54 【【完結】】なんで、こうなったか分からないが、こうなった
レヴァントの攻撃でダウンしているトロティ秘書官にも、ポーションを手渡した。
トロティ秘書官の怪我がみるみる癒えてゆく。
「トロティ秘書官も、マシロに口移しでポーションを飲ませては?」
いたずらっぽく提案する。
マシロとトロティ、この二人の間に『何か』があったぐらいは俺でもわかる。
「おおミハエル殿、いいですね、それ」
聖堂の床に倒れ伏しているマシロが反応する。
「あ”あ”ぁ? 馬鹿か、ふつうにポーションを渡してくれ・・・」
聞こえていたのか恐ろしく静かに言う。
戦いの収束を確認したのだろう足音と共に駆けこんできたのは、ミヒナをかついだヒックスだった。
そして少し後から、サンヤ、さらには第二騎士団員と続いた。和解したのか第一騎士団の者もいた。
獣人ファーヴニルは結果を予想していたのか、最後にゆっくりと歩いてやってきた。
ネロスとベイガンの亡骸。
俺の側にたたずむレヴァント。
横になったマシロにポーションを飲ませているトロティ秘書官。
その場がやや騒然となったが、回復してきたマシロが状況説明をすると皆静かになった。
その面々を前に俺はレヴァントに向き合う。
「さてレヴァント、大事な約束を忘れているぞ。
勝ったほうは、負けたほうの言う事を聞くんだろ・・・?」
「わかってるわよ、・・・早く言いなさいよ」
なぜか照れるように、下を見て顔を赤くしている。
(なんだコイツ、何かを期待しているのだろうか?)
「レヴァント・・・」
「はい・・・」
もじもじとレヴァントは返事をする。
「俺達はとりあえず、王都から離れよう。
ネロスとベイガンを仕留めたとはいえ、お前も反乱軍の幹部とみなされている。大司教たちの暗殺までやってるんだ。そうだな・・・王国の再建はマシロ達にまかせよう」
「確かにね、女狐と秘書官クンは王国をきちんと再建してちょうだい、私が監視しているからね」
マシロは口元をむすんだまま悔しそうに、レヴァントを見返す。
トロティ秘書官は穏やかな表情でレヴァントを見つめている。
レヴァントが自分を蹴り上げたとはいえ、ネロス達がレヴァントの仇であると調べたのはトロティだったのだ。レヴァントの気持ちは理解しているようだ。
「で、ミハエル、あんたの要求は? 私にどうしてほしいのよ、早く言いなさいよ」
レヴァントはまた、照れるように下を見て顔を赤くしている。
すぅ~っ、と俺は息を吸う。一呼吸を置き本題を繰り出す。
「俺は王国を出て、プチトマト農園の大規模経営をしたい。ただ、資金を稼ぐのに時間がかかりそうだ。だから遺跡調査でもして稼ごうかと思ってさ。
レヴァント一緒に旅に出よう。二人で新しい人生を描こう」
(格好よく決まった。俺の夢は、ふたたたび動き出した!)
しかし、レヴァントの顔は鬼神のように怒っていた。
(何だ、どういう事だ?)
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ? プチトマト農園の経営だとぉ!却下する!
遺跡の調査? 何ふやけたこと言っているのよ! あんたは私と組んで傭兵団を作るんだ。あのジンが作りたかった最強の傭兵団をつくるのよ! そこから大陸の統一だ!」
大聖堂が静寂に包まれ、レヴァントの上に光が差したように見えた。
「おい、俺はお前に勝った・・・んだぞ。それに傭兵団をつくるにも、資金とか準備がいるだろう? 俺は、田舎で平和に暮らしたいんだ・・・お前と」
「心配はいらない、そう来ると思っていた。傭兵団設立に向けての資金は、私ががっつり蓄えてきたから問題ない。一緒には・・・暮らしてやるから安心しろ」
自信満々に答えるレヴァントに、何故か場に居合わせた一同もうなづいている。いや、違うだろ、皆、何かおかしいぞ。
「しっかり者のパートナーさんですね、嫉妬しちゃいます。騎士団員の中にも、ミハエル師団長について行きたい者はいると思いますよ」
サンヤが声をあげた。嘘だろ、サンヤお前は何を考えているんだ。
「レヴァントさん、ミハエル師団長! 俺はついていきます」
第一騎士団の者が数名名乗り出る。
「当然だけど、僕もね」
軽く手をあげるファーヴニル。
いやいや、ついてこなくていいからさ。
「資金面や新兵器の技術提供なら、いくらでも協力しよう」
魔導技術庁の天才ヒックスがそう言うと、十羽ほどの楽団オウムが聖堂の中に飛び込んできてファンファーレを歌い始めた。
(ええっ? 何この展開・・・)
レヴァントが俺を指さし、勝ち誇ったように胸をはる。
「ミハエル・サンブレイド!
王国を救った奇跡の英雄は、その後、傭兵団を率いて数々の功績をあげる。
そしてその傍らには、最愛の妻であるレヴァントの姿があった!
