19 ヒックスはミヒナにいちゃつかれる 王都帰還の旅

 さて、この19話は王国一の天才魔術師かつミハエルの友人【ヒックス・ギルバート】の視点で物語は描かれる。


 ***


「想像していた未来と、かなり違った」

 俺(ヒックス・ギルバート)は、誰にも聞こえない声で呟いた。


『恋人である女性に命を狙われる』というミハエルの熱く激しいシチュエーションに、わずかに憧れを感じたこともあった。

 それがいかに、愚かな願望であったか思い知っている。



 現在、遺跡都市カフカにおける超古代兵器『邪眼水晶核』の発掘調査を終え、王都へ戻る旅の途中だ。

 魔術による鉄壁の防御が施された魔導馬車には、古代の魔術書物が山積みされており、帰路の約七日間は研究に没頭する予定だった。


 しかし、どういう訳か俺の馬車には王国第三騎士団長の【ミヒナ・レグナード】が乗り込んでおり、熱心なスキンシップをはかられ研究に集中できないでいる。


(研究の時間が・・・、とれねえぞ)


 銀髪のショートヘアには青い髪飾りが光る。

 女性騎士用の甲冑は胸のふくらみが美しいデザインになっている。

 そのミヒナが俺の交際相手になった。

 俺が言うのもなんだが、外見は可愛らしく、プロポーションも申し分ない。


 カフカでの調査研究の警護として俺についているうちに、なぜか付き合う関係になってしまったのだ。


 正直、外見は最高に可愛い、外見は・・・。

 しかし

 馬車の周囲には、第三騎士団員の約百名が隊列をなし、不必要なまでの護衛隊列をくんでいる。

 戦争かっ? というまでの物々しさだ。

 この行軍に、どれだけの国家予算が無駄になっているのだろうかと思う。


 師団長の中には、予算節約のため一人でしか参加しないミハエルのよう奴もいる。

 まあ、それは極端な例だ。


 ちなみに、同行していた魔導技術庁のメンバーは、転移魔法で先に帰ってしまった。俺は、彼らの手荷物を運ぶ役割も兼ねている。



 さて、今日も馬車の中に一日中、ミヒナと二人きり。

 しかも、常にベットリ貼りつかれスキンシップを求められる状態は正直辛い。

 おかげで研究は、ほぼ進んでいない。


 一刻も早く『邪眼水晶核』の魔力開放術式を、解き明かす必要があるというのに。


 ***


「ミヒナちゃん、俺ちょっとばかり研究に集中したいんだが・・・」

 途端に愛くるしい、彼女の目が厳しくなる。


「はあ? 今、なんと? 私、ヒックス様の彼女ですよね、どうして『ちゃん』付けなのでしょうか?呼び捨てで構わないと何度言えばよいのでしょうか?」

 昼間からほろ酔い加減のようだ。

 こいつは、本当に王国の騎士師団長なのだろうか。


「・・・ああ、すまないミヒナ、とにかく、研究にだな・・」


「ちゃん付けとか他人行儀です。ミヒナで構いません。あ、そうだ、副官!ミニ樽の替わりを持てえ!」

 唐突に、ミヒナが叫ぶ。

 しばらくして騎馬に乗った副官が、ワインの入ったミニ樽を馬車の乗降口に置く。


 ミニ樽とは俺が考案した、冷気魔法を内蔵した小さい樽で、液体を冷温保存できる木製容器の事だ。魔導技術庁の研究開発と称して、予算をもらって作成している。

 今回の旅を満喫するために、他の馬車に三百樽ほど積み込んでいる。

しかし、その半分はすでにミヒナの腹の中に消えた。


「ヒックス様の冷気魔術のお陰で、旅中でも美味しいワインが呑めてミヒナは幸せですぞ!」

 グビグビと、まるでビールを飲み干すようにワインを飲む。


「おい、話聞いてるか? 研究に集中させろと言っているんだ。 昼間からワインを飲んでいる女騎士とか聞いたことねえ・・・」


(まあ、酔って寝てくれれば静かになるのだが)


 ピピー!

 突如、上空から緑色の伝言オウムが急降下してきた。ミニ樽のとなりに着地する。


「ヒックス様―、伝言オウムの帰還ですよっと」

 ミヒナが、ワインを飲みながらオウムの頭をつつく。

 オウムは伝言を喋り出した。


 ――――――あー、俺、ミハエル。王都に帰ったら、まっさきに寄るから。オッサンも暗殺されないようにな 

 ピー・・・。


「おおっと!やっぱミハエル師団長は生きてたんだ。さすが、姉貴が惚れた男、そう簡単に死ぬタマじゃあないね!」

 ミハエルとは師団長つながりで親交も深いのだろう、すごく嬉しそうにしている。


「まあな、あいつの剣の腕は大陸イチといっても過言ではないだろうからな」

「私も何度か手合わせしたけど、ミハエル師団長には余裕であしらわれましたからね」


「ほらほら~、オウムちゃん、ワイン飲む?」

 ミヒナは、伝言オウムにワインを飲ませようとしている。

「やめろっ、変なイタズラをするな!」

 くすっと笑うと、彼女がグラスを口に含む。


「『オッサンも暗殺されないようにな』ですって! 私が護衛してるので心配ご無用です」

 そう言うと、口移しで俺にワインを飲ませて来た。


「ヒックス様・・・安心して研究に集中してくださいね」

 ミヒナの目が妖しく輝く。

「ぐふっ、酔いが・・・」


(目が回る・・・眠い、わからない、何もかもがわからなくなってきた)

 とりあえず王都へ着くまで、研究が進まない事だけは決定している。




 ◆ ◆


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 今回はヒックスとミヒナの話でした。

 気に入っていただけましたら ♡や ☆☆☆で応援していただければとても嬉しいです。


 感想などをいただければ更に嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る