第16話:夢の世界での邂逅

呆然としていると、人力車の向こうからわっと歓声が上がった。どうやらサイクロプスを討伐したらしい。

アーク公爵は手早く被害状況を確認し、誰も大きな怪我を負っていないことを確認すると再び屋敷へ向けて出発した。

オレはそれから、レイフォンもどきとは一度も会話をせず、人力車に揺られ続けるのだった。


◇ ◇ ◇


レイフォンは結局、子供のいない農家の夫婦の元へ預けられることになった。

これもシナリオ通りの展開だ。

これで、あいつと次に会うのは五年後のはずだが……どうなるかな。それまでにどんなイベントが起きるか分からない。


さて、これで本当の意味でオープニングイベントは終了した。

もう今日はこれといってすることもないから(というかネロオレが何かしようとするといちいち大事おおごとになる予感がしたから極力静かにしておいた)、本棚にあった書物を適当に読んで時間を潰す。

この世界の言葉が分かるからそうだろうな、と思ってはいたが、やはり文字も普通に読めた。無能の腐れ子息というハードモード転生を果たしたオレだが、自動翻訳スキルくらいは持っていたらしい。そこだけはありがとう、女神様。


子供向けの物語を数篇読んでいると、あっという間に日が沈んだ。

今日は色々とあって疲れてしまった。寝る支度をしてもう寝るかぁ。

歯を磨いて顔を洗って、ベッドに入って明かりを消す。

さーて、おやすみ~っと……


◇ ◇ ◇


目が覚めたとき、また転生したのかと思った。

オレはなぜか、十畳くらいの和室にいた。どういうわけか座布団の上に正座していて、目の前にはちゃぶ台が置かれている。

あまりにも意味が分からず、頬をつねってみる……お! 痛くない。

ははーん、じゃあこれは夢だな。

夢の中で「これは夢だ」と認識できる状態……明晰夢ってやつだ。ここまで意識がはっきりしているのは初めて体験するけど。

でもなんで和室? 

和室って意外と馴染みがないんだよな。実家は洋室タイプの戸建てだったし。

ともかく、せっかくの夢なんだから外に出てみようかな。空とか飛んでみたい。

オレが腰を上げたその瞬間、出入り口であるふすまがガタッと揺れた。

「うおっ」

誰かいるのか?

だが、それっきり襖からは物音がしなくなった。

「……? おーい」

ガタタッ!!

また揺れた。

「誰かいるのか?」

ガタン!

「いるなら返事してくれない?」

ガタッガタッ。

「……襖でじゃなくて、自分の声で返事してもらえる?」

無反応。

「……喋れないのか?」

これも無反応。

「…………それとも喋りたくないの?」

ガタタタッ!! ガタンガタンッ!!!

「過去一でかい音で返事するな!!」

なんだ、この襖の向こうに何がいるんだ!?


ええい、らちが明かない。

オレは勢いよく立ち上がり、思い切って襖に近付いて戸に手をかけ、一気に開く。

すると――


「あ、あぅ。い、いきなりは……卑怯……」


貞子みたいな恰好をした、長い黒髪の女性がそこに立っていた……誰これ?

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