51 レヴァントの洗脳解除なるか?

 さて、最後の仕事が残っている。

 ネロスを仕留めて、レヴァントを奪回せねば。


 目と目が合うと、マシロは力強くうなづいた。

「この大聖堂の中に、ネロスがいる。奴は傭兵団の仇だ、俺たちがもらうぜ」

「俺・・・たち?」

 マシロが不思議そうな顔をする。

「そうだ、奴は俺とレヴァントの獲物さ」


 マシロは、レヴァントの洗脳を解いた後に、俺とレヴァントでネロスを仕留める と考えたようだ。


 大聖堂の祭壇までには、長い石畳の廊下があり脇には円柱が並び立つ。壁には様々な聖人を描いた宗教画がかざってある。

 そういったものを眺めながら、俺とマシロとトロティは歩を進めていく。


 サンヤたち第二騎士団員は外で待たせた。下手に大人数で踏み込んだところで、ネロスやレヴァントはどうにかなる相手ではない。


 祭壇のある大司教の間の扉をあける。


『ゲルニカ大聖堂・大司教の間』


 天井には巨大な天窓があり、ステンドグラスを通して七色の光が降りそそいでいる。五百人ほどの人数を収容できる、荘厳な大聖堂だ。


 漆黒の鎧に身を包んだ騎士団総帥ネロスは祭壇に構え立っている。顔まで覆った兜で表情は見えない。

 ベイガンはその横でいつも通り書物を睨んでいる。

 聖歌隊のオルガンの鍵盤に突っ伏して寝ていた修道女が、眠たそうに体を起こす、・・・緑眼のレヴァントだ。


「来たかマシロ、うまく脱出したようだな。地下牢でおとなしくしていれば、もう少し長生きできたものを・・・」

 言うはネロス。


「あんな陰気な所にいられるわけないでしょ・・・。グォルゲイは始末したわ、ミヒナも奪還したとの報告を受けている」

 マシロの声に怒りが乗って来る。

「あなたには見事に嵌められたわ、決着をつける時がきたようね。『邪眼水晶核』は弾き飛ばした。王室と貴族達はもうすでに我々の側だ、あなたにはもはや何の後ろ盾もない、終わりだネロス」


「決着だと?マシロ、お前も面白いことを言う。

 こちらにはレヴァントという竜をも仕留める最強の暗殺者がいる。お前とミハエルを殺した後で、ベイガンと俺が変化の魔術を用いて、お前達になり変わればいいのさ。王はそのうち暗殺するさ」


「あまりにも稚拙な考えだな、ネロス総帥」

 俺は呟くと、ネロスの首を刎ねるべく床を蹴った。


 ガンッ!


 動きを合わせたレヴァントが体を押し当て、短刀で俺の剣を止めている。

(俺の斬りこみを止めるとは、さすがはレヴァントだ)

 緑眼のレヴァントと体を押し合うが、一歩引く。


 レヴァントの急所を斬らぬように、連撃を与えてゆく。

 魔術による身体強化が効いているのか斬撃を軽くさばいていく。

「邪魔をするなレヴァント。あいつが、ネロスが、ジンの仇だ! ようやくたどりついたんだよ! あいつがジンの仇だ!」



 しかしと、俺の目を見てレヴァントは答える。

「何それ? 騎士さん、この戦いに関係のない、つまらない事は言わないで」


 突如、空間に光の粒子があふれ出す。その粒子がレヴァントを包みこんでいく。


「捉えたわ!」

 マシロの声が響く、神聖祈祷の力で、レヴァントの全身の動きを一時的に止める。


 そこへトロティが突っ込み、レヴァントを後ろから羽交い絞めにすると叫んだ。

「やれ!ミハエル!『解除の指輪』の力を放て!」


 ヒックスから教わった簡単な省略術式を唱え、『解除の指輪』をレヴァントに向けてかまえた。


 バシュゥッーーーーーーーー!

 緑と青を混ぜたような光がレヴァントの体に直撃し、トロティは衝撃に思わず両腕を放してしまう。


「きゃあああああぁぁぁーーーっ!」

 レヴァントの体からドス黒い瘴気が立ち上り、がくりと片膝をつく。

 その状態から動かない。


「やったか、完全に正気を取り戻すのには、かなり時間がいるらしいからな」

 そう言い終わった時だ。


 レヴァントは、ゆっくりと立ち上がり顔をあげる。

 こちらを見ると眼を閉じ、頭に手を当て、ふるふると顔を左右に振る。


 レヴァントは、目を見開く。

「・・・ねえ、今のは何だったの? かなり痛かったんですけど」


(緑眼ッ!?)


 犬歯を見せて笑う彼女の眼は、いぜん緑色のままだった。


(解除の指輪が効かないだと? ミヒナには効いたはず!)




 ゴキャッ!

 傍らに立つトロティの顎に、低く這うような姿勢から上段蹴りが入る。

 修道服には腰からスリットが入っており、蹴り上げた細長い脚から白い下着までが見えている。

 トロティは糸が切れた操り人形のごとく、地面に倒れこむ。


「ぐうううっああ・・・!」

悶絶するトロティをレヴァントは見下ろす。

「手加減はしたつもりよ、首の骨は折っていない。貴方はもっと格闘術の稽古を積むべきね、これじゃ、愛する人を守れないわよ」

 そういうとレヴァントは、唖然とするマシロのもとに悠々と歩み寄る。


 マシロの正面に立つと自分の腰に手をあて、真下から値踏みするように顔を覗き込んだ。

「頭脳明晰、格闘能力のみならず魔術や祈祷もハイレベル、奇跡までもおこしちゃった。たしかに王国のカリスマかもしんないね?

 でも最後の最後、マジの勝負どころでは役に立たない・・・それが貴女よ」

「マシロ、逃げるんだっ!」

 俺は叫ぶが間に合わない。


 腹に打ち込まれたレヴァントの拳に反応し、とっさに掴むマシロ。それが精いっぱいだった。

 レヴァントのもう片方の手の平が、ゆっくりと丁寧にマシロのやわらかい頬に触れていた。

 レヴァントはニコリと笑った。


 バチバチバチィ!

 電撃魔術がマシロの顔に流し込まれる。

「あっ、がぁあああっ・・・・・・!」

「貴女ね、いっつも最後が甘いんだよ」


 力を抜かれたようにマシロが崩れ落ちる、立ち上がろうともがくが力が入らない。

「なにがカリスマだっつーの、弱ぇよ」

 修道女姿のレヴァントが、黒い革ブーツで聖女マシロの頭をぐりぐりと踏みつける。


 その姿勢のままレヴァントは、俺と目を合わせニヤリとわらった。


「騎士さん、降参しなよ。私の部下として使ってあげるから」

 ミハエルに話しかけてくる。



「かたき討ちなんてやめときな、いつまでも過去にこだわるなんて馬鹿らしいわよ。騎士さんの勝つ可能性はゼロよ」





 ◆ ◆


 いよいよ、あと三話で最終回となります。

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