親愛なる者3 レヴァント × 天音朝陽

 森を通る夜の街道。

 王国の西側クァール地区。

 闇の中でも、この世界の星々の輝きは力強い。


 私(作者・天音朝陽)は旅商人の姿をとる。

 荷を積んだ馬車を操り、かつ並々ならぬ闘気を放ち続けた。

 森の中を進み続ける事一時間、私の闘気に釣られたのか一人の修道女が私の行く手をさえぎる。


「修道女か・・・、このあたりに凄腕の女盗賊が出るって聞いていたから気になっていたんだが、なんだ、正体は修道女かよ」

 私はわざとらしく悪意と嫌味を混ぜた言葉を、彼女に投げかけた。


「この修道女の恰好も、最初はダサいと思っていたけど、案外と気に入っているのよ」

 修道女レヴァント・ソードブレイカーは眼を光らせニヤリと笑う。

「わかっていると思うけど、命は取らない。宝石ひとつで通してあげるわ。拒否してもボコボコにして奪うだけよ。降参しなさいな」


 自信満々に彼女は言う。傭兵団での実戦体験やミハエルとの訓練を潜り抜けて来た彼女にとって盗賊稼業など楽勝にちがいない。


 私は、この女の自信に満ちた態度が以前より嫌いだった。


「降参なんかするかよ」

 瞬時に馬車から飛び、彼女の背後をとる。

 さすがに反応が早く、一瞬のうちに彼女はしゃがみ込む。右腕を地に着いた軸にし、体を支え足払いをかけてくる。

 私も後方へ飛び、足払いをかわす。

 間合いを取ると姿勢を低くして向き合う。

 彼女はすでに短刀をかまえている。


「何者? て顔してるな、修道女レヴァント。ここまで腕が立つ人間とやり合うのは久しぶりだろ」

 私は腰の剣に手を添える動きを見せる。

「なっ、なぜ、あたしの名を知っている!?」


 レヴァントは言葉を言い終わる前に斬りつけて来る。

 彼女の手首をがっちりと捉える。

 その瞬間、彼女の体は一回転して地面に叩きつけらている。


「がはぁあっ!」

 叫ぶレヴァントを、そのまま蹴り転がす。腕を後ろにおさえ身動き出来ぬようにした。ただ、関節を傷つけないように配慮はしつつ。


「お前は、何故自分が倒されたのか、わからないだろう。これは大陸はるか西の国につたわるアイキという格闘術だ。上には上がいるんだ、戦場で油断するんじゃねえよ」


 体感で分かるのだろう、レヴァントはのがれられないと悟ったようだ。

「うぐっ・・・、くっ、くそう、殺せよ、畜生っ!」

 涙と鼻水をながし、レヴァントは叫んだ。


「なあレヴァント、お前はここで死ねるのか?」

 そう言い私は力をゆるめる。レヴァントは一気に私の拘束から脱し、再び間合いをとって睨みつけてくる。名前を知られている以上、彼女にとって逃走という手段はとれないのだ。


「ふっ、レヴァント、お前の力を試してみたかったんだ、悪かった」

 私は笑顔を見せると、闘気をゼロに静めた。


 腰の剣を柄のまま、彼女の足元に放り投げた。さらには懐からサファイヤの指輪を取り出し投げつける。

 暗闇の中だがレヴァントはしっかりと指輪を掴む。


「やるよ、良い剣だぞ、そこそこの値段で売れる剣だ。なんならお前の武器にしてもいいだろう」

 当然だが、レヴァントは私を警戒し続けている。

「あんたは何故あたしの名前を知っているんだ、剣や宝石までくれて、どういうつもりなんだよ」


「俺はミハエルの友達ダチだ、騎士仲間で剣のライバルってとこだ。レヴァント、お前の様子を見てきて欲しいってミハエルから頼まれたんだ。ミハエルはお前のことを、いつも心配しているんだ」

 私は嘘をついた。いったん、この場をおさめるには、こう言うしかないだろう。


「ミハエルの知り合い? ほ、本当か!?」

「信じてくれ。嘘なら、さっきお前を殺していたはずだぞ。サファイヤの指輪は彼からのプレゼントだ」


 ミハエルの贈り物と聞き、レヴァントの表情は大きく揺れた。

「な、なら何故ミハエル本人が来てくれないんだよっ、心配なら会いに来てくれていいだろ?」

「今、あいつは騎士団の師団長に出世できそうなんだ、とても大事な時期でな」


「出世とあたしと、どっちが大事なんだよ」

 レヴァントの目に再び涙が滲んだ。涙を流しながら、短刀を地面に突きつけた。

「いつまであたしを放っておくんだ、アイツは・・・いつ迎えにきてくれるんだよ」

 すがるような目で私を見る。

 今度は私が剣を突きつけられた気分だ。


(ミハエルはお前との将来を考えて、今は王国で出世しようとしている)

 彼女にそう言った所であまり意味はないだろう。

 またミハエルは、が全然駄目であることは、恐ろしいくらいに私もわかっている。


 彼女が地面に突き刺した短刀。そして、私が投げてよこした剣。

 ふと、そのふたつが視界に入る。


 私は直感的にだが、何故レヴァントが剣ではなく短刀を使うのか分かったような気がした。


 次にミハエルと剣を交えるとき、少しでも彼の懐に近づきたいのだろう。


 私は指先をレヴァントの額にあて、私との記憶を消した。

 剣とサファイヤの指輪については、悪徳商人の馬車隊から奪ったという偽の記憶を植え付けた。


 私の魔法で足元から崩れ落ちた修道女レヴァント(と剣と指輪)を、森の中の安全そうな場所に運んだ。

 そのうち目覚めるだろう。


 私は静かに上を見上げ、この世界の星々を眺めていた。

 人の想いが風に乗り、星をつくる。この世界の住人はそう信じているらしい。

 

 レヴァントも、星に祈ったりするのだろうか。

 彼女に会う前までは、そのような姿など似合わないと思っていたのだが・・・。




 ■


 レヴァントのイメージイラストをAIに描いてもらいました。

 以下の近況ノートに貼りつけています。

 https://kakuyomu.jp/users/jinsord/news/16817330666291369010


 

 ■

 作者の地味なお願い。 

 ここまで読んでいただいた方は、少なくともこの作品をある程度は読んでいただいたものと推測します、ありがとうございます。

 貴方は作中キャラ「レヴァント」と「マシロ」どちらが好きですか?また「ミハエル」と「トロティ」ではどちらがお好きでしょうか?

 そのあたりのご意見を伺って今後の作品作りに生かしたいと思いますので、コメントか近況ノートにて教えていただければ本当に感謝する次第です。

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