第一章 王国一の剣士ミハエルは、超古代兵器『邪眼水晶核』をめぐる争いに巻き込まれる
1 幼馴染の襲撃をうけ暗殺されかかる
王都より北三百キロに位置する、遺跡都市カフカ。
人口はたしか八万ほど。
砂漠のオアシス沿いに、砂と石で建造された、遙か古代から栄えた都市だ。
この都市は、湿度はないものの気温が高い。
昼間の太陽の熱は、夜も地面に残る。
その夜は寝つきが悪く、俺は城塞の内側の道を散歩していた。
この任務がおわったら王都へ帰り、農園の大規模経営について勉強を始めようと楽しみにしている。
しかし。
「ここで、敵襲かよ・・・」
(警備の厳しい遺跡都市カフカに来てまで、反体制ゲリラのやつらが仕掛けてくるとは)
明確な殺気を感じる。
しかし、どこかで感じたことのある懐かしい殺気だ。
月明かりのない新月に加え、曇り空で星明りもない。
暗殺には丁度いい日という事だろう。
騎士団・第二師団長【ミハエル・サンブレイド】は石畳の道、石造りの建物、道の脇にそびえたつ城壁、四方に意識を張り巡らせながら、剣の柄に手を伸ばす。
念のために白銀の帷子(かたびら)を装備していて良かった。
「女?」
闇に緑色の目が光った。
姿をあらわしたのは、ひとり黒服に身を包んだ修道女(シスター)だった。
ブーツの足音を響かせ歩いてきた修道女は、一瞬の気迫を放つ。
その刹那、空間を切り裂くように、前傾姿勢で突っ込んでくる。
「速ぇっ!」
間合いへの侵入。
即、斬撃。
下から切り上げてくる短刀。
刃の風切音が、動作より遅れてきこえるほどに速い。
身を引いてかわすが、真横から水平に返してくる。
手甲を当て、彼女の手首を跳ね上げると、修道女も一歩引いて構えをとる。
短刀を弾き飛ばすことは出来なかったようだ。
その手には、白く光を放つ刃が今も握られている。
互いに重心を落として、にらみ合う形になった。
修道女の眼は緑色に光っている。
その見覚えのある瞳は、懐かしく、すぐには信じがたいものだった。
(レヴァント?)
なぜ、幼馴染の【レヴァント・ソードブレイカー】が俺を襲撃する?
共に戦場で子供時代をすごし、たしかに彼女はその後、修道院に、もらわれていったが……。
彼女が反体制ゲリラの刺客?
考えがまとまらない。
しかし、どこか・・・こういう悪い予感もあった。
修道女の放つ殺気がいちだんと濃くなる。
短刀を持つ手が動き、足首まである黒いスカートに、腰のあたりから切れ込みを入れる。
(ほう、スリット入れて動きやすくする訳ね・・・まあ)
「露出が増えていいんじゃね・・・」
つい俺は目を細め、つぶやいてしまうが。
(・・・と、呑気に構えていられないっ)
ブーツが石畳を蹴る音。
ザリッ!
小砂利が砕けるような音も混じる。
同時に、低い姿勢から短刀が弧を描き襲ってくる。
上げられた刃は、また振り下ろされる。
光の線が円をえがくように、連撃で来る。
俺はロンド(輪舞曲)を踊るように、かわしてゆくしかない。
刃風が舞う接近戦のなか、スリットから覗く脚線美に注意を奪われそうになる。
短刀の照り返した光が眼の前をかすめていく。
(あぶねえっ!こいつ本当にレヴァントなのか?)
集中力を高めると、仕方なく剣を抜く。
出来る事なら、彼女を傷つけたくないのだが。
「久しぶりの再会がこれかよ!」
叫んだ。
修道女は声に反応したのか一瞬動きを止める、返事はない。
すぐに、戦闘は再開される。
「やめろ! なぜ俺を襲う!」
剣と短刀の超接近戦。
遺跡都市カフカの乾いた空気の闇。
そのなかを無数の火花が散る。
上下左右の死角からくる短刀をはねのけながら、人気のない町はずれに誘導していく。
誰かが来ては面倒だ。
(しかし、王国最強の俺に、剣を抜かせるとは・・・、信じられない)
―――ミハエル、『負けたら、何でも言うことを聞く』っていうのはどう?
