23 緑眼レヴァントは反体制軍の密会で狂気をはなつ


―――この話も、緑眼のレヴァント(=洗脳、能力強化状態)を主役に物語は描写される。


 密会。


 夜の闇がいかに濃いものであろうが、ここ教会組織のゲルニカ大聖堂の地下迷宮の持つ闇には遠く及ばない。

 石積みの壁に、石畳の冷たい床。

 おそらくはここは地下牢、拷問のための部屋として使われていた部屋だろう。


 床と壁には結界をつくる呪符が張り巡らされ、部外者による魔術による捜索や盗聴を防いでいる。


 反体制軍(=反体制ゲリラ)からは、指導者ソレンと副官二人が木製の椅子に腰かけている。

 聖堂騎士団長マシロと秘書官、そして魔術師ベイガンは椅子に座らず立って、机上の資料や地図を見ていた。


 そして、それらの人物とは別に、緑色の目をした修道女・レヴァントが、壁沿いの床に膝を立てて座っている。

 うつむきながらも、その両目には強い意志が感じられる。


「王国側は、我々が『邪眼水晶核』の強奪に失敗したと思っているようだが、王都に入れさえすればこちらの思惑どおりだ。カフカに置いたままでは、兵器として使えないからな」

 ソレンはいつもどおり、漆黒のローブに身をまとい、顔もフードで隠しており、声さえも魔術で変えている。


「ヒックス・ギルバートから入手した情報のお陰で、水晶核の解放術式はほぼ解明しておりますぅ。マシロ様の妹君に感謝しますよぅ。あとは実用化に向けての微調整ですねぇ、これがまた難しいぃ」

 魔術師ベイガンは、蛇のような眼をほそめて興奮をあらわにする。

 蛇人族である彼女の禍々しい妖気は、時にそれを美しさと錯覚させるものがある。


「『神の雷(いかづち)』としてぇ、兵器としての実用化ですねぇ、試算では確かに世界を十三回滅ぼせるだけの魔力を秘めているようですからねぇ、超古代兵器という呼び名どおり、これは楽しみですねぇ」

 ベイガンは舌なめずりをするように、喋りつづける。

 放っておくといつまでも話をつづけそうだと、マシロがさえぎる。



「ふむ、王国の対魔障壁を一時的に解除し、王都を怪物どもに襲撃させる。その混乱にのり『邪眼水晶核』をうばい、腐敗した要人と大司教を暗殺・・・か。対魔障壁の解除なら、たやすい話だ、任せてもらおう」

 マシロは資料に目を通し、そう答えた。



 マシロの藍色のフード付きローブには白い刺繍模様が施されており、長い銀髪にも藍色の髪飾りが、闇の中で輝いている。


 対魔障壁とは、このゲルニカ大聖堂の地下迷宮に据えられた『聖眼翡翠鍾(せいがんひすいしょう)』の聖なる力

―――『天使ニーナファウエル』の涙―――によって、王都に張り巡らされた魔物を寄せ付けない結界の事をさしている。



「『邪眼水晶核』は我が手勢の精鋭百名が押さえる。貧民街に『神の雷』を試しに落としてみる。どれだけの人間が死ぬか分からんが・・・、王都市民の命を取引材料に、王室は政治から退いてもらう。くっくっく」

 フードに隠れたソレンの表情は分からない。それでも、不気味な笑い声は、地を這うように響いていく。


「マシロ殿、そこから暗殺した大司教になり替わり『神の導き』として、この革命者ソレンに王国の指導権を授けてほしい」


 頷くマシロを横目で見ると、ソレンは黙々と言葉を続ける。

「新しい国家の誕生だ。私はグランドランス公国の宰相、貴女は正教会の大司教」

 マシロは静かに頷く。


 緑眼の修道女レヴァントが、床の上から顔も上げずにつぶやいた。

「・・・そこから超古代兵器『邪眼水晶核』を軍事力の要とし、大陸の統一を果たすわけですね」


「大陸の統一とは気が早いな、暗殺者レヴァントも」

 ソレンの副官がそう言葉を返すも、彼女は言葉を続ける。

「魔術師ベイガン、早く『邪眼水晶核』の解放術式を組み上げろ、それが終わらないと何も始められないだろが」


「はあぁ? なぜお前ごときからぁ指図をぉ、偉そうにぃ・・・ひぃあぁぁぁっ」

 ベイガンが悲鳴と共に、足元からよろけるように倒れた。

 両足のアキレス腱を切られ、激痛に目を見開き悶絶している。


「私に、反抗的な態度をとるんじゃない」

 緑眼に狂気を宿しレヴァントは、かすかに聞き取れる声でつぶやく。


「ベイガン!」

 マシロが叫び、秘書官と共に駆け寄った。


 いつ立ち上がり、ベイガンの足元を切ったというのか。

 短刀を抜いたレヴァントは、まだベイガンを見下ろすように立っていた。

 さらに、マシロに血の付いた切っ先を差し向ける。

「女狐、回復祈祷をかけてやれ、骨まで切っていない、すぐにつながる」


 秘書官が、苦しみに悶えるベイガンの両足を押さえると、マシロが祈りを捧げる。

 薄暗い地下牢に、輝く光が天より降りそそぐ。


 しかし、その光景には何の興味も示さずレヴァントは、短刀を白布でぬぐう。

 面倒くさそうに床に座り込んだ。




 ◆ ◆


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 主人公ミハエルの存在が薄くなっている気がしますが、次の次の回で帰ってきます。

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