39 『邪眼水晶核』は反体制ゲリラに奪われる

「師団長、大丈夫ですか?」

「マシロ様!」

 サンヤとトロティを先頭に両騎士団員たちが、駆け寄ってくる。


 ミハエルは、マシロの眼を見据えた。

「このレベルの魔物たちを呼び出すとは・・・。お前の意図ではないんだろ? 注意しろよ、お前の思惑とは別の方へ事態は流れている」


 それから、サンヤたち第二騎士団の方へ視線を移す。

「見事な働きだったぞ第二騎士団の皆、魔物の脅威から王都は守られた。だが、本当の戦いはこれからだぞ」

 ミハエルは強烈なまでの嫌な予感を感じている。


「本当の戦い?ですか」

 サンヤが深刻そうな表情を浮かべる。

「嫌な予感がする、反体制ゲリラが本気で仕掛けてくるだろう。俺はいったん、王都から脱出する。捕縛命令はまだ出ているんだろ? サンヤ、野営の準備をしろ! 俺を捕まえに来いよ」

 のらりくらりと喋っているようだがミハエルの動きは早い。


 騎馬にまたがると、王国の正門めざして駆け出していた。



 ―――ミハエルが駈けだした大聖堂前の一団、ここからはマシロ視点で物語は進行する。


「ああっ、待ってミハエル!」

 もう少し、彼と一緒にいたかった。

 事態が自分の思惑とはズレて進んでいる、得体の知れない不安が私の中に湧き上がってくる。


 ミハエルに相談すれば・・・

 ミハエルに頼りたい・・・


 竜の囮となるために、自らの腕を斬ったミハエルをかばうように抱きしめた。その感触が、まだ体に残っている。


 気が付くと、トロティが傍に立っていた。




 ドガアッ、グゴゴゴゴゴーーーーー!


 突如、ゲルニカ聖堂の上空から巨大な雷が十発ほど落ちた。

 

 いや、正確にはそれは雷ではない。

  王都の空が薄暗い紫色に包まれ、強烈な息苦しさを感じさせる。


(なんだ・・・、この邪悪な気配は)


 何かが邪悪な気配を漂わせ、ゆっくりと空に登ってゆき遙か上空で止まった。

 巨大な人間大の水晶を、両騎士団員は眼にしていた。


「あああっ・・『邪眼水晶核』・・・」

 マシロは、それを睨みつけるとそう叫んだ。


(ソレンの奴、『邪眼水晶核』を手にいれたか・・・・)


 反体制ゲリラは、警護についていた第一騎士団を打ち破ったというのだろう。王国最強の呼び声高い第一騎士団を。


 王都全体が恐怖に揺れたような気がした。

 民衆の叫び声があちこちで上がり始める。


 蛇の気配を感じた。


 気づくと私の両脇に、黒いローブを身にまとった魔術師が二人立っていた。魔術師ベイガンの部下だ。


「マシロ様、王都防衛の働き、実に見事です。ソレン指導長は『邪眼水晶核』の強奪に成功されました。今は暗殺者レヴァントと『騎士団の塔』にてお待ちです」

 

 行ってはならない! とばかりにトロティが首を左右に振ると耳元でささやく。

「あくまで僕の勘ですが、ソレンの動きはどうも不穏です。思い切ってミハエル師団長と共闘しましょう。『邪眼水晶核』を用いて王都を乗っ取ろうとするソレンを討つのです、大義名分はあります」


 しかし、私は首を振る。私にも意地がある、殺してでも手に入れようとした男といまさら共闘など出来ない。 


「聖堂騎士団は第三礼拝所にて待機せよ。私はトロティと『騎士団の塔』へ向かう。ミハエルの行く先もおさえておけ!」

 足を騎士団の塔に向ける。


 ミハエルの配下のサンヤが、私の前に膝をつく。

「我々第二騎士団は、王都から逃亡したミハエル師団長を追います」

 膝をついたまま各班に指示を出していく。

「ルカの隊は正門をおさえよ、通れさえすればいい! 野営の支度を整えしだいミハエル師団長を追う!」


立ち上がったサンヤは、顔つきを崩さず私の前に立つ。

「王国を思う気持ちは我々第二騎士団も同じです。どうか、ご無事で」



 手際よく去ってゆく第二騎士団を見送ると、再び上空に浮かぶ『邪眼水晶核』を睨みつけた。

 反体制ゲリラの指導者であるソレンの元へ行かねばならない。




 ◆ ◆ ◆


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