29 レヴァント捕獲の作戦会議

 警備のピエロ人形に偽の身分証を見せ、魔導技術庁の一階へ入る。

 魔導技術庁の、特にこの一棟にはエリート魔術師が集められており、建物の中にも罠が張り巡らされている。


 さまざまな手順を踏まないと、目的の部屋まで進むことは出来ないようになっている。初めてここに来たときは迷宮か?と思ったものだ。


 ヒックスの部屋にノックもなしに入る。良い匂いがする。

 彼は女と二人で、ともに下着姿でコーンスープを飲んでいた。

 床には、クマイタチがのんびりと眠っている。


「ミハエル師団長じゃん! 無事、帰還されたのですね! ヒックス・ギルバート様の彼女ミヒナ・レグナードです」

 そそくさと私服を身につけたミヒナが元気よく立ち上がり敬礼する。

「おお、ミヒナじゃねえか、オッサンたち本当につき合っているんだな」

 このような普通の、日常のやりとりが俺は大好きだ。


 小奇麗な私服を着たミヒナは、可憐な町娘に見える。今の姿では、王国の第三騎士団の師団長と言っても通じないだろう。


「ミハエル、無事帰ってきたか。ん? お前、顔つきが変わったか?」

「ああ、オッサンただいま。無事、帰還できた。本当は昨日から王都にいたんだけど、いろいろあって」


 、というくだりにミヒナが飛びついてくる。

「ひょっとして、姉貴と甘~いひと時をお過ごしだったとか?」

 私ミヒナはヒックスと甘い一夜を過ごしました!という空気を懸命に出してきているが、そこはスルーしよう。

「それに近しい状況ではあったが、残念ながらミヒナの姉さんと特別いいことはしていないよ」


「そうですか・・・」

 本当に残念そうな顔をすると、ミヒナはヒックスの腹をつついて遊びだした。


 そういえばミヒナは騎士団の人間である。俺の捕縛命令を受けてはいるはずだが、捕まえる気どころか、通報する気もないようだ。

 そもそも、司法長官である父・グォルゲイの命令すら聞かないような女だ。



「ミハエル、さっそくだがレヴァントちゃんの洗脳解除についてだ」

 タイミングを見計らいヒックスが話しかけてくる。

「ああ、そこは頼るところがオッサンしかいない、話を聞かせて欲しい」


 ミヒナは、大事な話が始まったと思ったのだろう。腹をつつくのはやめ、

 ヒックスが部屋に増設したキッチンで、食器を洗い始めた。

 我儘にみえる女だが、こういう所はきちんとしていて好感をもっている。


「ものすごく単純に考えれば、洗脳改造と言っても、魔力による精神と肉体の強制操作の超高級版なだけだ。これはわかるよね」

「ああ、実にわかりやすい」


「レヴァントちゃんの<体に入った魔力>と<埋め込まれた思想部分>を抜いて、脳の破壊された部分を修復してやれば、理屈としては元にもどる」

「これもまた、わかりやすい説明だ」

 本当にそう上手くいくのか? は疑問だが、とりあえずは彼を頼るしかない。


「問題はどれくらいの魔力量がレヴァントちゃんの脳内・・・いや体内に注ぎ込まれているか?だ。おそらくだが、力量のある魔術師が、専門に強化された魔導具をもちいているだろう。俺一人の<魔力解除>の呪法では、洗脳解除は難しい」

「なるほど、予想はしていたが、そんな所だろうな」


「まあ、レヴァントちゃんを半年くらい眠らせたままで、毎日じわじわと<魔力解除>の呪法をかけ続ければ良いんだろうが、どう考えても現実的ではない」


 ヒックスは、窓際にいたオウムに一曲歌わせ始める。

 重みがあるものテンポがいい、今から冒険が始まります的な歌だ。


 曲と共に、彼は勇ましく以下のような説明をはじめた。


 ―――ところが、だ。

 ものごとは上手く出来ているもので、術としてかけられた負の魔力を分解中和する強大な力を持つ魔道具が存在するという。

 いや、魔道具の粋をこえた古代の神具といってもいいだろう。


 どのくらい強大なのか?

 聞いて驚くな、・・・いや驚け!

 それは都市ひとつにかけられた呪いを解除する程の力だという。


「聖眼琥珀涙―せいがんこはくるい―」

 光の天使・アールィファウエルの流した涙の一滴を、宝石と化した藍色の指輪だという。

 <魔女の呪いにより百年の眠りに落ちた都市を、目覚めさせた>という伝承もあるらしい。

ここは別に記憶する必要はない。


 名前が長く読み上げにくいので、今後は<解除の指輪>とでも呼ぶことにしよう。

 その指輪と、使いこなせる力量を持つ魔術師。つまりヒックスの力がレヴァントを元に戻すには必要なのだ。


 そして、解除の指輪を所持しているのは、ヒックスの叔母ディアマンテ・ギルバート、通称【ディディ・ギルバート】


 ―――その叔母こそ、グランデリア王国の超天才魔術師、かつ

 知る人ぞ知る王国の地下娯楽設備『闇オペラ』の支配人である。


 解除の指輪をかりるため、ヒックスはそこへミヒナと乗り込むという。



 ◇ ◇ ◇


次回から三話ぶんは[解除の指輪]を手に入れるためのヒックスとミヒナをメインとしたSS(サイドストーリー)的な展開となります。

ヒックス&ミヒナのペアに興味がない方は33話へ進んでもあまり問題はありません。


 ◆ ◆ ◆


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

 今回のエピソードを気に入っていただけましたら ♡や ☆☆☆で応援していただければとても嬉しいです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る