2 幼馴染で暗殺者・レヴァントの想い

襲撃されたミハエルは王国一の天才魔術師に相談に行くことにした・・・


―――その前に、その襲撃をかけた幼馴染ヒロインの素性に 少しだけ目を向けてみたい。


―――物語はミハエルが襲撃された夜より、<一年ほど過去>にさかのぼる・・・。王国の西側クァール地区の、夜の森



グワシャ!

「リンゴのくせに生意気なのよ!」

思いっきり、太い樹の幹にぶつける。

大きめの赤い果実は、粉々に砕け散った。

レヴァントにとっては、気まぐれに巻き上げた戦利品だったのだが・・・ふと気づいてしまった。

(・・・私の胸より大きいなんて)


私も、もう十八歳になってしまった・・・。

ミハエルと再会するまでには、どうにかして胸を育成しておきたいところ。


蒸し暑さを感じ、黒頭巾をはずす。


額にかかってくる長い亜麻色(薄い栗色)の髪をかきあげた。

「ふうぅ」

漆黒の闇に、腰まで伸びた美しい髪が解放される。

修道服を改造した戦闘用の衣装は、夜の闇に溶けている。


「さて、気を取り直して、宝石!宝石!」


森の中へ入ると、小さな魔法の灯りをともし、立膝を突いて座る。

術式の詠唱、片手で印を結ぶ。

『解析』

緑の宝石は強い力を放つ。


「ほほう・・・」

こいつは強い回復系のエネルギーを秘めているみたいね。

帰ったら地下室で、詳しく調べてみるか。


修道院の地下室には、(なぜか魔術を忌み嫌う正教会に属する修道院なのに)古代の魔術の秘法が書かれた文献があり、独学で簡単な魔術を習得することが出来た。

さらに、古代の秘術についても詳しい知識を得ることが出来た。


「売っても良い値が付きそうだな」

今は、ミハエルとの将来のために少しでも資金が欲しい。

戦利品の宝石を掌の上でながめていると、ついつい口元がゆるむ。



―――かならず出世して、お前を迎えに来るから

孤児院を出るときの、ミハエルの言葉を何度も思いだす。


でも、私は呑気に騎士さまを待ち続ける『オペラのヒロイン』じゃない。

欲しいものは、命に賭けても手に入れるから。


(それに、なりゆき任せのアイツのこと、いつまで待たせられるか分かったものじゃない)


―――戦災孤児だったミハエルと私。

殺人、盗み、裏切り。

何でもありの戦場で育ち、傭兵団に拾われ私たちは出会う。

傭兵団の壊滅後も、同じ孤児院へ収容される。

孤児院でミハエルと過ごしたのは二年くらいだろう。


やがて、私は修道院へ、ミハエルは騎士団見習いとして王国へ・・・。


(どうしてミハエルは、戦災を引き起こした王国の騎士なんかになったんだろう・・・)


(必ずこのクソ退屈な修道院を抜け出す。そして、王国から、騎士団から、彼を奪い取る)


闇を照らす魔法の灯りを見つめる。


宝石を握りしめると、立ち上がる。


―――強くなる必要がある。

足元を確かめると、格闘術の型をいくつも繰り返した。

足音は消している。

暗闇の中、突き蹴りの風を切る音だけが響いていた。


魔法で灯した明かりを高速で移動させる。

上下左右、自由自在に。

それをすばやく突き、蹴りをあてる。

最後はふところから短刀を抜き、的確に刺す。


今日のクール・ダウン(整理体操)は、このくらいにしとくか・・・。



戦闘狂レヴァントの一番の楽しみは、先ほど実行し終えた『野盗』だった。

戦利品はさきほどの宝石と、砕け散ったリンゴだ。


朝が早い田舎の修道院は、遅くても皆が二十時には寝てしまう。

宿舎を抜け出すのは、あまりに簡単すぎた。


近くを通る街道は、王国の中でも主要な商路である。景気のよさも手伝い、深夜でも貴族や豪商の輸送隊が行き来している。

殺すと面倒なので、戦闘力の違いを見せつけ降参させるという方法を取った。


時には数十人の相手を、殺さぬように短刀と格闘術のみで圧倒するのは、まあまあの訓練になった。

さらに、恨みを買うと厄介なので、奪うのは宝石ひとつにしている。

今日みたいにプラスで何かを奪う時もあるが、それは気分次第だ。


(まあ、戦場で育った私には、輸送隊相手の戦闘など生ぬるいものだわ)

正直言うと、もう少し歯応えのある戦闘を積み重ねないと、私は弱くなってしまう。


暗闇に短刀を突き立てる。

サシュッ!

闇の中、落ちる木の葉を真っ二つにしていた。


格闘術、魔法の知識、資金、可憐さ(?)

ミハエルと別れ修道院に入ってから、私は努力で色んなものを積み上げて来た。


それでも、王国一の剣の才能を持つミハエル。

彼を自分のものにするには、まだまだ足りないように思える。


―――そう、ミハエルには剣の才能を越えた『何か』があるのだ。


カサカサ。


「キイキイ!」


(ん?)


ふと、足元をみると一匹のイタチがレヴァントに牙をむいていた。

(イタチは戦いの気に敏感な野獣だと、聞いたことがあるなあ。私の闘気に反応したのかしら)


ちいさな体、キツネ色の体毛を逆立てて完全に戦闘態勢だ。


「かわいい!こいつ、私に立ち向かってこようとしているの?」


イタチの姿が消える。

しかし、顔の正面に飛んだイタチを、レヴァントは瞬時に片手で捕らえていた。


「わたしに噛みつこうなど、百年早いよ」

もう片方の手で鼻ピンを軽く三発食らわせると、イタチは意気消沈したようだ。

逆立った体毛はしょんぼりと勢いをなくし、もはや従順な小動物と化している。


(やみくもに相手に立ち向かってはダメだぞ!)

眼を見て、お説教してやる。

(わかったか!)

ふわふわしたイタチを両手で包むようにし、顔をちかづけ左右に揺する。


(私の言いたいことは、たぶん伝わっているはず)


「強くなって、またかかってきな!約束だぞ」


イタチは「クゥ」とうなづいたようだ。

ふわりと地面におろしてやると、一目散に森の奥へ逃げていった。



―――

時間は現在へと戻る。


【しかし、なぜレヴァントは、ここまで想いを寄せる主人公ミハエルを襲撃したのだろうか?】



彼女から襲撃された主人公ミハエルは、翌朝・王国一の天才魔術師に、ことのなりゆきを相談することにした。



「暗殺者に襲われた、だと?」

こともなげに天才魔術師はそう言うのだった。







◆  ◆  ◆  ◆


はじめまして、天音 朝日(あまね あさひ)です。

ここまで読んでいただき本当に嬉しいです。



長年の夢だった、ファンタジー小説を今回、無事完成させました。

タイトルは流行りものを意識しましたが、内容は流行りものではなく古風なものです。


メインヒロインのレヴァントを気に入っていただけましたら ♡や ☆☆☆で応援していただければ嬉しいです。


感想などをいただければ更に嬉しいです。

つまらない、と思われた方も「次は頑張れよ」の意味で♡やご意見をいただければ、次回へのモチベーションになります。

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