第15話:周回者特権

「お前……呑気なもんだな。まるで他人事みたいに」

レイフォンの皮を被った目の前のぐーたら男……レイフォンの態度に腹が立ち、オレは思わず悪態をいた。

「まあ、実際他人事だからなぁ」

「……そうかよ」

もしこいつとネロが逆の身体で転生していたら……そう思わずにはいられない。

そしたら今頃、オレは主人公らしく果敢に立ち向かって英雄としての道を歩み、こいつはネロの身体で好きなだけぐーたら生活できていただろう。そっちのほうがお互いにとって良いことだったんじゃないか?

オレは苛立たしさを覚えながら人力車の座席にドカッと座り込むと――


「でもあのバケモンなら心配ないと思うぞ。すぐやられるだろうなぁ」


レイフォンもどきは鼻をほじったまま、そんなことをぬかしやがった。


何を馬鹿なことを。記憶喪失のお前にこの世界の何が分かる。

……そう言おうとしたが、奴があまりに確信を持った口ぶりだったから、オレはつい聞いてしまった。

「……何か根拠があるのかよ?」

「いやだって、あのバケモンより周りのおっさん達のほうが強いからなぁ」

「だからなんでそれが分かるのかって――」

「分かるに決まってるだろ? ステータス? ってのが書かれた画面が見えるんだから」

「ステータス? ……あ!」

こいつ、そんなチート能力を持ってるのか!


ゲームの世界ならあって当然のステータス機能。

プレイヤーは当然のように、自分や味方の能力を数値として見ることができる。

そして、このレイフォンもどきもそれを視認できるのだ。

いわば主人公プレイヤーだけの特権。立派なチート能力だ。


レイフォンもどきはさらに言葉を続ける。

「お前がこっちに逃げてきたのは正解だと思うぞ。お前のステータス、壊滅的だしなぁ」

「ぐっ……」

こいつは事実を言ったまでだから悪気はないんだろうが、グサリと来た。

まあ、とにかくレイフォンもどきの言葉は信用していいだろう。

味方と敵のステータスが見える男が断言するなら、このサイクロプスとの戦闘で調査隊員に負けはあり得ない。

……いや、待てよ?

「お前、のか?」

「ん? ああ。見えるなぁ。てか、最初っから見えてた」

おいおい……

それが本当だとしたら、レイフォンもどきが持っていたのはただのチートじゃないということだ。

オレは内心信じられない気持ちで、だが表では平静を装いながらさらに尋ねる。

「ところで、お前自身のステータスはどうなんだ?」

「ん~? いや、分からないなぁ。変な画面が出てないし」

「多分、自分のステータスも表示させることができるはずだ。やってみろ」

「やってみろったって、どうやって?」

「こういうときは『ステータスオープン』とかなんとか唱えるのが定番だけど」

「こうか? 『ステータスオープン』! ……おっ」

「出たか!?」

俺が勢い込んで聞くと、レイフォンもどきは目の前の空間を見て目を丸くしながら答えた。


「すげぇ、

「……!」

能力値がカンストしている。

なんたることだ。


『ルインズ・メモリー』では、敵のステータス開示機能は二週目開始の特典としてもらえる機能だ。

そしてレイフォンの能力値をカンストさせるには、ストーリーを何周もして能力値アップのアイテムを集めまくらなければならない。


間違いない。

このレイフォンは、ゲーム廃人の人間によって生み出されただ。

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