7 魔導列車の戦い―『邪眼水晶核』は王都へ移送される

―――魔導列車。


闇の中を列車が走る。


車両には、魔法で灯された黄色い炎のランプがひとつ。

そして、例の巨大水晶がひとつ。


俺(ミハエル)は、膝を立てて座っている。

床は冷たい鉄製だ。

窓から入って来る、乾いた風。

心地よい揺れに身を任せ、いつの間にか熟睡していたようだ。


身に着けている騎士団の皮鎧は、軽く通気性も良い。

魔術による強化も施されており、実質的に鋼鉄製の鎧より硬い。


量産型の剣を一本と、懐には護身用のダガー。


目がさえている。

顔をあげ窓の外の空を見ると、列車は夜の闇のなかを走っている。

今は何時だろうか。時間を確認する手段がない。

それでも、明日の夕方には王都に到着するだろう。


魔導列車の重たい鉄の音が、一定のリズムを刻んでいる。

オペラの荘厳な演奏より、機械的で単調な音の繰り返しが好きだ。


ふと、オペラ好きなヒックスとマシロを思いだす。

(アイツらが並んでオペラを鑑賞することなど、絶対ないだろうな)

その場面を想像すると可笑しい、ひとりで笑ってしまった。



「しかし、物騒なシロモノが発掘されたものだ・・・」


俺の目の前にはおびただしい呪符が貼られ、さらには聖布に包まれた超古代兵器『邪眼水晶核』が鋼鉄台座のうえに置かれている。

搬送しているのは、水晶核の本体とその破片が十個ほどだ。


極秘裏に地下遺跡から搬送された『邪眼水晶核』が乗せられた魔導列車。

俺と第一騎士団の精鋭十名が乗り込み、王都へ向け出発したのは日没と同時だった。


水晶核の移送と、魔導列車の運用がスムーズに行われたのは、王国正規軍・騎士団・魔導技術庁の連携が上手くいっているからだろう。



手を伸ばし、聖布に包まれた破片をひとつ手に取ってみる。

素手で触れると、皮膚が焼けただれると以前ヒックスから聞いた。

拳の半分ほどの大きさだが、巨大な魔力を感じる。


『十二の翼をもつ堕天使ルシィ・クァエルの眼球』が結晶化したものらしい。


たしか、その堕天使と戦った正天使が『天使長ミクゥア・フーァエル』というらしく、俺の守護天使にあたるらしい。

これは、マシロがそう言っていた。

守護天使など信じていない。目に見えないものを信じるなら、大切な人たちとの気持ちの結びつきを信じたい。


窓から入って来る乾いた風を受けながら、昼間の話を俺は思いだしていた。



◇ここからは本日の昼間の話


―――極秘任務だ


昼間、カフカ遺跡調査団の本部。騎士団総帥・ネロスの詰め所に呼ばれた。

軽装の帷子(かたびら)に身を包んだ彼にそう言われた。


ネロスは王国にある第一から第六まである騎士団の総帥である。

彼自身も王国一と呼び名の高い精鋭・第一騎士団を率いている。

剣の腕とたぐいまれなる指揮能力をもって、田舎の地方領主の次男から騎士団の総帥にまで登りつめた男だ。


「王都へ移す?」

俺はしずかに聞き返す。


「『邪眼水晶核』は、本日中に魔導列車にてカフカから王都へ移す。俺の提案で、調査団長の承認ずみだ」


「ネロス総帥、私の現在の任務は?マシロの警護はどうなるのです?」

「後任は考えておくから、そこの心配は無用だ。それに調査団は、水晶核の移動と共に王都へ戻ることになる」


ネロスは話を続けていく。

「内部密告があった。・・・聖堂騎士団が、邪眼水晶核を『神の名のもと』に強奪しようとしていると」

「はあ、『神の名のもとに』ですか」


非常に面倒な言葉だ。神の名のもとに、歴史上どれほどの悲劇が生み出されたというのか。


「聖堂騎士団としては、危険なシロモノを王軍や魔導技術庁に持たせる訳にはいかないのだろう」

「それはそうでしょうが」

邪眼水晶核の保持をめぐって、教会組織と魔導技術庁は泥沼の政争のなかにいることは知っていた。


(それでも、違和感を感じる)


マシロが野心家とはいえ、配下を率いてまで露骨に武力で動くはずはない。

さらに言うと、こんな重大な情報をつかまれるとは考えにくい。


「王国側としては、教会組織とは揉めたくない。先手を打つ。反体制ゲリラも水晶核を狙っているとの情報もあるしな」

ネロスが言う。


「まあ、王都へ移せば、どちらも下手に手出しは出来ないでしょう」

「俺の第一騎士団の精鋭十名も、お前の護衛につける」


反体制ゲリラや聖堂騎士団が、走行中の魔導列車を襲撃して来るとは考えにくい。それに、第一騎士団の精鋭だろうが、俺にとっては足手まといだ。


「王国一の剣士のお前と、王国一の精鋭騎士団が護衛につけば、輸送は問題なく行われるだろう」

ネロスは俺を見てニヤリと笑った。

「了解しました」

敬礼して答える。


(王都への列車の旅を楽しむことにするか)


ヒックスと早目の夕食を共にすると、日没前、単身で魔導列車に乗り込んだのだった。

そして、現在に至る。



―――ただ、正直に言うと目がさめた時すぐに気づいていた。


この車両の屋根の上。

そこにレヴァントがいる。


洗脳改造をほどこされ、俺の命を淡々と狙う暗殺者が。




 ◆  ◆  ◆  ◆


 作者の 天音 朝日(あまね あさひ)です。

 ここまで読んでいただき本当に嬉しいです。


 50話ほど の話数になっており、2023年10月末あたりに完結します。


 このストーリーが面白いと思われましたら ♡や ☆☆☆で応援していただければとても嬉しいです。

 感想などをいただければ更に嬉しいです。


 つまらない、と思われた方も「次は頑張れよ」の意味で♡やご意見をいただければ、次回へのモチベーションになります。

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