30 闇オペラ1 SS ヒックス&ミヒナ

 30~32話はヒックスとミヒナによるSS(サイドストーリ)です。レヴァントの洗脳を解くためのアイテムを手に入れる過程が描かれます。解除の指輪を入手したことを踏まえて33話へ読み飛ばしてもらっても問題ありません。


――― 


光の少ない通路に、壁が呼吸をするように動いている。

 蟲の呼吸のような観衆のざわめきが、地下深くから響いてくる。


 金貨十枚という高額な入場料を払い、地下の劇場への通路を俺(王国一の魔術師ヒックス)とミヒナの二人は歩いている。

 俺は騎士の姿、ミヒナは赤いドレスをまとった貴族へと、それぞれコスプレしているのだが・・・この闇の劇場には、男女ペアでないと入ることが出来ない。


「いつも、殺伐とした騎士団にいますんで、こういう恰好は新鮮ですわ」

 ミヒナは貴族娘のコスプレに、ご満悦のようだ。


 <解除の指輪>を借りる為には、叔母であり闇オペラの支配人ディアマンテ・ギルバートに会う必要があった。

 面倒くさいが叔母さんの相性はディディだ。


 どこから聞こえてくるのか分からないが、みだらな交合の声に合わせ管弦楽の荘厳なメロディーが低く流れている。


「やれやれ、この闇オペラの会場自体が巨大な魔法装置だからな・・・」

 あざとく抱きついてくるミヒナを軽くいなし、たどり着いた劇場の扉を開く。


 薄暗く瘴気をふくんだ劇場だ。そこには百席ほどのスペースがあったが、すでに満席だった。

 舞台上では、司会者らしきピエロが挨拶を始めようとしている。

 魔術の力で、声が拡声される。


 √はぎとられた毛皮に、爪と血で描かれた闇オペラの公演へようこそ。


 闇オペラの観客は、王都の裏社会の人間、退屈した貴族、上級の冒険者や傭兵など・・・腐り切った様々でございます。

 √皆さまは不道徳と背教と黒魔術などのあらゆる闇。そう、闇という当劇団の趣旨に、興奮し、感動し、恐怖したりされることでありましょう。

 √客席での薬物、飲酒、暴力、ピーは自由となっております。

 命の保証は致しかねます。

 精神と命はご自分でお守りください。

 では、素晴らしい夜を。


 そういうと司会者ピエロは、蒸発して消えてゆく。はじめて訪れたであろう観客が悲鳴をあげている。これも魔術を使った演出だ。


「ひぃぃ、ヒックス様、なんですか?このオペラは、悪趣味ですわよ」

「言ったろ。世界の裏側の闇を描く、闇オペラだ」

「それは聞きましたけど、想像以上ですわ・・・」


「・・・ミヒナ、お嬢様言葉はやめろ」


 舞台に、一人の美しいエルフの女王が、何人かの兵士に手枷をされて引きずり出されている。

 そこに、勇者の恰好をしたパーティがあらわれ、女王の服をはぎ取っていく。


「な、何を?」

 ミヒナが叫ぶ。これは舞台だろ、本当にやっているわけではない。

 静かにしてほしい。


「やれぇ、はやく犯ってしまえ」「やめて!勇者ともあろうものが一体何を!」「これを待っていたんだ」

 観衆は早くも盛り上がりをみせている。


 エルフの女王は一糸まとわぬ裸の姿を晒され、勇者の一行は薄ら笑いを浮かべながら彼女を鑑賞している。


(やれやれ、叔母さんに会うためとはいえ面倒な茶番をしないといけないのか・・・さてと)


 俺は観客席の合間を走り、舞台の正面に立ち叫んだ。

 ミヒナはしっかりと抱きかかえている。


「王国の名を汚す、偽物の勇者よ。我こそは王国の騎士ヒックス・ギルバート。エルフの女王は返してもらう」

 俺は剣を抜き構える。

 抱きかかえられ、まんざらでもないミヒナ。


 しかし、勇者一行から広いつばのある帽子をかぶった女魔術師が客席に向きを取る。

 観客席には緊張が走り、一瞬の静寂が場を支配する。


 舞台裏の楽団が一斉に演奏を始め、女魔術師は印を結び詠唱を始める。

「火炎攻撃呪文をくらいなっ」

 となえられた火炎呪文は、ヒックスとミヒナを一瞬のうちに灰にしていた。


「うわあ、人が燃えたぞ!」「魔法だ!すげえ!」「熱ちぃ!やべえよ!」


 現実に魔法が使用され、人が焼き殺される。それが、闇オペラ。

 観衆は大興奮のようだが・・・。



 ◆ ◆ ◆


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 闇オペラ編があと二話続きます。この闇オペラ編はストーリー上の鍵を握る『解除の指輪』を手に入れる話ですが、ヒックスとミヒナによるSS(サイドストーリー)に近いものがあります。

 

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