・・・きゃああああーーーっ」
一人でそう言って、一人で壮大に照れるレヴァント。何も言えずにいる周囲の面々。
(・・・・・・馬鹿か? こいつ)
なんで、こうなったか分からないが・・・、とにかくこうなった。
俺は、レヴァントの意向により傭兵団の団長になる運命らしい。
白目をむいて倒れたい。
***
戦いが終わった深夜。
グランデリア王国を外敵の侵攻から守るように取り囲む、数キロにもわたる城壁。
その城壁の上の物見台に、俺とマシロとトロティ(=トゥルアーティ)は立っていた。
三人は、奇跡を起こした英雄と聖女と、聖剣を持ち命がけで二人を支えた公爵ということになっている。
レヴァントは旅人の服装に着替えマントを羽織り、出発を待つように城壁の下で静かに座っている。
騎士団の者たちは、酒を酌み交わしながら騒いでいる。目にした奇跡に興奮が冷めやらないのだろう。
第一騎士団、第二騎士団、聖堂騎士団、マシロの奇跡により誰ひとり命を落とす事なくこの戦いは終わったのだ。
明日からは王国の再建に向けた激務が待っている、今は騒げるだけ騒ぐがいい。
その中でも、すでに王都民は夜通しで破壊された施設の復旧に当たっているようだ。
復旧に活気づく王都の街並みの灯りが力強い。
目を城壁の外へやると広大な大地と、近郊の都市の灯りが見える。
そして、はるか彼方には地平線が・・・。
この大陸では珍しく柔らかい風が吹いて、マシロの美しい銀髪を揺らす。
「マシロ・・・ついに王国の実権をとったな」
マシロは地平線を見つめたまま何も言わない。
「思えば、あんたがくれた王国での暮らしだったが、結局は礼らしいことは何もできなかったな。
傭兵団が壊滅したとき、俺たちを助けてくれて感謝している」
マシロは口角を上げると、首を左右に振る。
「それどころか、俺はレヴァントと傭兵団をつくる事になっちまった。今後もあんたを困らせるかもしれない」
少しの沈黙の後、マシロは俺を見る。
「かまわないわよ。互いの想いがぶつかるなら、戦うまでです」
マシロは穏やかに笑った。
その笑顔の奥には王国を守り再建し、より良くしていきたいという確固たるものが見える。
(想いか・・・)
マシロの言う『想い』という言葉の強さ。彼女のもつ想いの強さ。
傭兵団となった今後は、雇い主によっては王国の敵になるかもしれない。
王国に騎士団としていたころは、農園の経営を夢見ながら、ジンの仇討ちの機会を待ち続けていただけだった。
俺は、ただ剣の才能を生まれつき持っていた。奇跡を起こしたらしいが、狙って起こしたわけでもない。
ただの強い剣士・・・それだけの男にしかすぎない。
今の俺に、マシロの言う『想い』というものが、果たしてあるのだろうか?
『想い』が違うものであれば、戦うことになるのか?
「マシロ、やっぱり俺はあんたとは戦いたくないな・・・。
出来うる限り、俺たちの子供に戦争は見せたくないんだ。お前達の子供にもな」
「な、何を馬鹿な事を言っているのですか、・・・子供は、まだちょっと」
マシロはついトロティの顔をみて赤面している。
「マシロと共に騒乱をしっかりとおさめ、国の基盤を固めたら、それから・・・式をあげます。
ぜひ奥様とご出席ください。子供は、そのさらに後の話です」
トロティは落ち着いてそう答えると、マシロの肩を抱いた。
(なんだかんだで良い夫婦になりそうな二人じゃねえか)
「ああ喜んで、そのときは祝福させてもらうよ。レヴァントの野郎は何というかわからないけどさ」
レヴァントを『奥様』と呼ばれ、俺も少し照れてしまった。
「俺たちは旅立つ。マシロ、秘書官殿、二人とも元気でな・・・」
俺は、寄り添う二人を残すと、背中を向け歩き出した。
血みどろの激戦をくぐり抜けた間柄にしては、話すことが少なすぎる気がする。
一歩一歩、足元を確かめるように城壁の階段を降りてゆく。
華やかだった騎士団の暮らしに戻ることは、もうない。
踏み出し、階段を降りる一歩が、確実に二人との距離を広げてゆく。
王都の復興をはじめとして、とてつもなく大変な仕事が二人を待っているはずだ。
(俺は、逃げているのか?)
ふと何故か、そんな気になったりもする。元騎士師団長として、王国に対してなすべきことが何かあるんじゃないだろうか。
いや、それ以前に俺はレヴァントと向き合わないといけない。
俺のなすべきことは、いったい。
(まあ落ち着いたら、またどこかでゆっくり話せるさ、きっと)
星空が降りそそぐ。
二人を振り返ったとき、流れ星が見えた気がした。
なにか、気の利いた言葉を言いたい。
しかし、そういう言葉は、大事な時に思い浮かばないものだった。
■ レヴァント・ソードブレイカー 完 ■
*無事完結まで投稿出来ました。応援いただきありがとうございました。
*続編を希望される方はコメントいただけると嬉しいです。
もう少し番外編が続きます、作中キャラと作者の対談です。
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