親愛なる者2 ベイガン × 天音朝陽

 冥府。

 死者の魂がひととき、ここに留まる。


 しかし、周囲の風景は賑やかな蛇人族の祭りだ。蛇人族の祭りと言っても、エルフ族などの祭りと似たようなもので、彼ら一族の崇める神に対しての儀式のひとつである。

 鮮明に描き出される懐かしい風景。


 その賑やかな中を抜け、村の出口へと向かう一人の女性がいた。ウェーブのかかったロングヘアは濡れた漆黒であり、透き通る白い肌、そして恐ろしいまでに切れあがった眼差し。


 賑やかな祭りのなか、誰一人、彼女に気づくことはない。そう、この風景は彼女の心の中の記憶だから。


 私(作者・天音朝陽)は、ダークエルフの青年へと姿を変え、祭りの中を歩いていく女性に並び呼びかける。

「ベイガン、やはり君は奇麗な人だったんだな」

「誰ですか? 貴方はぁ」


「この世界を、君を生み出した創造者みたいなものだよ」

「あっはははは、つまらない冗談ですねぇ」

 ベイガンは口許を隠すようにして笑う。手の甲から、細くまっすぐに伸びた指先が美しい。

 ベイガンは、私をあまり相手にしたくない感じで歩き続ける。


「私は君に対して後悔の念しかないんだ。もっと悪い奴として描きたかったし、もっと主人公たちを苦戦させる存在にしてあげたかった」

 私は思いのたけをぶつけたが、やはりベイガンは私には興味がないようだ。


「なあベイガン、君は本当はどんな人物なんだ? 何が好きで、何が嫌いで、何をしたくて、何を愛する人物なんだ」

 彼女のもつ得体の知れない美しさ、それは美術品のような、しかし血のぬくもりのない不気味なものだった。

 その美しさを前にするたびに、私は彼女を知りたい、いや知らないといけないような気持に何度もさせられたものだ。


 ベイガンは冷たい瞳で私を見る。

「すごい矛盾してますねぇ、仮にも貴方が創造者ならば、なぜそんなこともわからないのですかぁ? 私のことを私より知っているようで、何も知らない。そして、世界を操れるような創造者のくせにぃ、なにひとつ操れていないではないですかぁ」


「うぐぐ」

 私は何も言えなくなった、鋭いところを突く奴だ。


 何もしゃべらずに歩き続けていると、やがて村の出口が見えてくる。


 僅かにベイガンは視線を前方から外す。

 外された視線の先には、祭りのなか手を取り合い走り回る、仲睦まじい幼い兄妹の姿があった。


(女の子は幼い頃のベイガンの姿? 一緒にいるのは兄なのか)

私は、胸が苦しくなり、掻きむしりたくなる衝動に駆られる。


 それでも言葉を投げかけた。


「ベイガン、君もわかっていると思うが、あの村の出口こそが『入口』だ」

「入口ですと?」


「そうだ、転生の門みたいなところだ、この記憶のなかの蛇人族の村を抜けたら君は転生する。生まれ変わり先がどこかはわからんが」

 私の想いをベイガンはどう受け取ったのだろうか。好意からのものだが、それを望まない者もいるのだ。


 一呼吸おいてベイガンは静かに笑う。切れあがった目が、やはり刃のように鋭い。

「次の生も、王国に滅ぼされた蛇人族の復讐にすべてを捧げましょうか、どこまで出来るかわかりませんけれどねぇ」


 人間の世界では醜いと評されたベイガンの容姿。

 しかし、この冥府で見る限り、その姿は美しいとしか形容できないものだった。


 私は、村の出口、つまり転生の門へと足を踏み入れるベイガンを静かに見送ることしかできなかった。


 どこかで、かならず会うことになる。

 次こそは、良いかたちで出会いたい。



 近況ノートにベイガンのイメージイラストを貼り付けております。

 興味のある方は会っていってやってください


https://kakuyomu.jp/users/jinsord/news/16817330666292221473




 ■

作者の地味なお願い。 

ここまで読んでいただいた方は、少なくともこの作品をある程度は読んでいただいたものと推測します、ありがとうございます。

貴方は作中キャラ「レヴァント」と「マシロ」どちらが好きですか?また「ミハエル」と「トロティ」ではどちらがお好きでしょうか?

そのあたりのご意見を伺って今後の作品作りに生かしたいと思いますので、コメントか近況ノートにて教えていただければ本当に感謝する次第です。

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