37 レヴァント・ソードブレイカー
俺(ミハエル)の視界は竜の返り血をあびたせいか赤く染まり、歪んでくる。
そのなかで、駆けてくる騎馬を捉えていた。
獣人が馬を駆り、赤い蠍の旗をかかげこちらに駆けてくる。
獣人? ワーウルフ?
「ファーヴニル!」
そして、その背中にはしがみつくように黒い修道女姿のレヴァントが!
(レヴァントォ! このクソ忙しい時に!)
しかし騎馬はそのまま、サンヤとトロティに斬撃を繰り出し続けるアイアン・ゴーレム二体に、吸い込まれるように斬りこんでいった。
レヴァントの攻撃目標は、どうやら俺ではないらしい。
さすがに、今レヴァントを相手にするのは至難の業だ。
騎馬から跳んだレヴァントは、空中でくるりと一回転し、アイアン・ゴーレムの肩にまたがると瞬時にゴーレムの兜の日射しを剥ぎとり、短刀を刺した。
同時に刀身がきらめき魔力が流し込まれる。
するとアイアン・ゴーレムは動きを止め、ただの鎧をまとった土人形へと戻り崩れてゆく。
「速っ、剣から魔力を流し込んだのか!」
ミハエルが叫び終わるころには、レヴァントは蛇のように地を這い飛び、もう一体のアイアン・ゴーレムに迫っていた。
右腕で体を支え右足、左足と時間差で低く蹴りを当て、ゴーレムのバランスを崩す。
そこから体を液体のようにべちゃりと密着させ、巻きあがり首まで這い登ると、兜の下から短刀を刺す。
レヴァントが跳んで間合いを取った時には、アイアン・ゴーレムは内側から音を立て爆発していた。
「うおお! あいつ、アイアン・ゴーレムをぶっ倒しやがった」
これは興奮を抑えきれねえ。
ファーヴニルは、目ざとくマシロの従者を見つけると、赤い蠍の旗を持ってくれと言わんばかりに渡している。
「姉さん、もうこの際なんだから旗なんてどうでもいいっしょ?」
そう言うファーヴニルを無視するように、レヴァントは壁際で気を失っているマシロのもとに駆け寄る。
そのまま、マシロの顔に足蹴りを食らわす。
「おい女狐、援護に来てやったぞ」
うう、とマシロは唸り声をあげた。
「・・・情けない、竜が相手とは言え指揮官が戦場で眠るんじゃねえ! 」
意識を戻したマシロに、懐から瓶入りポーションを数個取り出し手渡す。
「飲め、骨折くらいなら治る。コチラはとっくに作戦を完了させてるんだ、魔物の群れくらいサッサとかたずけてくれ」
動きを整えつつある竜を前に、黒い修道女の服を着たレヴァント・ソードブレイカーは堂々と歩をすすめていく。
「姉さん、武器の替えだ!」
ファーヴニルが投げてよこした新しい短刀を手に取ると、竜と俺の間に立つ。
レヴァントはちらりと俺を見る。
「誰だ、お前は?」
そう言い、俺を見据えた修道女レヴァントの眼は、強い緑の光を放っている。
彼女は、そのまま竜を見据えると短刀を目線の高さにかまえた。
魔力の注入された短刀が、ひときわ強く輝いた。
◆ ◆ ◆
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