋人


空から粉雪が舞い降りてくる

もう君はいないのに



あの日、君は雪に足跡を残して僕の前から去っていった

僕だけがまだ君の面影に縛られているのか


出来る事なら、あの日君を止めるところからやり直したい

どんなことと引き換えにしても

君を大事にすると今なら誓える

どんなことと引き換えにしても

君を守ると今なら誓えるのに



あの日、君を引き留めることが出来なかった

君は今どうしているの


粉雪が舞い散る3年後 僕は君の足跡を見つけてたどる

僕だけがまだ君の面影に縛られているのか


出来る事なら、今 君に会いたい

この奇跡をたどっていいだろうか

この時間の軌跡を あの気持ちの続きを


僕は見つけたよ 今度こそ 

二度と離れないように 二度と離さないように

一緒に生きていく



どうでしょう?

恥ずかしいけれど、爽さんのこの曲にたいするエピソードか、気持ちがしりたいです。




そして、もう一方には、私の現状を。


コンタクトと言う欄には、どれくらいの公開性があるかはわからない。

すこし、控え目に書こう。


「こんにちは、爽さん。

あなたの大切な友人が現れたらどうしますか?

私は2020年に生きていて、相変わらずモテなくて、ずっと、物語を書いています。

あなたは、2020年現在どんな状態を過ごしていますか?」



そして、送信。


そして、その深夜にブログのコメントが載り返事が返る。

「こんばんは 名無しさん。


2020年に生きている名無しさんは、どんな物語を書かれているのか、非常に興味があります。

俺の予想ですが、それは難解な物語ですか?

もしくは、謎の恋人を待ち続ける男女の物語ですか?


2020年の俺は、相変わらず仕事を通して

気持ちや考えを伝えてます。

誰かにとっての希望でありたいけれど、

それは俺が決められることではない。


けれど、需要があると信じて。

それが俺にとっての存在理由だから。


2020年の名無しさんの近況が物語を書いている、これだけで、俺は満たされている気がしました。」



少し、戸惑った。

私は、そんな内容の物語をまだ書いていないから。

今謎を解き明かしている最中だから。



「こんばんは、お返事ありがとうございます。


書きたい内容は、難解な物語の謎への鍵のようなものでしょうか?

いつか大事な人の為に書き上げたいとは思います。

少なくとも、あなたは私にとって希望をあたえてくれる存在です。

信じた道を進んでいてください。」




今は、これで充分だ。

やはり、彼なのだ。

間違いない。

私は生きてあなたに伝えられているから。

これからたくさんの事を徐々に伝えていこう。



私はそれから彼のブログの全てに目を通すことにした。

やはり大半は彼の近況と何を感じ考えたかの情報だった。


2017年から近年に近づくごとに、彼の迷いと答えはどんどん深まり、ぶつかり、明瞭な答えを求めて突き進んでいるように感じる。

そして、確かな手ごたえとともに時間がダイナミックに躍動している。

そこには、紛れもなく彼が生きてきた年輪のように時が積み重なっている。


そして、私は気になるキーワードを見つけるごとに、ノートに記してゆく。

手紙を書いてゆく。

きっと、どんな方法かはわからないけれど、

彼に届いている。

非現実的だとしても、彼に届いているという確信が深まっていく。



いつか、彼と私にわかる小説がかけるだろうか。

私にその力があるだろうか?


分からない、けれど書いてゆくと決めたのだから。

届けよう彼に。


もう一度、夢に現実に向き合う事にする。


互いの熱とエネルギーを交換している気がする。

もう一度色彩を取り戻すのだ。

準子さんの言葉通り私の名前を現実にしていこう。


描けば描くほど、自分の中に鮮やかな色が残っていたことに驚いている。


とっくの昔に夢中で描いていた白いキャンバスの中の絵は放り出していた。

埃が被っていた。

油絵具の出口はとうに錆びつき固まっていた。


けれど不思議なものだ、決意すると、書き始めると動き出す。

どの色の絵具の中身はまだ半分以上も残っていた。

その色彩は鮮やかに踊りだす。

私と言う絵筆をとり導いてゆく。

そんな感覚なのだ。


私は考える、色の力に導かれながら。

この色と色を混ぜたら、届くだろうか?

この原色を使えば伝わるだろうか?

この秘密の技法を使おうか?

気づかれないように、いつか驚きに変えて見つけてもらえるだろうか?




世界が私を残していったあの日以来、書くことに迷いが出ていた。

あの頃より寝かせて熟成された私という絵具は、カラフルに世界を描けるようになっただろうか?

