22 緑眼レヴァントは王都へ帰還

―――ここからは、緑眼のレヴァント(=洗脳、能力強化状態)を主役に物語は描写される。


王都へは、ファーヴニルと地下水路から侵入した。


緑色に輝くその眼は、わずかな光で暗闇を見通すことが出来た。

複雑に入り組んだ迷宮のような地下水路も、王都建造時の資料を暗記しているレヴァントには問題なく突破できた。



そのまま真っ昼間の時間であったが、商人の屋敷に侵入し、おそらく娘のものであろう女性の派手なドレスと帽子を盗む。

殺生はしていない、誰ひとりとして気づかれずに仕事を終えた。



「ありがとう、ファヴ。お前のお陰で、誰も傷つけずにすんだ」

「お安い御用で!」


獣人が腰に手を当て、胸を張る。一見、ワーウルフ(狼の獣人)ぽい外見だが、彼の獣態はイタチである。


緑眼のレヴァントは何らかの任務についていたらしいが、その時の記憶はない。

そして、気づいた時にはどういう訳か、この獣人ファーヴニルが舎弟になっていた。

ここ最近の記憶はひどく曖昧だ。


忍び込む屋敷を、イタチの姿で先に侵入してもらい間取りを見てもらった。見取り図を作成してからの仕事は、驚くほどに容易なものだった。


街中を、若い女性が赤い皮鎧で歩くのは違和感がある。さきほど盗んだ、女性用のドレスのような衣装に着替えた。



レヴァントは王都の大通りを、獣人ファーヴニルを引き連れ、人々を振り向かせながら堂々と歩く。

王都で獣人の姿を見るのは珍しいが、貴族ではない身分の金持ちが護衛として連れているのは時々見かける。


決して目立ちすぎないが品の良い赤を主体としたドレス、つばが広い羽根飾り付きの帽子をかぶっているため、彼女は育ちのいい商家の娘に見えるだろう。

従える獣人の赤茶色の逞しい体躯、そして凛々しい顔立ち。


この二人からは並々ならぬ気高さを感じさせる。

彼女らが、人々の注目を浴びるのは自然な事かもしれない。


「ね、姉さん、こんなに堂々と歩いて大丈夫なのか?」

「何が?」


「今は、どっちの側に見つかってもヤバいんじゃ?」

「敵? なにビビってるの、顔バレもしてないのよ。それに、こんな王都の街中で誰か仕掛けてくるわけないでしょ」


「そうは言っても・・・」

「ま、襲ってきたとしても、こちらから出向く手間が省けていいんじゃないかな?」


「・・・」

「余っ裕で返り討ちにしてあげるわ」

たぎるような闘気をはらませ、拳を握りしめている。

ファーヴニルはこの時、レヴァントの顔が怖くて見ることが出来なかった。


しばらく歩き、両替商があった。そこで、レヴァントは持っていた幾つかの宝石を金貨に変える。


反体制軍の拠点に帰る前に、一日くらい豪華な宿でゆっくりしたい。

ちなみに反体制軍は、王国側からは反体制ゲリラと呼ばれているようだ。


(あっ、あそこは!)


『クリスタルヴェール・レジデンス』

そこは魔導技術庁が経営する、十三階建てドーム型の尖塔をいくつも持つ高級宿。

一階の豪華な扉は、左右に開き大通りに解放されている。


「最上階のスイートルーム頼むわ、私と従者で一泊ね」

受付に金貨を三十枚渡して、帳簿に必要事項を記入した。


「では、お部屋までは<転移>の魔術でお送りいたします。お部屋に出入り口の扉はございません。お帰りの際は、この魔導石をお使いください」

支配人が呪文を詠唱すると、二人は一瞬のうちに最上階の部屋のなかに移動していた。


「姉さん、すごい見晴らしだよ!王都が展望できる」

「私も、前からずっと、ここに泊まってみたかったんだよね」


真っ白なシーツのベッド、革張りのソファ、そして魔導書の本棚、さらには大きなお風呂まである。

生まれて初めて見る豪華な内装に、ファーヴニルは大興奮の様子だ。


レヴァントは彼を放置すると、支配人から手渡された魔導石を、鑑定している。

(なるほど、これは一度きりの転移魔法が使える石ね。なかなかの値がつく石よね、そして・・・この部屋は出入口がないので、敵襲の心配はないってことね)


さらに、レヴァントが注目したのは、備え付けの本棚。

(そして、なかなかハイレベルの魔導書も置いてある。古代兵器の文献もあるじゃん。ファヴが寝てからゆっくり見てみるか・・・さて)


レヴァントは、赤いドレスを脱ぎ白色の下着姿になる。

「ねえファヴ、ご飯の前に一緒にお風呂入ろうか?」

「えっ、おぉ風呂?」

獣人が少し取り乱す様子を見せると、レヴァントは頬をふくらませて吹き出した。


「ぷっ!」

(かわいいー!イタチ姿の時は平気で服の中に入って来るくせに!)


「冗談だけど、いや・・・別に一緒に入ってもいいわよ」

「いえいえ、僕も一応はオスの獣なので遠慮しときます・・・。ミハエルさんに悪いんで」


「・・・ミハエル?」


その名を聞くと、レヴァントの胸の奥に痛みに似たものが走った。

今は思いだせないようだが、彼女にとって、大切な存在なのだろう。


かすかな心の動きを見せるレヴァントを、ファーヴニルは優しい目で見る。


***


さて、旅の途中でファーヴニルは本来の状態時のレヴァント、つまり<茶眼のレヴァント>から現在にいたる事情を聞きいていた。

そして、いくつかの重要な指令を受けていた。


『王国第二騎士団長のミハエルを見つけ出し、こまめに連絡をとり、こちら(反体制軍=反体制ゲリラ)の情報を伝えること』

『ミハエルの周囲に危機があれば、優先して彼を補助する』

『万が一、レヴァントが命を落とした際、ファーヴニルはミハエルの配下になる』


ここまでは、ファーヴニルの理解の範疇であった。


『私の目的は、傭兵団を壊滅させた(と思われる)王国の打倒である』

『王国を打倒したら、ミハエルが私の洗脳状態を解除してくれる予定』

『最終目標は、私とミハエルの手による大陸統一』


ファーヴニルは震えた。やはり、姉貴はヤバい。


『現在、ミハエルとは将来について価値観の違いがあり、喧嘩中』


最後のひとつは、それを言うのに何の意味があるのかファーヴニルにはわからなかった。



◆ ◆


ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

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