13 ミハエルとレヴァントの過去 前編―――傭兵団の壊滅1
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「やめろレヴァント。刃を収めろ」
「なぜだ!こいつらのせいで団は壊滅したんだろ、みんな死んだ」
激情をあらわにするレヴァントを、ミハエルは制止した。
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―――これは、今から八年前、主人公ミハエルの過去の話。ミハエル十三歳、レヴァント十歳、戦場における最後の記憶。
港町『タイド・ライディング』から北に二キロの地点。
報告に対して、傭兵団に緊張が走った。
「夜の闇にまぎれた所属不明の部隊、おそらく数は二千に囲まれています。それでも、手薄な箇所がいくつかあります。そこを突破できれば活路はあるかと」
「それも罠かもしれん、が。そこに賭けるしかないのか・・・」
斥候の報告に、傭兵団長のジンはそう答える。
夜明けまで、あと二時間というところか、まだ東の空に変化はない。
完全な王国側の裏切りなのか。
それとも反乱軍か、敵国軍か。
自分たちを取り囲む敵の素性が、まったく分からない。
王軍の依頼で敵国ザンブルグとの戦役に参加した。
依頼の最中、王軍のなかで反乱が発生した。
追加依頼で、その反乱軍の立てこもるニナハルク砦の攻略依頼を受けた。
夜襲をかけ、百人の反乱軍が守る砦を、三十人の傭兵団で落とした。
反乱軍は、かなりの手練れぞろいの兵だったが、ほぼ無傷で壊滅させた。
そこまでに傭兵団の戦力は鍛え上げられていた。
予定通りの撤退作業に入ろうとした際、謎の部隊に行く手を阻まれていた。
その異常な気配に、皆が気付いたのだった。
「ジン、王軍が何故、俺達を・・・」
「ミハエル。囲んでいるのが、王軍と決まったわけではない。思い込みで判断するな」
傭兵団の誰もが王国を信用していなかった。それでも、現在までは、持ちつ持たれつの関係でやってきたのだ。
戦場で死は理不尽なものとして、いつも目の前にあった。
それでも団員の誰一人として、今、目の前の理不尽な死を受け入れようとする者はいない。
ジンは静かに、俺の目を見る。
俺は、いつも言われている言葉を思い出す。
『ミハエル、団に何かがあった時はレヴァントを守り生きぬくんだ』
(なぜ、その言葉を今、俺は思いだすんだ!)
ジンに言葉を返そうとしたとき、周囲の空間が歪んだ気がした。
頭の奥に、重い何かが突き刺さった。
体が一気に制御不能になり、まともに立っていられなくった。
恐らく敵が、何らかの魔術攻撃をしかけている。
「魔術師まで動員してるのか、こちらの結界を崩しやがった」
ジンの叫ぶ声。
魔術に押さえつけられた体を、必死に動かした。
訳がわからないで立ちすくむレヴァントの元に走り、頭を抱えるようにしゃがみ込む。
鳥の群れが羽ばたくような音が聞こえる。
千本はあろうかという、矢が滝のように頭上より降ってきた。
レヴァントをかばったまま、降りそそぐ矢を片手で打ち払いつづけた。
「ミハエル!」
「レヴァント!」
隊の仲間たちの声が聞こえた。
ジンが、傭兵の仲間たちが、俺たちの盾になるように覆いかぶさってきた。
「やめっ、やめ・・・ろ!」
声が出せない、真っ暗闇だ、重い、動けない。
魔力で強化された矢が、雨のように降りそそぐ。
矢の一本一本が、仲間たちの鎧を突き抜ける。
重く刺さる矢は、俺たちの盾となった身体に、深く突き刺さる。
突き刺さる衝撃だけが伝わってくる。
その衝撃が、心をえぐるように伝わってくる。
(やめろっ、みんな逃げろ! 俺達なんてどうでもいいだろ、逃げろ!)
声を押し殺し、レヴァントが泣いているのが分かる。
意識が遠くなってゆく、傷は何ひとつ負っていないのに。
俺たちは、大切なものが暗く、重たい暗闇のなかに呆気なく崩れていくのを感じ続けるしかなかった。
気づいた時、陣幕の中でレヴァントと並んで寝かされていた。厚手の布を張った低い台の上だ。枕も添えてある。
外の様子は見えないが、陽は高く登っているらしい。
(ここはどこなのか。助かったのか?捕らえられたのか?)
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