より現実を、隠された深い感慨の断片を滲ませる事が出来るだろうか。



手応えとは別に感じる。

世界が沢山の感動を連れて蘇ってきたと。

描き続けよう、このまま。

完成させよう、どうしても。

彼が待っている。

まだ見ぬ可能性の扉が待っている。



そんな時期、彼のラジオからの返事が返ってくる。

爽のラジオに投稿して以来、3か月の時間が過ぎていた。


私は、静かな気持ちで聞いている。

彼ならば、返事を返してくれると信じていたから。


「今日は、ツナフレークからとても珍しい手紙がきています。

2013年に流行った恋人という歌詞の続きを創作して、未来の恋人との続きを書いているそうです。

とても彼女にとっては思い出深い曲だそうです。

では、彼女の作った恋人を紹介します。




恋人


空から粉雪が舞い降りてくる

もう君はいないのに



あの日、君は雪に足跡を残して僕の前から去っていった

僕だけがまだ君の面影に縛られているのか


出来る事なら、あの日君を止めるところからやり直したい

どんなことと引き換えにしても

君を大事にすると今なら誓える

どんなことと引き換えにしても

君を守ると今なら誓えるのに



あの日、君を引き留めることが出来なかった

君は今どうしているの


粉雪が舞い散る3年後 僕は君の足跡を見つけてたどる

僕だけがまだ君の面影に縛られているのか


出来る事なら、今 君に会いたい

この奇跡をたどっていいだろうか

この時間の軌跡を あの気持ちの続きを


僕は見つけたよ 今度こそ 

二度と離れないように 二度と離さないように

一緒に生きていく




しばらくの時間があった。

そして、おもむろに口を開き紡ぐ言葉が始まる。



「俺がこの詞に感じるのは、長い時間をかけて互いを通して自分を見つめてきた、

自分と相手を愛する時の旅ではないかと感じた。

すれ違うからこそ心を、真実を求め続け、互いを救いだすまで。

そんな風に感じている。


ツナフレークはどんな感情をもって、これを俺に送ってくれたのか。

それは書かれていない。

どんな事があって、この歌詞を作ったのかも書かれてない。

ただ、想像するしかない。


いつか、ツナフレークから詳しく聞いてみたいと思ったよ」


そして、この曲の原曲がかかる。


彼のメッセージを追い風に私はひたすら浮かぶままに繋ぐ。


あの日走り出さなかった自分に決別するため。

そして灰色の世界から抜け出す為に。



いつか読んだ物語のように

いつか感じた蜘蛛の糸のように

いつか閉じ込められた檻のように

生まれた名前の意味を教えてくれた色彩のように

そして、心を取り戻してゆく



あなたが私に持つ気持ち

私があなたに持つ気持ち


これ以上に分かるだろうか

今以上に新たに知るのだろうか

今は喜びだろうと苦悩だろうとどちらでもよい

判断は任せる




さぁ、行こう

過去と現在と未来の私の世界を超えて

現在と過去と未来のあなたに会いに行く旅へ

時の女神が私に与えてくれた

新たな世界へと

今、扉を開いてゆく





ある少年は、雲の中に夢を見た

どこかに救わってくれる神がいるのだろと考えた


こんな暗い森に

歪んだ世界に閉じ込められているから

その歪んだ世界は美しい世界だと信じていたかった


けれど

いつになってもこの歪んだ森は少年を追いかけては暗い世界に

閉じ込めるばかり


そしていつも絶望へと突き落とす

愛のない世界なら開放してほしい

少年はいつもいつもそう感じていた


けれどこの森はいつもいつも追いかけてくる

全てを叩き壊して疑わせて閉じ込めるばかり

疲れ果てた事もあった



その狂気は愛なのか憎しみなのか


それでも少年は信じるしかない

このかすかな手掛かりを信じて


何が目的なのだろうか

愛だろうか

少年の希望だろうか

少年の命だろうか



考えても答えは返らない

それが何よりの恐怖

どう進めばよいのかわからない


そうした時に女神さまが現れる


少年の未来を救いに来たのが女神様だろうか

それともこの樹海に見合う原石の光が

己の中で磨けるまで閉じ込められていたのだろうか

この樹海の世界が見えるまで




女神さまは、いつも優しい


けれど少年には女神様の言葉は難解すぎる

少年は困り果て生きる気力をだんだん無くしていく

生きる希望が見いだせなくなったから


そんな私のイメージから始まる物語……



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