8 魔導列車内で反体制ゲリラの襲撃にあう

正直に言うと、目がさめた時から殺気には気づいていた。


この車両の屋根の上。

そこにレヴァントがいる。

洗脳改造され、俺を殺そうと闘志を燃やしているであろう女がいる。



それでもずっと、列車の揺れに、身を任せ続けていた。


魔導列車は通常の蒸気機関で走る列車とは違い、魔導師が注入した魔力で走行する。

そのため蒸気機関が出す騒音や排煙がない。

鉄の車両がレールの上を滑る音と、乾いた風を切る音だけが聞こえてくる。


列車の天井と、床を交互に見ながら『どうしようか?』とぼんやり考えている。



―――ひたすら成り行きに任せて生きて来た人生だ。


気づいた時には戦災孤児だった。

俺とレヴァントは、赤子のころ傭兵団に拾われた。

共に、戦いに明け暮れた少年時代をすごした。


見て来たものは地獄の戦場だったが、傭兵団の暮らしには人のぬくもりがあった。しかし、傭兵団は十三歳の時に壊滅した。

俺はその仇を今も追っている。


―――傭兵団が壊滅した後は、孤児院に収容される。


孤児院の暮らしは、裕福ではないものの、平和で豊かなものだった。

戦いのない日常がどれだけ素晴らしいものか・・・、俺はそれを知る。


人間は・・・血に飢えた獣のような存在であってはならない、そう考えている。


――――十五になった時、ようやく志願していた騎士団見習いにスカウトされる。剣術の才能が評価されたのだ。


それから、知らないうちに、剣術の才能だけで騎士団の師団長にまで出世していた。

実は、さらなる出世の話も持ち掛けられている。


貯金をし、このまま田舎に領地をもらってから、レヴァントを迎えにゆく。

それから悠々自適のスローライフを送る人生設計だったのだが・・・。


(やはり、面倒はやってくるのか)


後ろの車両で、物音があった。

屋根の上とは別の重々しい殺気が、静かに立ち上がった。


車両連結部の扉が開く。

夜の乾いた風が、森の匂いと共に大きく入って来る。


第一騎士団ではない帷子(かたびら)に身を包み、剣を抜いた五人の剣士が入ってきた。

さらに後方にはローブをまとった魔術師らしきものが一人。


「王国一の剣士の俺に、魔術師まで雇って・・・何の御用ですかね?」


そう言って俺は気だるくも、ゆっくりと立ち上がる。

まだ、剣には手をかけない。

列車はちいさく揺れており、足場は平地でのそれとは違うが、俺には問題ない。


「『輝ける道』の戦闘部隊のものです、第一騎士団の方々には死んでいただきました。

『邪眼水晶核』は我々が預かります」


まさかの反体制ゲリラか・・・、しかし、どこで走行中の列車に乗り込んだのだ。

聞いても無駄だろうが。


喋ったのは前に立つ精悍な顔をした男。

第一騎士団の精鋭を倒すだけあり、なかなかの使い手に見える。

ほかのメンバーからも、死線を越えてきたような気配を感じる。


それでも俺にとって大事なのは、あくまで屋根の上で待っている女だ。


「なあ、上にいるのは誰だ?」

俺は天井を指さし、男の目を見る

静かに、剣に手をかける。


一度、列車が大きく揺れる。

男との間合いは五歩といったところ。


「我が隊の、指揮官かつ最終兵器ですよ」

言い終わるより早く跳び、その男の頸動脈を斬っていた。

そのまま通りすぎ、後列の魔術師の眉間にダガーを突きさす。

男と魔術師から血しぶきがあがる。


体の向きを反転させる。

最初に頸動脈を斬った男が倒れていく。

その横に立つ剣士の急所を帷子の隙間から刺しとおし、さらに一人を足払いで倒す。


遠心力が押しかかって来る。

列車がカーブを曲がり、剣士たちは重心を持っていかれる。

足払いで倒された男に、巻かれていくようにもう一人が体勢を崩す。


さらに二度ほど、列車が小さく縦に揺れる。

狭い列車の中を、五人で襲ってくるのは悪手だろう。剣を扱いづらいうえに、下手したら同士討ちになりかねない。


車窓から風が吹き込んできて、血の匂いを後方へ運び去る。

空気はどこまでも、乾いていくばかりだ。


刺した剣を引き抜くと同時に、正面に立っている男の顔面に拳を打ち込み戦意を削ぐ。

顔にかかった返り血をぬぐうと、三人が体勢を崩して手を突いているのが視界に入る。


一呼吸の間に剣を走らせ、足元の二人の首を斬り落としていた。

血の匂い。

床が赤く染まっていく。


(あと一人か)

重心を滑らすように移動し、立ち上がってくる男の後ろをとる。

首に腕をかけた感触から、なかなかに鍛え上げられた体だとわかる。


ゴキッ!

首に両腕を絡め、列車の揺れに合わせて頸椎を折る。

男は白目をむき崩れ落ちる。

まだ息がある魔術師と一緒に、とどめを刺した。


ふたたび一度、列車が大きく揺れる。

トンネルに入ったのか、風の音が変わる。


(ふうっ・・・)

深くため息をつく。


「とりあえず、屋根に上ってみるしかないか・・・」

血で滑らぬように気を付け、車両連結部に向かう。



ゴオォッ。

扉を開けると、トンネルを抜けた突風の音が耳を打つ。

夜の景色が一瞬で後方へ消えてゆく。

列車から落ちたら、ただじゃすまないだろう。


屋根への梯子に手をかける。ここも鉄製だ。

車輪の振動を感じながらも、一段ずつゆっくりと登る。


レヴァントが待つ屋根へ。



次回投稿は明日9月14日になります。

◆  ◆ ◆


 作者の 天音 朝日(あまね あさひ)です。ここまで読んでいただき本当に嬉しいです。

 50話ほど の話数になっており、2023年10月末あたりに完結します。


 このストーリーが面白いと思われましたら ♡や ☆☆☆で応援していただければとても嬉しいです。

 感想などをいただければ更に嬉しいです。


 つまらない、と思われた方も「次は頑張れよ」の意味で♡やご意見をいただければ、次回へのモチベーションになります。

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