今でも、はっきりと思いだせる彼女の声。
いつも剣の勝負をしていた。
昔の話だ。
毎度、俺がわざと負けては無理難題をやらされたっけ・・・。
そう『俺たち』は、子供のころからの喧嘩相手。
たがいに格闘術の天才だったんだ・・・。
ただ、現時点のこの彼女の強さ、身体能力は尋常ではない。
修道院で剣技が覚醒?神の愛と慈悲を説く修道院で・・・?
ありえねえ。
消えた?
気づくと上空から、短刀を構え突いてきている。
かわす。
しかし、地面ギリギリの高さを滑るようにくる足払いを食らう。そこから短刀による突き上げ、姿勢を瞬間に取り直すが、腹に蹴りが入る。
「ぐはっ」
強い。
一瞬だが気を失いそうになる。
それでも、急所は外しているので問題ない。
「いいぜ、レヴァント。いい蹴りだ、褒めてやるよ」
恰好つけて喋ったら、間合いを詰められていた。
剣を振るえない。
体温が、黒い服をとおして伝わってくる距離。
修道女は高く掲げた短刀を、クルリと回転させ持ち直す。
(急所を突いてくる!)
体をぶつけて絡み合い、完全に間合いをつぶす。
擦れる修道服の布地をとおして、柔らかい彼女の肌を感じる。
(懐かしいな、この肌の感じ)
互いのまばたきが分かる程の至近距離に、顔が近づく。
呼吸を頬に感じる距離で、にらみ合う。
―――その時。
『かかって・・・こい、ミハエル!』
彼女の唇は、たしかにそう動いた。
地面を蹴り後方へ飛び、大きく間合いをとる。
互いに、はあっと息を吐く。
開いた空間に、再び視線が交差した。
「キィキィキィー!」
黒い塊が地を滑るように走り、修道女の腹に突っ込んでいった。野良猫ほどの大きさの獣だ。
グボッ!
「ぐはぁっ!」
彼女が胃液のようなものを、吐き出しているのが分かる。
(あれは!)
「レヴァント。よ~く聞け!そのケモノは、俺の援軍だ。
短い時間なら獣人化もできるぞ。
二対一になっちまったな!さあ、どうする?」
修道女の判断は素早かった。懐から拳大の包みを取り出すと、地面につよく打ち付ける。
ボウゥ!!
黒煙が一帯に広がった。四方を墨のように濃い煙がおおいつくしてゆく。
「煙幕かよ!」
完全に視界を防がれる。
警戒しながら剣を構えなおす。
町はずれから黒煙がはれた時には、もう修道女はいなかった。
警戒を解きながら下を見つつ、礼を言う。
「いやあ、助かったぜ、クマイタチ!」
クマイタチは知り合いの魔術師が飼っている獣人化もできる戦闘助手だ。
イタチの恰好をしているが、並みのイタチより二回りほど大きく、けた外れの戦闘力をもっている。
俺は、足元にすり寄っている、彼の頭を軽く撫でてやった。
さて・・・。
ここのところ、王国の要人が暗殺者から狙われる事件が多発している。
第二騎士団長の自分が狙われるのも、仕方のないことかもしれない。
しかし、殺しに来た暗殺者が幼馴染で、初恋のオンナとは・・・。
「さて、どーすりゃいいのか・・・」
クマイタチに語り掛けると、たくましい顔つきで「クォン!」と一鳴きして路地へ駆けて行った。
剣をなんどか布で拭き、寝床である騎士団の宿泊施設へと足を向けた。
明朝、王国イチの天才魔術師に相談してみるか。
自称ではない、誰もが認める・・・一風かわった王国イチの天才魔術師に。
◆ ◆ ◆ ◆
はじめまして、天音 朝日(あまね あさひ)です。
ここまで読んでいただき本当に嬉しいです。
長年の夢だった、ファンタジー小説を今回、無事完成させました。
タイトルは流行りものを意識しましたが、内容は流行りものではなく古風なものです。
50話ほど の話数になっており、2023年10月末あたりに完結します。
このストーリーや世界観が面白いと思われましたら ♡や ☆☆☆で応援していただければ嬉しいです。
感想などをいただければ更に嬉しいです。
つまらない、と思われた方も「次は頑張れよ」の意味で♡やご意見をいただければ、次回へのモチベーションになります。
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